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96章 迷探偵は魔王城に住んでいる
1303. 増えて減って
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魔王妃に届けられたのは、結婚式を中断しないと血の雨が降る、という文言だ。遠回しだが、攻撃して誰かを傷つけると言い切った形になる。
ミュルミュールに届いた脅迫状は、子ども達を傷つけるぞ、嫌なら金を出せという内容だった。まったく別物に見える。
「うーん、何だろうな」
「意味がわからないよ」
唸るルシファーの向かいで、ルキフェルも溜め息を吐く。リリスは両方の文面をメモした文面を、別の紙に書き写した。
「文章の専門家に見てもらいましょうよ」
「リリス。彼は執筆中で邪魔したらいけない。わかるね?」
つい先日も新作の進行状況が気になり、イザヤに会いに行こうとしたリリスは首を横に振った。
「邪魔じゃないわ。推理してもらうの」
「イザヤは小説家であって、軍人じゃないんだ。ダメだよ」
重ねて訪問を否定され、リリスはしょんぼりと椅子に腰掛けた。テラスの心地よい風の中、三者三様に頭を悩ませる。
「ねえ、他にも来てないかしら」
「誰が?」
「脅迫状よ、きっと他の人ももらってるわ」
妙な確信を持って断言するリリスに、ルキフェルは首を傾げる。念のために魔王城内で脅迫文を受け取った人がいないか、探してくれるようコボルトに手配した。ベリアルは一礼して走っていく。
「ひとまずお手上げか?」
「結婚式に血の雨はわからないけど、ワインの雨は降るだろうね。それを揶揄した言葉じゃないよね?」
「違うだろう」
ルシファーとルキフェルは苦笑いしたあと、それぞれの仕事に向かうことにした。別れた直後、後ろからアスタロトが声を掛ける。
「ルシファー様、よかった。新しい脅迫文が見つかりました」
「ん? 保育園のなら見たぞ」
「保育園、ですか? 違いますね」
冗談半分で話したのに、まさか現実になった? アスタロトは書き写した文面を差し出す。宛先は文官が詰める事務所で、魔族を片っ端から殺す旨が乱暴な文章が汚い字で書き散らしてある。要求はなかった。
「書いた人物は別人でしょうか」
「そうだよな。違和感がある」
同じ人が書いたなら、同じ要求が突きつけられるはず。それがまったく別の事件のように重ならない。文面の内容も、要求の有無も、文字の印象すら違った。
「ルシファー、これ……小説の一節よ」
リリスが思わぬ指摘をした。最近読んだトリイの新作、推理が入った恋愛小説の一文と同じだという。慌てて本を取り寄せるよう指示したルシファーだが、リリスは自らの収納から本を取り出した。いつでも読めるように持ち歩いているらしい。一度読んだら二度読みはしないルシファーには不思議だが、お気に入りの本は常に持ち歩くものと力説された。
「どの脅迫文が同じだ?」
「最後のやつよ。要求がないでしょう、それで実は後ろの部分のこの記号で、こうやって、それからこう」
署名のような奇妙なマークを弄って、続きの文章を作り始めた。謎解きの一環らしく、何度も読んだリリスは迷いなく作業を終えた。
「ほら、やっぱりそう。小説の文章だったわ」
追加された部分は人の名前だ。それは小説の中に出てきた主人公の、兄の名だと判明した。つまり、文官に届けられた脅迫状は悪戯の可能性が高い。
「これは除外しよう」
「そうですね。迷惑なことです」
むっとした顔のアスタロトが脅迫状を机に転送する。今頃執務室の彼の机にひらりと落ちたところだろう。要求が記されていたのは、リリス宛と保育園宛だけ。
「もう出てこないといいが」
悪戯が多発すると邪魔だと眉を寄せるルシファーへ、リリスが嬉しそうに口を挟んだ。
「それ、小説でフラグっていうの! きっとまだあるわ」
楽しそうで何よりだが、賛否を避けたルシファーは曖昧な笑みを浮かべた。
ミュルミュールに届いた脅迫状は、子ども達を傷つけるぞ、嫌なら金を出せという内容だった。まったく別物に見える。
「うーん、何だろうな」
「意味がわからないよ」
唸るルシファーの向かいで、ルキフェルも溜め息を吐く。リリスは両方の文面をメモした文面を、別の紙に書き写した。
「文章の専門家に見てもらいましょうよ」
「リリス。彼は執筆中で邪魔したらいけない。わかるね?」
つい先日も新作の進行状況が気になり、イザヤに会いに行こうとしたリリスは首を横に振った。
「邪魔じゃないわ。推理してもらうの」
「イザヤは小説家であって、軍人じゃないんだ。ダメだよ」
重ねて訪問を否定され、リリスはしょんぼりと椅子に腰掛けた。テラスの心地よい風の中、三者三様に頭を悩ませる。
「ねえ、他にも来てないかしら」
「誰が?」
「脅迫状よ、きっと他の人ももらってるわ」
妙な確信を持って断言するリリスに、ルキフェルは首を傾げる。念のために魔王城内で脅迫文を受け取った人がいないか、探してくれるようコボルトに手配した。ベリアルは一礼して走っていく。
「ひとまずお手上げか?」
「結婚式に血の雨はわからないけど、ワインの雨は降るだろうね。それを揶揄した言葉じゃないよね?」
「違うだろう」
ルシファーとルキフェルは苦笑いしたあと、それぞれの仕事に向かうことにした。別れた直後、後ろからアスタロトが声を掛ける。
「ルシファー様、よかった。新しい脅迫文が見つかりました」
「ん? 保育園のなら見たぞ」
「保育園、ですか? 違いますね」
冗談半分で話したのに、まさか現実になった? アスタロトは書き写した文面を差し出す。宛先は文官が詰める事務所で、魔族を片っ端から殺す旨が乱暴な文章が汚い字で書き散らしてある。要求はなかった。
「書いた人物は別人でしょうか」
「そうだよな。違和感がある」
同じ人が書いたなら、同じ要求が突きつけられるはず。それがまったく別の事件のように重ならない。文面の内容も、要求の有無も、文字の印象すら違った。
「ルシファー、これ……小説の一節よ」
リリスが思わぬ指摘をした。最近読んだトリイの新作、推理が入った恋愛小説の一文と同じだという。慌てて本を取り寄せるよう指示したルシファーだが、リリスは自らの収納から本を取り出した。いつでも読めるように持ち歩いているらしい。一度読んだら二度読みはしないルシファーには不思議だが、お気に入りの本は常に持ち歩くものと力説された。
「どの脅迫文が同じだ?」
「最後のやつよ。要求がないでしょう、それで実は後ろの部分のこの記号で、こうやって、それからこう」
署名のような奇妙なマークを弄って、続きの文章を作り始めた。謎解きの一環らしく、何度も読んだリリスは迷いなく作業を終えた。
「ほら、やっぱりそう。小説の文章だったわ」
追加された部分は人の名前だ。それは小説の中に出てきた主人公の、兄の名だと判明した。つまり、文官に届けられた脅迫状は悪戯の可能性が高い。
「これは除外しよう」
「そうですね。迷惑なことです」
むっとした顔のアスタロトが脅迫状を机に転送する。今頃執務室の彼の机にひらりと落ちたところだろう。要求が記されていたのは、リリス宛と保育園宛だけ。
「もう出てこないといいが」
悪戯が多発すると邪魔だと眉を寄せるルシファーへ、リリスが嬉しそうに口を挟んだ。
「それ、小説でフラグっていうの! きっとまだあるわ」
楽しそうで何よりだが、賛否を避けたルシファーは曖昧な笑みを浮かべた。
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