1,313 / 1,397
96章 迷探偵は魔王城に住んでいる
1308. 考えるほど絡まる
しおりを挟む
苦笑いしたベールが護衛を手配することになり、ルキフェルはついでに研究材料の深海水などをリストアップした。
「これを採取してきて」
「転送するから受ける入れ物を用意してくれ」
慣れているルシファーの指示に、ルキフェルが用意できていると返答する。頭を抱えて唸っていたアスタロトも、ようやく諦めた。これは何を言っても出かける気だ。それなら護衛をつけて監視しながら、魔王の行動を制御した方が安心できるだろう。
「わかりました。護衛はヤン、イポス、サタナキアの部隊もつけますからね」
「多過ぎないか? い、いや、まったく問題ないぞ」
単独行動を好み、ふらふらと出歩くタイプの魔王は妥協した。反論したら城から出られなくなる。それではリリスが泣くだろう。出発は明日の早朝に決まり、魔王軍の精鋭部隊のひとつに、招集命令が下された。
イポスとヤンは慣れているので、特に聞き返すこともなく承諾の返答をする。リリスとルシファーの二人に付き合っていれば、嫌でも慣れてしまうものだ。
「楽しみね、ルシファー」
「そうだな」
機嫌よく自室に引き上げる魔王とお姫様を見送り、アスタロトとベールは別の会議を始めた。先日手配したあれこれが、ルシファーの目に留まらないよう隠す必要があるのだ。魔王城で大人しくしていてくれたら問題ないのに、舌打ちするアスタロトだが決定は決定だ。
「一時的に影の中に収納しましょう」
「助かります。動かせない物はこちらで幻影を掛けておきます」
「お願いします」
すんなりと打ち合わせを終え、二人も解散した。
「何を着ていこうかしら。ルシファーも一緒に選んで」
「この黄色いワンピースはどうだ? 可愛いぞ」
「派手じゃないかしら」
「森の緑とも海の青とも相性がいいし、少しオレンジがかってるから落ち着いた感じもある。翡翠のブローチか髪飾りを付けたら、似合うと思うが」
ルシファーの提案に、髪飾りやブローチを取り出して服の上に並べる。黒髪のリリスが明るい色を纏うと、引き締まってバランスがいい。十年以上見立ててきたルシファーは自分の目に自信があった。
「これにするわ」
「よし。それじゃあ夜は早く寝ようか」
明日の朝起きられないと大変だ。食事も早めに済ませ、入浴してベッドに横たわる。リリスを寝かしつけたところで、ルシファーが溜め息を吐いた。
「眠れない……」
普段と時間のリズムが違うせいか、まったくもって眠くならないのだ。すでに眠ったリリスが服を摘んでいるので動けず、かと言ってベッドの中にまで持ち込んで仕事をする勤勉さはない。アスタロトやベールならやるか? いや、彼らなら起き上がって机に向かうな。
どうでもいい考えで時間を潰すが、眠気は訪れようとしなかった。完全に外出して留守だ。差し込む月光が作り出す陰影を見つめながら、リリスの黒髪に触れる。これほどの魔力を持ちながら、黒髪なことに疑問を覚えた時期もあった。
拾ったばかりは特にそう感じたな。白い肌、当時は赤かった瞳。どちらも大公達に匹敵する魔力を秘めた証拠だった。なのに、目立つ髪は黒……魔力が少ないことを意味している。実際のリリスはオレの結界を通過するほどの魔力を持つのに。
さらりと指の間を擦り抜ける髪を再び掬い、月光に輝く様を見つめた。この月光のように明るい金や銀であったなら、疑問はない。だが拾った人族のハーフと思われた赤子が、完璧な色彩を持っていたら。
「アスタロト辺りに殺されたか」
魔王に匹敵する、大公クラスの新たな存在――それは魔族の新たな勢力図の一端を担う危険人物だ。翡翠竜程度ならば抑え込めるが、リリスが存在を許され愛されたのは黒髪ゆえだ。あの頃、人族の血を引くと思われた赤子が、もし純白の髪をもっていたら? 想像するのも恐ろしい。
どんなにルシファーが抵抗したとしても、アスタロトやベールは彼女を排除した。魔の森の采配に間違いはなかったな。ふっと微笑んで、目を閉じた。まだ眠くないが、リリスの寝息を聞きながら目を閉じている時間は心地よかった。
「これを採取してきて」
「転送するから受ける入れ物を用意してくれ」
