上 下
1,347 / 1,397
98章 とんとん拍子に準備は進む

1342. 指輪はひとつじゃないのか!?

しおりを挟む
 普段は見かけることがない指輪の形状を確認するため、イザヤ邸へ向かう。ぱちんと指を鳴らして転移したルシファーは、新婚家庭ということもあり門前に降り立った。いきなり他人の部屋や玄関に出るのは失礼だろう。

 ここで余談だが、魔族の新婚とは結婚後10年前後だ。しかし長寿な種族だと50年は新婚と称される。イザヤとアンナの夫婦は人間なので10年が適用されるはずだ。門をノックしていると、後ろを通りがかった獣人の奥さんがげらげら笑って扉を開けた。

「あらあら、魔王様。城下町の家は門の中に首突っ込んで呼ぶもんですよ。こうやって……アンナちゃーん! お客様ぁ!!」

 大声で叫んだ彼女のお陰で、アンナ嬢はすぐに出てきた。ご夫人に礼を言って中に入り、イザヤに会えるか確認した。突然来たので、仕事中ならまた改めるつもりだが……。

「あなたぁ! 魔王様がお見えよ」

 振り向くなり大声でイザヤを呼ぶ。これが城下町スタイルか。魔王城も問題が発生すると、侍従のコボルトが「大変です」と叫びながら突入してくるので、大差ないな。イザヤが出て来るまで、何となく空を見上げた。

 アスタロトが口煩くなったのも、ベールが厳しいのも、もしかしたらオレの所為じゃないか? 今頃になってそんなことを考えてしまう。

「ああ、魔王陛下。いかがなさいました? アンナ、お茶の準備をお願いできるか」

「はい。中へどうぞ」

 促されて室内にお邪魔する。双子は仲良く柵の中だった。木製の柵にしがみついて立ち上がろうと苦戦している。

「懐かしいな。リリスもこんな頃があった」

 近づくが手は貸さない。短い手を目いっぱい伸ばして裾を掴んで笑う幼子の頬を撫で、裾を返してもらうと勧められた椅子に座った。用意されたお茶は香ばしい匂いがする。リリスが好きそうなので、後で購入先を教えてもらう約束をした。

「それで、お茶を飲みにいらしたのではないでしょう?」

「口調が怖い時のアスタロトを思い出させるから、出来たら普通に頼む」

「わかりました」

 苦笑いしながら、口調を直したイザヤが新刊を一冊取りだした。シルエットが意味深なあの本だ。

「これが問題になりましたか?」

「いや……この本の中に描かれる指輪について聞きたい」

 きょとんとした後、離乳食の果物を擦っているアンナが呼ばれた。イザヤが手短に説明し、アンナが絵に起こしていく。あっという間の作業だった。やや茶色がかった紙に描かれたのは、丸い輪だ。指のサイズに合わせるのは分かる。問題は裏側に何か文字が刻まれているような表記だった。

「これが結婚指輪です。日本では婚約指輪もあります」

「婚約と結婚で二度贈るのか」

「ええ、婚約指輪は宝石を載せたデザインが多いですね。結婚指輪は離婚するまでずっと着けるので、宝石は埋め込んだり、裏に愛の文字を刻んだシンプルな形です。日常生活に支障がないことが条件です」

 説明に頷く。理にかなっている。婚約は結婚を願う男から女へ求愛の証として献上されると理解した。つまり貢ぎ物だ。アムドゥスキアスが洞窟に貯めた財宝と同じか。ルシファー自身も、己の持つ金貨や宝石類を半分近くリリスに譲っていた。

「婚約指輪は間に合わないか」

「今のうちに作って嵌めてもらえばいいじゃないですか」

 アンナが笑顔で提案する。それから彼女が見せてくれたのは、小ぶりな宝石が乗った指輪と己の左手だった。婚約指輪は誕生石である紫水晶が飾られている。左手の薬指に通した指輪を外して見せてもらうと、内側に文字が刻んであった。

「なるほど。婚約指輪の宝石に意味はあるのか?」

 以前に褒賞の一部として宝石をいくつか渡したのに、紫水晶を選んだ理由が気になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。

112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。 目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。  死にたくない。あんな最期になりたくない。  そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。

【完結】虐げられた令嬢の復讐劇 〜聖女より格上の妖精の愛し子で竜王様の番は私です~

大福金
ファンタジー
10歳の時、床掃除をしている時に水で足を滑らせ前世の記憶を思い出した。侯爵家令嬢ルチア 8さいの時、急に現れた義母に義姉。 あれやこれやと気がついたら部屋は義姉に取られ屋根裏に。 侯爵家の娘なのに、使用人扱い。 お母様が生きていた時に大事にしてくれた。使用人たちは皆、義母が辞めさせた。 義母が連れてきた使用人達は私を義母と一緒になってこき使い私を馬鹿にする…… このままじゃ先の人生詰んでる。 私には 前世では25歳まで生きてた記憶がある! 義母や義姉!これからは思い通りにさせないんだから! 義母達にスカッとざまぁしたり 冒険の旅に出たり 主人公が妖精の愛し子だったり。 竜王の番だったり。 色々な無自覚チート能力発揮します。 竜王様との溺愛は後半第二章からになります。 ※完結まで執筆済みです。(*´꒳`*)10万字程度。 ※後半イチャイチャ多めです♡ ※R18描写♡が入るシーンはタイトルに★マークをいれています。

処理中です...