上 下
1,328 / 1,397
97章 世界の裂け目を潰せ

1323. 提案は魅力的だった

しおりを挟む
 異世界人が入った裂け目が徐々に塞がっていく。これでまた落下する心配はないだろう。この場所が成功すれば、次はもっと簡単に効率的に塞ぐことが出来る。改良点を見つけたルシファーが大急ぎでメモを取った。

 回路を多少弄ることで、魔力消費量を減らせる。そのメモを受け取ったルキフェルが唸った。見落とした点を指摘され、複雑な心境だが正直ありがたい。

「ありがと」

「この魔法陣の基礎がしっかりしていたから気づいたんだ。素晴らしかったぞ」

 褒められて嬉しそうなルキフェルと婚約者の間に入り込み、リリスが楽しそうに笑う。

「ねえ、裂け目を感知するいい方法思いついたわ」

「何かあるのか?」

 先を促すルシファーへ、大きな森の木を指さした。

「魔の森の木は、周囲の魔力量に影響されて成長具合が変わるの。歪に感じるほど大きな木が生えてる場所は、怪しいわ」

 言われて、彼女が指差した1本の大木を見上げる。確かに立派だ。周辺の木々より5割増しの大きさだった。魔の森は魔力で保たれ、伐られたりして魔力が流出すると強制徴収する。その対象が魔物だったり魔族なので、魔の森を傷つける愚かな魔族はいない。魔の森の危険性を理解せずに伐採するのは、人族くらいだった。

 森の木々は一定の大きさまで育つと、今度は枝葉を広げる。それが不自然に上へ伸びるのは、豊富な魔力がある証拠だった。その供給源が、今回のような裂け目である可能性は高い。実際、落ちた異世界人はほとんど魔力を持たないのに、この場所には魔力が滞留していた。

「見分ける方法として、ありかもね」

「不自然に高い木を探すのなら、空から効率的に見渡せる。近づいてから、ルキフェルの感知魔法陣を発動させれば無駄も減るな」

 ルシファーの提案に、ルキフェルが頬を緩めた。大公や魔王にとって、魔法陣の一つや二つ、大した疲労もない。しかし現場で動く魔王軍の魔力量はまちまちだった。さまざまな種族が混じった混成部隊なので、当然の結果だ。散らばって動く彼らの効率を考えるなら、リリスの方法も有効だった。

「すぐにマニュアルを作らせよう」

「うん。僕はもう少し魔力量の消費を抑える工夫をしてみるよ」

 にこにこするリリスの黒髪を撫でたルキフェルは、大急ぎで城へ戻った。取り残されたルシファーは海水ごと魚を捕まえ始める。

「ルシファー、青いお魚が欲しいわ」

「言っとくけど、食べる用だぞ」

 飼うのは無理だ。先に現実を突きつけておく。リリスも「わかってるわ」と頷いた。海水と魚を纏めて収納へ放り込んだルシファーは、リリスを抱き締める。直後、後ろでキンと甲高い音がした。

「矢です」

 竜族の若者が、竜化させた腕で矢を弾いた。金属音は鱗に当たった音らしい。ぼっと炎が走るが、この鏃は以前も見たことがある。幸い、竜族は炎に耐性がある個体が多いので、肩を竦めて炎を消した。ケガのひとつもない。

「人族か」

「どうしますか?」

「片付けていいぞ」

 この集落は先ほども攻撃する姿勢を見せた。二度目はない。これを許せば、他の魔族が黙っていないだろう。無用な反乱騒ぎを起こされないために、厳しい措置は必要だった。見せしめである。大公と魔王が揃えば、魔族すべてを敵に回しても勝つだろうが、無駄な戦いは好まない。

「躾を任せる」

「承知いたしました」

 先に戻ると言い置いて、リリスを腕に抱いたまま転移した。あの集落は魔の森に飲まれる。人がいない場所は火を使わないので、森が海岸線ギリギリまで根を伸ばす。徐々に人が住める範囲が狭まっていくが、自分達の自業自得だと気づいているのか。

 まあ、気づかないだろうな。今までの経緯を思い出し、自嘲した。

「ルシファー、お魚焼きましょうよ」

 柔らかい笑みでそう告げるリリスは、どこまでルシファーの感情を察しているのか。まったく場を読まない発言のようだが、気を逸らしたいのだ。黒髪を撫でて、上にキスを贈る。

「ああ、折角だから中庭で焼くか」

 魅力的な提案をされ、大公女を呼びにいくリリスを見送り、ゆっくり深呼吸する。気持ちを切り替え、いつもの笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 851

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 「アゼリア・フォン・ホーヘーマイヤー、俺はお前との婚約を破棄する!」 「王太子殿下、我が家名はヘーファーマイアーですわ」  公爵令嬢アゼリアは、婚約者である王太子ヨーゼフに婚約破棄を突きつけられた。それも家名の間違い付きで。  理由は聖女エルザと結婚するためだという。人々の視線が集まる夜会でやらかした王太子に、彼女は満面の笑みで婚約関係を解消した。  王太子殿下――あなたが選んだ聖女様の意味をご存知なの? 美しいアゼリアを手放したことで、国は傾いていくが、王太子はいつ己の失態に気づけるのか。自由に羽ばたくアゼリアは、魔王の溺愛の中で幸せを掴む!  頭のゆるい王太子をぎゃふんと言わせる「ざまぁ」展開ありの、ハッピーエンド。 ※2022/05/10  「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過 ※2021/08/16  「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過 ※2021/01/30  完結 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう

【完結】もう結構ですわ!

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
 どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。  愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/29……完結 2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位 2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位 2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位 2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位 2024/09/11……連載開始

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
この人が私の夫……政略結婚だけど、一目惚れです! 12歳にして、戦争回避のために隣国の王弟に嫁ぐことになった末っ子姫アンジェル。15歳も年上の夫に会うなり、一目惚れした。彼のすべてが大好きなのに、私は年の離れた妹のように甘やかされるばかり。溺愛もいいけれど、妻として愛してほしいわ。  両片思いの擦れ違い夫婦が、本物の愛に届くまで。ハッピーエンド確定です♪  ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/07/06……完結 2024/06/29……本編完結 2024/04/02……エブリスタ、トレンド恋愛 76位 2024/04/02……アルファポリス、女性向けHOT 77位 2024/04/01……連載開始

死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります

みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」 私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。  聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?  私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。  だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。  こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。  私は誰にも愛されていないのだから。 なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。  灰色の魔女の死という、極上の舞台をー

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

処理中です...