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96章 迷探偵は魔王城に住んでいる

1315. 冤罪以前の問題で同情した

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 食後のお茶までしっかり休憩を取り、ルシファーはようやく重い腰を上げた。人族の捕獲と殲滅など一瞬で終わる。その後また城で退屈な……ん? そういや脅迫状が届いていたっけ。ならば戻っても、城で書類に追われることはない。

 すでにアスタロト達が解決に動いているとも知らず、ルシファーは機嫌よく魔力を探査し始めた。海の方へあと少し進んで、森に入るぎりぎりの境目あたり。行先で人族以外に危険な生物は確認できないし、周辺状況も確認した。転移した直後に足が埋まったり、腕を食われる心配もない。

 テントを片付けていた竜族を手招きし、全員を魔法陣に乗せたら指を鳴らした。

「陛下っ! 焚火の後始末を確認しておりません」

 焦った口調で進言するので、仕方なく全員でまた戻る。湖の水をしっかり掛けて消火を確認し、念のために埋めて火種を消した。それから同じ場所に転移で飛ぶ。魔の森で失火すると後の始末が大変だから、ここは手を抜かないのがルールだった。

 再び現れた海辺では……大きな焚火が行われていた。粗末な木造の家が立ち並ぶ丘まで、大した距離はない。海からの強風に煽られ火の粉が散った。

「我が君、あれは……」

「ああ、飛び火するぞ」

 サタナキアとひそひそ話した直後、集落の奥から煙が上がった。折からの強風であっという間に火の手が上がり、集落に広がっていてく。飛び出した人々がバケツリレーで火を消す様子を、魔王ご一行様はぼんやりと見ていた。

「何がしたかったんだ?」

「さあ」

 リリスも首を傾げる。こんな風の強い日に大きな焚火なんてしたら、絶対に燃える。周囲に燃え広がっても魔法で消せる魔族と違い、人族は消化の手段を持たないのに。愚かすぎて、顔を見合わせて苦笑いした。

「異世界人の話を聞く前に、雨でも降らせてやるか」

 消火を手伝うと言い出したルシファーに、ヤンとイポスが声を揃えた。

「「いけません」」

「陛下、恐れながら申し上げます。我々は人族の殲滅に来たのであって、助けに来たわけではございませんぞ」

 サタナキアの説教じみた付け足しに、それもそうだったと思い直す。少し前まで捕獲する個体以外は殺してしまう予定だったのに、食事をして休憩したら欲が満たされて丸くなってしまった。慌てて気持ちを引き締める魔王に、全員が胸を撫で下ろす。優しいのは美徳だが、それを理解せず弱さと勘違いして襲って来る人族に施す義理はない。

「貴様ら! 魔族か?! お前らの仕業だな」

 決めつける声に苛立つより呆れた。どこをどう判断しても、目の前の焚火が原因だ。まだ囂々と燃え盛る炎を消してから言え。偶然立っていた魔族に冤罪を向ける前に、すべきことがあるだろう。様々な思いを込めたルシファーが発したのは、一言だった。

「頭が悪いのか?」

 それなら仕方ない。理解できぬ者に懇々と説明をしても伝わらぬからな。完全に上から目線で馬鹿にしたようなセリフだった。だが当人はいたって真面目だ。可哀想にと同情の眼差しを向ける。煽っていると勘違いし、竜族の若者は後ろで感激していた。

 さすが魔王様、こうでなくては魔族の王は務まらぬのだ! 興奮した様子で賛美の言葉を重ね、帰ったら仲間に語り継ごうと決める。いつもこうして魔王のよく分からない武勇伝やら伝説が広がっていくのだが。今回も多分に漏れず、竜族を中心に称えられるだろう。

「馬鹿にしてるのか! 誤魔化そうったって……」

「後ろの焚火は誰のせいだ? 火の粉はそこから飛んでいるぞ」

 淡々と指摘したルシファーは、振り返って青褪める人族に気の毒そうな眼差しを向ける。慌てて火を消す彼らを横目に、袖を引くリリスに首を傾げた。

「どうした?」

「あの人達、馬鹿なの?」

「リリス、思っても口にしてはいけないよ。傷つけるからね」

 その一言がもっとも傷つけるセリフです。そう思ったが、ヤンは知らん顔を決め込んだ。
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