慣れているルシファーの指示に、ルキフェルが用意できていると返答する。頭を抱えて唸っていたアスタロトも、ようやく諦めた。これは何を言っても出かける気だ。それなら護衛をつけて監視しながら、魔王の行動を制御した方が安心できるだろう。
「わかりました。護衛はヤン、イポス、サタナキアの部隊もつけますからね」
「多過ぎないか? い、いや、まったく問題ないぞ」
単独行動を好み、ふらふらと出歩くタイプの魔王は妥協した。反論したら城から出られなくなる。それではリリスが泣くだろう。出発は明日の早朝に決まり、魔王軍の精鋭部隊のひとつに、招集命令が下された。
イポスとヤンは慣れているので、特に聞き返すこともなく承諾の返答をする。リリスとルシファーの二人に付き合っていれば、嫌でも慣れてしまうものだ。
「楽しみね、ルシファー」
「そうだな」
機嫌よく自室に引き上げる魔王とお姫様を見送り、アスタロトとベールは別の会議を始めた。先日手配したあれこれが、ルシファーの目に留まらないよう隠す必要があるのだ。魔王城で大人しくしていてくれたら問題ないのに、舌打ちするアスタロトだが決定は決定だ。
「一時的に影の中に収納しましょう」
「助かります。動かせない物はこちらで幻影を掛けておきます」
「お願いします」
すんなりと打ち合わせを終え、二人も解散した。
「何を着ていこうかしら。ルシファーも一緒に選んで」
「この黄色いワンピースはどうだ? 可愛いぞ」
「派手じゃないかしら」
「森の緑とも海の青とも相性がいいし、少しオレンジがかってるから落ち着いた感じもある。翡翠のブローチか髪飾りを付けたら、似合うと思うが」
ルシファーの提案に、髪飾りやブローチを取り出して服の上に並べる。黒髪のリリスが明るい色を纏うと、引き締まってバランスがいい。十年以上見立ててきたルシファーは自分の目に自信があった。
「これにするわ」
「よし。それじゃあ夜は早く寝ようか」
明日の朝起きられないと大変だ。食事も早めに済ませ、入浴してベッドに横たわる。リリスを寝かしつけたところで、ルシファーが溜め息を吐いた。
「眠れない……」
普段と時間のリズムが違うせいか、まったくもって眠くならないのだ。すでに眠ったリリスが服を摘んでいるので動けず、かと言ってベッドの中にまで持ち込んで仕事をする勤勉さはない。アスタロトやベールならやるか? いや、彼らなら起き上がって机に向かうな。
どうでもいい考えで時間を潰すが、眠気は訪れようとしなかった。完全に外出して留守だ。差し込む月光が作り出す陰影を見つめながら、リリスの黒髪に触れる。これほどの魔力を持ちながら、黒髪なことに疑問を覚えた時期もあった。
拾ったばかりは特にそう感じたな。白い肌、当時は赤かった瞳。どちらも大公達に匹敵する魔力を秘めた証拠だった。なのに、目立つ髪は黒……魔力が少ないことを意味している。実際のリリスはオレの結界を通過するほどの魔力を持つのに。
さらりと指の間を擦り抜ける髪を再び掬い、月光に輝く様を見つめた。この月光のように明るい金や銀であったなら、疑問はない。だが拾った人族のハーフと思われた赤子が、完璧な色彩を持っていたら。
「アスタロト辺りに殺されたか」
魔王に匹敵する、大公クラスの新たな存在――それは魔族の新たな勢力図の一端を担う危険人物だ。翡翠竜程度ならば抑え込めるが、リリスが存在を許され愛されたのは黒髪ゆえだ。あの頃、人族の血を引くと思われた赤子が、もし純白の髪をもっていたら? 想像するのも恐ろしい。
どんなにルシファーが抵抗したとしても、アスタロトやベールは彼女を排除した。魔の森の采配に間違いはなかったな。ふっと微笑んで、目を閉じた。まだ眠くないが、リリスの寝息を聞きながら目を閉じている時間は心地よかった。
20
お気に入りに追加
4,927
あなたにおすすめの小説
呪われた子と、家族に捨てられたけど、実は神様に祝福されてます。
光子
ファンタジー
前世、神様の手違いにより、事故で間違って死んでしまった私は、転生した次の世界で、イージーモードで過ごせるように、特別な力を神様に授けられ、生まれ変わった。
ーーー筈が、この世界で、呪われていると差別されている紅い瞳を宿して産まれてきてしまい、まさかの、呪われた子と、家族に虐められるまさかのハードモード人生に…!
