1,295 / 1,397
94章 突然のベビーラッシュ
1290. 長寿の秘訣は単純です
しおりを挟む
固まるルキフェルが、突然大声を出した。両手を叩いて、悔しそうに吐き出す。
「そうだよ、なんで気づかなかったんだ! 常に片側から動力を供給すればいいだけじゃないか!」
出発する側から供給するもの、そう思い込んでいた。だが魔力を着払いにすればいい。到着地点から供給する形を取り、引き寄せて貰えば魔力はいらない。使用する際に僅かな合図や道具ひとつで簡単に飛べるだろう。自分に魔力が溢れているからこそ、見落とした部分だった。
ベールは苦笑いしながら見守る。気にした様子なく、ルシファーは焼き菓子を口に放り込み、お茶を飲んだ。しばらく騒ぐルキフェルを放置した後、さらりと期限を切る。
「それで、保育園完成には間に合いそうか?」
「間に合わせるよ、僕に任せて」
「わかった。魔法陣の設置は一任する。抜けがないように頼むぞ」
すでにアスタロトが割り出したポイントを記載したリストを手渡す。思ったより数の多い拠点に、一瞬息を飲んだものの……ルキフェルは前言撤回しなかった。どうしても間に合わなくなれば、ベールやルシファーが手伝ってくれる。人を頼ることを知るルキフェルだから、周囲はあまり心配しなかった。
その意味で一番心配なのは、アスタロトだ。ギリギリまで自分で抱え込んで、突然パンクする。彼の仕事を回されても、ルシファーが拒否しない理由のひとつだった。最近やっと頼ってくれるようになったのだ。
ベールも似た部分があるが、ルキフェルと組んでから倒れることが減った。無茶をしなくなったのだ。以前倒れた時、まだ幼児姿のルキフェルが泣いて叱ったのが、効果的だったらしい。さっさと根を上げて逃げ出すルシファーのような軽さがあれば、部下も気が楽なのだが。
「一方通行の魔力供給の試作品だ。ついでにテストしてくれ」
自分なりに完成させた魔法陣をルキフェルに預ける。ルシファーの信頼に応えるように頷き、ルキフェルは焼き菓子を袋に入れて出て行った。
「……まだ2枚しか食べてなかったんだが」
息抜きの茶菓子が消えて溜め息をつくが、苦笑いが口元に浮かぶ。久しぶりに新作魔法陣も作ったし、今後は様々な民が自由に遊びに来られる。楽しくなりそうだ。わくわくする気持ちで立ち上がり、処理が終わった書類の横をすり抜けた。
「陛下、お話がございます」
「お、おう……」
予想外のタイミングで声をかけられ、ベールの向かいに座る。なんだか叱られる前の気分だが、特に心当たりはない。銀髪の青年は青い瞳を細めて、にっこりと笑った。純白の魔王は逆に腰が引けて、逃げる準備を始める。
「リリス姫のことです。礼儀作法も知識もだいぶ身に付いて、雰囲気も落ち着いて来られた。後はダンスの練習です。ぜひ陛下にお相手をお願いしたく」
「当然だ! オレが務める!!」
誰かに譲る気はない。大きく譲歩しても教師までだった。勢い込んで名乗り出る魔王へ、側近のベールは穏やかに頷いた。
「ではお願いいたします。可能であれば、本日より階下のホールでお相手をいただけると助かります」
「もちろん、時間を作るさ」
機嫌よく出ていった魔王を見送り、ベールは安堵に胸を撫で下ろした。教師を務めるアデーレから、男性のパートナーを探してくれと頼まれたが……誰を紹介しても問題がある。何しろ、8万年も独身を貫いた魔王の伴侶だ。彼女が誰か別の異性と踊る姿を見たが最後、城が崩壊するほど暴れる可能性があった。相手の命も保証できない。
ダンスパートナーを紹介出来ない以上、魔王自身が相手を務めるしかなかった。大公クラスなら問題は大きくならないが、忙しすぎて無理だ。それにルシファーの意識がリリスとのダンスに向く、この隙に着手したい案件もあった。
「陛下は単純で……そこがまた魅力なのですが。時折心配になります」
ベールの独り言に、入室したアスタロトが返した。
「単純だから長生きできるんですよ、我々も含めてね」
いろいろと複雑に考えるわりに、すぐ放棄する。その意味では全員大差なかった。長生きのコツ、秘訣と呼ぶにはあまりに乱暴だが、ある意味で真理なのだろう。
「反論できません」
くすくす笑うベールの脇を抜けて書類を回収したアスタロトは、廊下の先で足を止める。
「……先手を打ちますか」
「そうだよ、なんで気づかなかったんだ! 常に片側から動力を供給すればいいだけじゃないか!」
出発する側から供給するもの、そう思い込んでいた。だが魔力を着払いにすればいい。到着地点から供給する形を取り、引き寄せて貰えば魔力はいらない。使用する際に僅かな合図や道具ひとつで簡単に飛べるだろう。自分に魔力が溢れているからこそ、見落とした部分だった。
ベールは苦笑いしながら見守る。気にした様子なく、ルシファーは焼き菓子を口に放り込み、お茶を飲んだ。しばらく騒ぐルキフェルを放置した後、さらりと期限を切る。
「それで、保育園完成には間に合いそうか?」
「間に合わせるよ、僕に任せて」
「わかった。魔法陣の設置は一任する。抜けがないように頼むぞ」
すでにアスタロトが割り出したポイントを記載したリストを手渡す。思ったより数の多い拠点に、一瞬息を飲んだものの……ルキフェルは前言撤回しなかった。どうしても間に合わなくなれば、ベールやルシファーが手伝ってくれる。人を頼ることを知るルキフェルだから、周囲はあまり心配しなかった。
その意味で一番心配なのは、アスタロトだ。ギリギリまで自分で抱え込んで、突然パンクする。彼の仕事を回されても、ルシファーが拒否しない理由のひとつだった。最近やっと頼ってくれるようになったのだ。
ベールも似た部分があるが、ルキフェルと組んでから倒れることが減った。無茶をしなくなったのだ。以前倒れた時、まだ幼児姿のルキフェルが泣いて叱ったのが、効果的だったらしい。さっさと根を上げて逃げ出すルシファーのような軽さがあれば、部下も気が楽なのだが。
