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97章 世界の裂け目を潰せ
1328. 自動化にこだわりました
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新たに発見した裂け目は甘い香りを漂わせながら、ゆらゆらと不安定に揺れる。ヤンは本能的な恐怖を感じて目を逸らした。ルシファーは怪訝そうに眉を寄せ、ぱちんと指を鳴らす。この裂け目の周囲に結界を張ったのだ。
甘い匂いに害がなければいいが、どのような効果をもたらすか分からない。現状では遮断が一番の安全策だった。
「頭が痛くなる匂いだよ。何か混じってるね」
竜族は魔獣と同様鼻が効く。そのためルシファーより早く違和感を覚えた。気持ち悪いと呟きながら、状態異常の解除魔法を自分にかける。ついでに後ろで蹲るヤンにも適用した。
「ありがとうございます。助かりました」
「いいよ。ルシファーは鈍感だからいいけど、僕らは繊細だからしょうがないよ」
「なぜオレが責められる?」
くすくす笑うルキフェルの額を小突いて、ルシファーは無言のレラジェを気遣った。まったく影響を受けていないらしく、きょとんとしている。髪を撫でて飴を取り出した。リリスの時同様、口に入れてやる。嬉しそうに頬を緩めるレラジェは、繋いだままの両手を揺らした。
「作業をする間、ヤンと待っててくれるか?」
レラジェにそう提案すると、大喜びでヤンの上によじ登った。こういうところはリリスの幼い頃にそっくりだ。魔の森の子は皆同じような性質を持つのだろうか。リリスの色を持つ、ルシファーの外見の子どもはヤンの背中にしがみついた。
「これはどっちだ?」
「匂いは向こうから来てるけど、こちらから魔力を吸ってると思う」
確定ではなく曖昧な答えになったのは、その量があまりに微量だからだ。ほとんど動いていないが、緩やかに吸い出されている。早めに閉じようと決め、基本となる魔法陣を調整した。今回は魔力が足りないので、ルシファーが供給する。改良したので魔力量は少なくて済む。さっさと塞いで、次の裂け目に対応しなくては。
「いくぞ」
翼を2枚だけ広げて魔力を流すが、過剰供給だったらしい。あっという間に消えた。見回すが他に裂け目は見当たらない。今後のために、魔王軍への指示に「目視での確認要す」を追加するよう報告書を作り、城門へ転送しておいた。
「さて、残りも片付けるか」
「早くしないと夕飯までに帰れなくなる」
ルキフェルとルシファーは頷き合い、ヤンとレラジェを連れて、次の地点へ飛んだ。その後は報告にない裂け目を発見することはなく、順調に塞いでいく。転移での移動を繰り返したため、想定より早く作業を終えた。
ここからが彼らの悪いところだ。終わったのなら城に戻ればいいのに、砂浜でレラジェを遊ばせながら休憩を始めた。ヤンがレラジェを見ているので、危険はないだろう。子狼の面倒を見ることに慣れたヤンは、適度に自由にさせながらも危険を感じると遠ざけてくれる。
「裂け目周辺の異常や空間の歪みを感知する魔法陣を作りたいんだよ」
「どうせなら、裂け目を塞ぐ魔法陣を自動化できないか? そうしたら感知した直後に展開して、塞ぐことができる」
危険度が下がると提案すると、複雑すぎる回路を思い浮かべたルキフェルが唸った。
「そこまで複雑だと、誤作動の心配があるよね」
「裂け目を感知したら通知する。それで我々が目視してから遠隔はどうだ?」
「……それは自動じゃない」
研究者として中途半端な理論を提供するのは、プライドが許さない。そんなルキフェルの言い分もわかるが、事はこの世界の存在に関わってくる。偶然見つけた裂け目は何かを流し込んでいた。それは鼻の効く種族に影響を与える何かだ。知らない間にそういった危険物が蔓延する可能性は排除したかった。
「歪みや異常を感知したら情報を送信、その情報を精査する魔法陣を間に挟んだらどうか」
塞ぐか放置するか、判断する基準を魔法陣に刻む。その結果を元に、自動で遠隔操作された魔法陣が穴を塞ぐ。これならほぼ自動化したと言える。その上、情報管理の魔法陣を魔王城に置くことで、監視も管理も可能だった。