8歳で遂に森に捨てられた私ーーキリアは、そこで、同じく、呪われた紅い瞳の魔法使いと出会う。
同じ境遇の紅い瞳の魔法使い達に出会い、優しく暖かな生活を送れるようになったキリアは、紅い瞳の偏見を少しでも良くしたいと思うようになる。
実は神様の祝福である紅の瞳を持って産まれ、更には、神様から特別な力をさずけられたキリアの物語。
恋愛カテゴリーからファンタジーに変更しました。混乱させてしまい、すみません。
自由にゆるーく書いていますので、暖かい目で読んで下さると嬉しいです。
デブだからといって婚約破棄された伯爵令嬢、前世の記憶を駆使してダイエットする~自立しようと思っているのに気がついたら溺愛されてました~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
デブだからといって婚約破棄された伯爵令嬢エヴァンジェリンは、その直後に前世の記憶を思い出す。
かつてダイエットオタクだった記憶を頼りに伯爵領でダイエット。
ついでに魔法を極めて自立しちゃいます!
師匠の変人魔導師とケンカしたりイチャイチャしたりしながらのスローライフの筈がいろんなゴタゴタに巻き込まれたり。
痩せたからってよりを戻そうとする元婚約者から逃げるために偽装婚約してみたり。
波乱万丈な転生ライフです。
エブリスタにも掲載しています。
幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。
みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ!
そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。
「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」
そう言って俺は彼女達と別れた。
しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
【完結】虐げられた令嬢の復讐劇 〜聖女より格上の妖精の愛し子で竜王様の番は私です~
大福金
ファンタジー
10歳の時、床掃除をしている時に水で足を滑らせ前世の記憶を思い出した。侯爵家令嬢ルチア
8さいの時、急に現れた義母に義姉。
あれやこれやと気がついたら部屋は義姉に取られ屋根裏に。
侯爵家の娘なのに、使用人扱い。
お母様が生きていた時に大事にしてくれた。使用人たちは皆、義母が辞めさせた。
義母が連れてきた使用人達は私を義母と一緒になってこき使い私を馬鹿にする……
このままじゃ先の人生詰んでる。
私には
前世では25歳まで生きてた記憶がある!
義母や義姉!これからは思い通りにさせないんだから!
義母達にスカッとざまぁしたり
冒険の旅に出たり
主人公が妖精の愛し子だったり。
竜王の番だったり。
色々な無自覚チート能力発揮します。
竜王様との溺愛は後半第二章からになります。
※完結まで執筆済みです。(*´꒳`*)10万字程度。
※後半イチャイチャ多めです♡
※R18描写♡が入るシーンはタイトルに★マークをいれています。
猫耳幼女の異世界騎士団暮らし
namihoshi
ファンタジー
来年から大学生など田舎高校生みこ。
そんな中電車に跳ねられ死んだみこは目が覚めると森の中。
体は幼女、魔法はよわよわ。
何故か耳も尻尾も生えている。
住むところも食料もなく、街へ行くと捕まるかもしれない。
そんな状況の中みこは騎士団に拾われ、掃除、料理、洗濯…家事をして働くことになった。
何故自分はこの世界にいるのか、何故自分はこんな姿なのか、何もかもわからないミコはどんどん事件に巻き込まれて自分のことを知っていく…。
ストックが無くなりました。(絶望)
目標は失踪しない。
がんばります。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる