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96章 迷探偵は魔王城に住んでいる

1317. 言葉が通じるか、話が通じないか

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 今までの勇者はすべて言葉が通じた。この世界の勇者の生まれ変わり、つまり本物だった場合はもちろん、異世界から来た者もほぼ話ができた。難しかったのは、異世界から不本意に落下した者達だ。そこに何らかの法則があるのだろう。

 呼ばれた者と、事故で落ちた者。先程の村の先で出会った赤毛の青年達は、落下組と思われるが言葉は通じた。この村にいる異世界人は言葉を理解していない。

「さて、どうしたものか」

 ぐるるっ、ぐぁああ! ヤンや後ろの竜族の若者がそれぞれの方法で声を掛ける。魔族は共通言語だけでなく、他の方法でも通じれば構わない。魔の森が何を思って言語を統一しなかったのかは不明だが、この辺は多様性と考えるしかなかった。

 竜族の唸り声に反応し、異世界人はぐぁ、あああ! と大きな声を上げた。会話が成立しているらしい。鳴き声を上げる異世界人から、徐々に距離を取って逃げ出す人族を見送った。あれは言語ではなく、話が通じなそうだ。

「陛下、状況が掴めました。やはり事故による落下のようです。帰る方法があれば教えて欲しいので、協力すると言っています」

 言葉が通じなくて難儀していたら、魔族が現れてほっとした。そんな状況だった。ちなみに火事の原因になった焚火は、異世界人が狼煙として上げたらしい。消火されず、まだ燃えている。風も吹いているので、また飛び火しそうだが。関係ないので放置することにした。ここが燃えても、魔の森に影響はない。

「ひとまず連れ帰るか」

 他に異世界人らしき気配はない。奇妙な感覚は止んだので、魔王城へ帰還する手筈にして伝えさせた。場所に拘りはないし、言葉が通じるなら素直に従う気はあるようだ。荷物を取りに戻った異世界人を見送り、ぼんやりと焚火を見つめる。

 手に手を取り合って踊る火の精霊が一回転したところへ、風が吹いた。風の精霊の手を取った炎が舞い上がり……着地した。近くの民家の屋根だ。板で作られた屋根は、あっという間に燃え上がった。

「……本当に、どうして消火しないんだろうな」

 飛び火する原理を知らないのか? 首を傾げるルシファーに、イポスがくすくす笑いながら指摘した。

「我々が火の近くにいるので恐ろしいのでは?」

「ああ、それもそうか。もうすぐ離れるので構わないな」

 異世界人が戻れば城に帰る。そう告げた目の前でまた火の粉が舞い上がった。ぱちんと爆ぜる音がして、ぼっと炎が上がる。あの勢いは藁のような燃えやすい素材だろう。

 ぐあああ! 興奮した様子で駆け戻った異世界人は1人増えて6人。男女の区別はつかないが、まとめて城門前に飛んだ。竜族の若者が1人、人族の村の調査に残った。赤毛の異世界人が消えた村と、この焚火で大事件な村のその後を報告してくれるよう頼んである。

 魔王城の門を見上げ、異世界人達は大声を上げて平伏した。突然の事態に呆然とする。

「なんだと思う?」

「気に入ったのかしら」

 リリスは的外れな言葉を発したが、竜族の兵士が答えをもたらした。

「どうやら自分達の世界の城と似ていたようです」

「門が?」

「はい」

 門が似ている。つまり平べったく長細い建物だったのか? より疑問が深まりながらも、ルシファーは質問しなかった。というのも、城門に側近の姿を見つけたからだ。

「お早いお帰りでしたね、ルシファー様」

「異世界人を捕獲したぞ」

 成果を告げて、平伏した彼らを指さす。その指をきゅっと握ったリリスが、「めっ」とルシファーを叱った。

「人を指さしちゃダメだって、ルシファーが言ったんでしょ?」

「あ、ああ。そうだった……うぐっ!!」

 指を離さないリリスが動いたことで、指があらぬ方向に折れる。咄嗟に直したものの、まだ離さないリリスによってもう一度折られた。

「り、リリス……? 手を繋ぎ直そうか」

 離してくれと言いたくなくて、苦肉の策で手を繋いだルシファーの指が、ちょっとおかしな方向を向いていたが、誰も指摘できなかった。なお、夕食前には元に戻したらしい。
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