「うん。やってみる」
妥協案で納得したルキフェルが顔を上げると、ヤンが巨大海洋生物に襲われていた。ぎゃん! 悲鳴を上げたヤンが引き摺られていく。魔王と大公は期せずしてハモった。
「「ヤン?」」
甘い匂いに害がなければいいが、どのような効果をもたらすか分からない。現状では遮断が一番の安全策だった。
「頭が痛くなる匂いだよ。何か混じってるね」
竜族は魔獣と同様鼻が効く。そのためルシファーより早く違和感を覚えた。気持ち悪いと呟きながら、状態異常の解除魔法を自分にかける。ついでに後ろで蹲るヤンにも適用した。
「ありがとうございます。助かりました」
「いいよ。ルシファーは鈍感だからいいけど、僕らは繊細だからしょうがないよ」
「なぜオレが責められる?」
くすくす笑うルキフェルの額を小突いて、ルシファーは無言のレラジェを気遣った。まったく影響を受けていないらしく、きょとんとしている。髪を撫でて飴を取り出した。リリスの時同様、口に入れてやる。嬉しそうに頬を緩めるレラジェは、繋いだままの両手を揺らした。
「作業をする間、ヤンと待っててくれるか?」
レラジェにそう提案すると、大喜びでヤンの上によじ登った。こういうところはリリスの幼い頃にそっくりだ。魔の森の子は皆同じような性質を持つのだろうか。リリスの色を持つ、ルシファーの外見の子どもはヤンの背中にしがみついた。
「これはどっちだ?」
「匂いは向こうから来てるけど、こちらから魔力を吸ってると思う」
確定ではなく曖昧な答えになったのは、その量があまりに微量だからだ。ほとんど動いていないが、緩やかに吸い出されている。早めに閉じようと決め、基本となる魔法陣を調整した。今回は魔力が足りないので、ルシファーが供給する。改良したので魔力量は少なくて済む。さっさと塞いで、次の裂け目に対応しなくては。
「いくぞ」
翼を2枚だけ広げて魔力を流すが、過剰供給だったらしい。あっという間に消えた。見回すが他に裂け目は見当たらない。今後のために、魔王軍への指示に「目視での確認要す」を追加するよう報告書を作り、城門へ転送しておいた。
「さて、残りも片付けるか」
「早くしないと夕飯までに帰れなくなる」
ルキフェルとルシファーは頷き合い、ヤンとレラジェを連れて、次の地点へ飛んだ。その後は報告にない裂け目を発見することはなく、順調に塞いでいく。転移での移動を繰り返したため、想定より早く作業を終えた。
ここからが彼らの悪いところだ。終わったのなら城に戻ればいいのに、砂浜でレラジェを遊ばせながら休憩を始めた。ヤンがレラジェを見ているので、危険はないだろう。子狼の面倒を見ることに慣れたヤンは、適度に自由にさせながらも危険を感じると遠ざけてくれる。
「裂け目周辺の異常や空間の歪みを感知する魔法陣を作りたいんだよ」
「どうせなら、裂け目を塞ぐ魔法陣を自動化できないか? そうしたら感知した直後に展開して、塞ぐことができる」
危険度が下がると提案すると、複雑すぎる回路を思い浮かべたルキフェルが唸った。
「そこまで複雑だと、誤作動の心配があるよね」
「裂け目を感知したら通知する。それで我々が目視してから遠隔はどうだ?」
「……それは自動じゃない」
研究者として中途半端な理論を提供するのは、プライドが許さない。そんなルキフェルの言い分もわかるが、事はこの世界の存在に関わってくる。偶然見つけた裂け目は何かを流し込んでいた。それは鼻の効く種族に影響を与える何かだ。知らない間にそういった危険物が蔓延する可能性は排除したかった。
「歪みや異常を感知したら情報を送信、その情報を精査する魔法陣を間に挟んだらどうか」
塞ぐか放置するか、判断する基準を魔法陣に刻む。その結果を元に、自動で遠隔操作された魔法陣が穴を塞ぐ。これならほぼ自動化したと言える。その上、情報管理の魔法陣を魔王城に置くことで、監視も管理も可能だった。
「うん。やってみる」
妥協案で納得したルキフェルが顔を上げると、ヤンが巨大海洋生物に襲われていた。ぎゃん! 悲鳴を上げたヤンが引き摺られていく。魔王と大公は期せずしてハモった。
「「ヤン?」」
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