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96章 迷探偵は魔王城に住んでいる

1314. 処遇は一転してまた一転

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 心配したほど大事にならず解決したことに安堵の息をつくルシファーは、人族の新たな集落を目指すことにした。当初は人族の元へ落ちたと思われる異世界人の調査だったが、ベルゼビュートがバラバラにしてしまった。仕方ないので、別の集落にいると思われる異世界人を探す。

 リリスもルシファーも奇妙な魔力の流れは感じており、地図の上で確認したところ同じ場所だった。

「次はここだ」

「あたくしもお手伝いしましょうか?」

 善意で名乗り出る精霊女王だが、魔王は勢いよく首を横に振った。純白の髪がひらひらと風に踊る。

「いや、いい。新婚旅行を楽しんでくれ」

 調査が終わる前に全員ミンチにされたら堪らない。アスタロトやベール辺りに無能扱いされてしまう。焦るルシファーの拒絶に、ベルゼビュートはリリスと顔を見合わせた。女性同士で何か通じ合い、頷いて手を振る。どうしてだろう、震えてしまうのは。ルシファーが助けを求めた先で、エリゴスが首を横に振った。諦めた方が早いか。

「い、急ぐのでまた」

 挨拶もそこそこに護衛を連れて飛んだ。魔力のある場所を終点にせず、やはり少し離れた場所を選ぶ。ここで休憩となった。

「我が君、鹿でも捕らえて参りましょうか」

「頼んだぞ、ヤン」

 竜族の兵士と勢いよく森へ飛び込むフェンリルを見送り、湖の辺りで寛ぐ。ベルゼビュートが殺した肉片は、一応確認のために魔王城へ転送した。城門前が汚れるといけないので、地下牢を選んだが……どちらにしろ掃除は必要だ。死体はルキフェルが分析してくれるだろう。

「次は殺さないように捕獲したい」

 魔王軍の将軍サタナキアと、リリス専属護衛騎士イポスが頷く。親子なのに仕事場では無駄口を叩かない真面目な2人の肩を叩いた。

「任せるぞ」

「かしこまりました」

「承知しております」

 邪魔をされる前に1人……魔族ではないので1匹か? を捕獲し、魔王城に転送。その間に邪魔をする数人を動けなくして退却する作戦だった。それを聞くなり、リリスが首を傾げる。

「勝手に領地内に湧いて出たのに、生かすの?」

「魔の森が殺したいなら片付けるぞ」

 さらりと恐ろしい発言をするルシファーはやはり魔王だった。婚約者の尻に敷かれようが、部下に怯えていようが、魔族の頂点に立つ者だ。無用な殺生は避けるが、殺すと決まれば容赦はしない。リリスに危害を加えるようなことがあれば、八つ裂き程度で済ませる気もなかった。

「魔の森はわからないけど、前もそうやって森が放置した結果、人族が増えたのよ。早めの駆除が大事だと思うわ」

 アスタロトのような発言をしたリリスは、こてりと首を傾げる。彼女の発言は森自身が伝えた言葉か、本人が考えて生み出した言葉か判断しづらい。だがどちらにしろ、ルシファーにとっては同じだった。重要なのはリリスがどう思っているか、だ。

「じゃあ駆除しよう。その前に生捕りは約束してるから、最低1匹以上は捕獲」

 急な作戦変更にも、サタナキアは平然と対応する。圧倒的な実力差があれば、人族が狡猾であろうと関係なかった。押し切ればいい。牛の魔獣から発生したサタナキアの一族は、力押しが最大の誉れでもある。そのため強者を尊ぶ竜族と相性がよく、部下も竜族を中心にしていた。

「獲物が獲れました」

 大きな鹿を引き摺る竜族が戻り、最後に猪を咥えたヤンが現れた。自慢の毛皮を湖で洗う間に、竜族の若者は手際よく獲物を捌いていく。その間にイポスとリリスは食事用の休憩所を設えた。道具はすべてルシファーの収納から拝借している。

「ルシファー、出来たわ」

 分厚い軍使用のマットの上に絨毯を敷いたリリスが寝転がり、無邪気に声を張り上げた。愛らしい婚約者の上に、簡易テントを張る。ヤンも入れる巨大サイズを風の魔法で建てると、乾かしたヤンをソファ代わりに寛ぐ。

 忙しく料理を始める若者に手伝おうと申し出たルシファーだが、料理は軍の当番制ですからと断られた。その後振る舞われた食事は、見事に丸焼きのみで、手伝えば良かったとルシファーが後悔するのは数十分後である。
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