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94章 突然のベビーラッシュ

1289. 目線を変えると解決する

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 アムドゥスキアスが働く気になった。その一報は、ルシファーやアスタロトを驚かせた。何度か誘ったが断わられていたのだ。温泉街の地形も修復した上、翡翠竜を役職付きにした功績が重なり、ルキフェルは意気揚々と帰城した。

 温泉街の建物は、最低限必要な住居のみ修復した。魔王の屋敷や公共の建物は、復興計画が練られている。すべてを魔法で解決すると、魔力が使えない種族の仕事を奪ってしまう。その上、公共事業にすることで税金を使い、災害で疲弊した地域の経済を回す効果も期待できた。

 その辺はルキフェルも承知しているため、さっさと引き上げてきたのだが……すぐに呼び戻される。温泉街を管理するデカラビア子爵家から、鳳凰の卵が大量に産まれたと連絡が入ったのだ。転移で向かった火口は、多くの鳳凰が巣を構えていた。

 ヒナ以外の卵や成獣は溶岩でも平気なので、巣は火口内部に作られる。ぐらぐらと煮える火の海を覗き込み、暑さに滲んだ汗を拭った。ルキフェルは自らを守る結界を作ると、勢いよく火口から飛び込む。あちこちの巣で聴取した結果、突然卵を産みたくなったという回答を得た。

 無精卵なのでは? と疑ったが、彼らは一様に首を横に振る。噴火もあり興奮して交尾したカップル夫婦が多かったという事実も重なり、有精卵の可能性が高いそうだ。他の種族にとって噴火は大災害だが、鳳凰達は吉兆だった。

 昔から噴火後は産卵ラッシュが訪れるため、ある意味今回も通常の産卵サイクルだろう。ちょうど他種族のベビーラッシュと時期が重なったので、念を入れて調査したに過ぎない。報告書をさらりと書き上げ、ルキフェルはベールに提出した。

「優先度から判断しても、保育園の増設は急務です」

「今作ってるところに全員入れそう?」

 ベールの入れた烏龍茶を飲みながら、ルキフェルは計画書を手に取る。転移魔法陣を急ぎ稼働させることで、保育園は魔王城周辺の土地に建設する方針だった。魔王のお膝元なら安心して預けられる上、当初問題視された移動手段が片付くなら、このまま進める予定だ。

「建物を追加しないと足りません」

 ドワーフにはすでに指示済みで、バランスが崩れると苦情が出たものの、両側へ平均に建て増しすることで決着した。今回はどうしても左右対称の建物にしたいそうだ。特に反対する理由もないので、専門家に任せるあたりは魔族だった。

「転移魔法陣の設置だけどね。地脈がない地域の魔力供給に困ってる」

 近くに地脈があれば、繋いで魔力を供給する。だが地脈が通っていない地区もあった。魔力酔いしやすい種族などが住んでいるため、彼ら自身の魔力も多くない。個人の魔力を当てにして発動するようでは、緊急時に使用できない者が出るだろう。懸念を表明するルキフェルは、作った魔法陣を指先に取りだしてくるくる回した。

「オレにもお茶をくれ」

 執務の手を止めたルシファーが、ようやく片付いた机の上に肘をつく。ここ最近はアスタロトが戸籍問題で右往左往しており、かなりの量の書類が回された。文句も言わずに片付けたルシファーは、ベールが用意した烏龍茶に口を付けて肩を解す。

「何か問題でもあったか?」

「うん。地脈から魔力が供給できない地域って、住民の魔力が少ないじゃん。転移だから魔力の消費量が多いんだよね」

 動力となる魔力が足りないと危険だ。そう告げるルキフェルの顔を見つめるルシファーは、きょとんとした顔で思わぬ解決方法を示した。

「そんなの、着地点である魔王城の地脈から補えばいいじゃないか」
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