「一方通行の魔力供給の試作品だ。ついでにテストしてくれ」
自分なりに完成させた魔法陣をルキフェルに預ける。ルシファーの信頼に応えるように頷き、ルキフェルは焼き菓子を袋に入れて出て行った。
「……まだ2枚しか食べてなかったんだが」
息抜きの茶菓子が消えて溜め息をつくが、苦笑いが口元に浮かぶ。久しぶりに新作魔法陣も作ったし、今後は様々な民が自由に遊びに来られる。楽しくなりそうだ。わくわくする気持ちで立ち上がり、処理が終わった書類の横をすり抜けた。
「陛下、お話がございます」
「お、おう……」
予想外のタイミングで声をかけられ、ベールの向かいに座る。なんだか叱られる前の気分だが、特に心当たりはない。銀髪の青年は青い瞳を細めて、にっこりと笑った。純白の魔王は逆に腰が引けて、逃げる準備を始める。
「リリス姫のことです。礼儀作法も知識もだいぶ身に付いて、雰囲気も落ち着いて来られた。後はダンスの練習です。ぜひ陛下にお相手をお願いしたく」
「当然だ! オレが務める!!」
誰かに譲る気はない。大きく譲歩しても教師までだった。勢い込んで名乗り出る魔王へ、側近のベールは穏やかに頷いた。
「ではお願いいたします。可能であれば、本日より階下のホールでお相手をいただけると助かります」
「もちろん、時間を作るさ」
機嫌よく出ていった魔王を見送り、ベールは安堵に胸を撫で下ろした。教師を務めるアデーレから、男性のパートナーを探してくれと頼まれたが……誰を紹介しても問題がある。何しろ、8万年も独身を貫いた魔王の伴侶だ。彼女が誰か別の異性と踊る姿を見たが最後、城が崩壊するほど暴れる可能性があった。相手の命も保証できない。
ダンスパートナーを紹介出来ない以上、魔王自身が相手を務めるしかなかった。大公クラスなら問題は大きくならないが、忙しすぎて無理だ。それにルシファーの意識がリリスとのダンスに向く、この隙に着手したい案件もあった。
「陛下は単純で……そこがまた魅力なのですが。時折心配になります」
ベールの独り言に、入室したアスタロトが返した。
「単純だから長生きできるんですよ、我々も含めてね」
いろいろと複雑に考えるわりに、すぐ放棄する。その意味では全員大差なかった。長生きのコツ、秘訣と呼ぶにはあまりに乱暴だが、ある意味で真理なのだろう。
「反論できません」
くすくす笑うベールの脇を抜けて書類を回収したアスタロトは、廊下の先で足を止める。
「……先手を打ちますか」
20
お気に入りに追加
4,953
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
「アゼリア・フォン・ホーヘーマイヤー、俺はお前との婚約を破棄する!」
「王太子殿下、我が家名はヘーファーマイアーですわ」
公爵令嬢アゼリアは、婚約者である王太子ヨーゼフに婚約破棄を突きつけられた。それも家名の間違い付きで。
理由は聖女エルザと結婚するためだという。人々の視線が集まる夜会でやらかした王太子に、彼女は満面の笑みで婚約関係を解消した。
王太子殿下――あなたが選んだ聖女様の意味をご存知なの? 美しいアゼリアを手放したことで、国は傾いていくが、王太子はいつ己の失態に気づけるのか。自由に羽ばたくアゼリアは、魔王の溺愛の中で幸せを掴む!
頭のゆるい王太子をぎゃふんと言わせる「ざまぁ」展開ありの、ハッピーエンド。
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2021/08/16 「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過
※2021/01/30 完結
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
この人が私の夫……政略結婚だけど、一目惚れです!
12歳にして、戦争回避のために隣国の王弟に嫁ぐことになった末っ子姫アンジェル。15歳も年上の夫に会うなり、一目惚れした。彼のすべてが大好きなのに、私は年の離れた妹のように甘やかされるばかり。溺愛もいいけれど、妻として愛してほしいわ。
両片思いの擦れ違い夫婦が、本物の愛に届くまで。ハッピーエンド確定です♪
ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/07/06……完結
2024/06/29……本編完結
2024/04/02……エブリスタ、トレンド恋愛 76位
2024/04/02……アルファポリス、女性向けHOT 77位
2024/04/01……連載開始
死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります
みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」
私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。
聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?
私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。
だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。
こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。
私は誰にも愛されていないのだから。
なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。
灰色の魔女の死という、極上の舞台をー
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる