上 下
1,335 / 1,397
97章 世界の裂け目を潰せ

1330. 魔王城のルーズな一面

しおりを挟む
 リリスを説得し、ルシファーが責任をもって荷物を運ぶことで決着した。魔族の中でも一割ほどしか使える者がいない転移魔法を、荷運びに使うのは魔王くらいだろう。もっと簡単な収納を利用するのが一般的だった。だからこそ、各種族の領地と魔王城を繋ぐ転移魔法陣は価値が高いのだ。

 非常識な方法で解決を図ったルシファーは、歩いて移動しながらベールに事情を聞く。距離が近いこともあるが、この話を聞く時間を稼ぐのが目的だった。

「中庭で料理の何が問題なんだ?」

「リリス様の爆発癖をお忘れですか。まったく要素のない魔法や料理でも爆発します。プリンを作って鳳凰の雛を孵したのは、有史以来彼女だけです」

 根拠が思ったよりしっかりしていて、反論のしようがない魔王は沈黙する。確かにリリスが料理をすると、爆発する確率が高い。割れた壺の修復用に作った復元魔法陣がこれほど普及したのは、リリスが爆発させたオーブンなどを修理するためだった。

「それだけではありません。リリス様が料理を始めれば、当然、城内や城下町の者が集まってきます。中庭は狭くて危険でした」

「なるほど」

 リリスや大公女は民の人気も高い。彼女らが自ら手料理を振舞うとしたら、それが見知らぬ料理でも並ぶだろう。城門をまたいでの行列はトラブルの元になるし、屋台も出店したがるはずだ。混乱が予想される。

「ベールが転移させればよかったじゃないか」

 何もオレが戻るまで待っていることはない。そう告げると、大きく溜め息を吐かれた。何か間違ったか? 首を傾げて純白の髪を揺らす魔王の腕で、レラジェはうとうとと船を漕いでいる。髪を握った指を口に入れてしゃぶりながら、目は閉じてしまった。

「レラジェを寝かせる場所はあるか?」

「それでしたら客間に……もっと早く仰ってください」

 逆方向だと気づいて眉を寄せるベールだが、通りがかったコボルトに頼むことにした。侍従であるベリアルが助けを呼び、数人がかりで担いで運ぶ。魔法で支えておいたので、落とすこともない。幼子を見送って、城門をくぐった。

「……早いな」

 中央付近に下ろしたリリス達を囲むように、すでに屋台が数件出ていた。情報を流す専門業者が魔王城内にいるのでは? と疑うほど仕事が早い。

「どこから情報が洩れているのでしょうか」

 同様の感想を持ったベールと不思議がるが、犯人は目前ではなく頭上にいた。短い羽でくるくる飛び回る青い鳥、ピヨ……彼女が犯人である。とにかく口が軽く、フットワークはもっと軽い。ひとっ飛びで魔王城から城下町に向かい、いつも余り物を分けてくれる屋台の主人に情報を漏洩していた。

 当然、まだ気づかない魔王城の重鎮達は犯人を捜す予定を立てる。その頭上で、ピヨはご機嫌だった。

「アンナ達にレラジェを寝かせた部屋を知らせておくか」

 さらさらと手紙を書いて飛ばす。風に乗せた手紙は舞い上がり、その上で旋回中の鸞が見つけて火を吐く……。

「ピヨ、それは手紙だ」

 注意は遅く、勢いよく燃え上がった。舌打ちして復元した手紙を、今度は転送した。魔力が薄い日本人を探すのは面倒だが、燃やされるよりマシだ。ちなみに日本人を魔力だけで特定するのは、魔王や大公くらいしか出来ない技だった。

「ルシファー、手伝って!」

「わかった」

 足早に向かったルシファーに、リリスは平然と用事を言いつけた。

「タコを捕まえてきて頂戴!」

「持ってるぞ」

「たくさんいるの。捕まえてきて」

「びっくりするくらいの量を持ってる」

「「……」」

 互いに顔を見つめたまま動きを止める。鉄板を炙るかまどを作るルーサルカが振り返り、上に鉄板を置いたレライエも凝視した。

「ひどいわ! ルシファーったら、一人で海へ行ったのね!!」

 リリスの結論は斜め上だった。ルシファーは慌てて言い訳を始める。仕事で出向いた先でヤンが襲われた話を出すと、駆け付けたヤンに妨害される。遠吠えして話を掻き消そうと試みるフェンリルは、リリスに「静かにして」と叱られて尻尾を垂らした。

 哀れ、フェンリルの威光は地に落ちる。といっても、すぐに復権するのだが……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】虐げられた令嬢の復讐劇 〜聖女より格上の妖精の愛し子で竜王様の番は私です~

大福金
ファンタジー
10歳の時、床掃除をしている時に水で足を滑らせ前世の記憶を思い出した。侯爵家令嬢ルチア 8さいの時、急に現れた義母に義姉。 あれやこれやと気がついたら部屋は義姉に取られ屋根裏に。 侯爵家の娘なのに、使用人扱い。 お母様が生きていた時に大事にしてくれた。使用人たちは皆、義母が辞めさせた。 義母が連れてきた使用人達は私を義母と一緒になってこき使い私を馬鹿にする…… このままじゃ先の人生詰んでる。 私には 前世では25歳まで生きてた記憶がある! 義母や義姉!これからは思い通りにさせないんだから! 義母達にスカッとざまぁしたり 冒険の旅に出たり 主人公が妖精の愛し子だったり。 竜王の番だったり。 色々な無自覚チート能力発揮します。 竜王様との溺愛は後半第二章からになります。 ※完結まで執筆済みです。(*´꒳`*)10万字程度。 ※後半イチャイチャ多めです♡ ※R18描写♡が入るシーンはタイトルに★マークをいれています。

【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。

112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。 目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。  死にたくない。あんな最期になりたくない。  そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。

処理中です...