上 下
1,287 / 1,397
94章 突然のベビーラッシュ

1282. 4割の8割は約3割

しおりを挟む
 手際の良さを褒められて、つい3人もおむつ替えをしてしまった。我に返って仕事に復帰するため魔王城へ戻ったルシファーは、涎で汚された髪や服に浄化を掛ける。鼻歌を歌いながら廊下を歩くと、コボルトの侍従ベリアルが、書類片手に飛びついてきた。

「ルシファー様、休暇の申請書を受けてください」

「ん? 構わないがどうした」

 さらさらと署名してやり顔を上げると、同様の書類を持ったコボルトが列を作っていた。引ったくるように受け取った休暇申請を拝み、ベリアルが安堵の息を吐く。

「一族に多数の出産がありまして、手が足りないのです」

「「「お願いします」」」

 強請られるまま、休暇申請を認めていく。書類を提出した者から、順次休暇に入った。がらんとした魔王城の廊下を見回し、失敗したかと額を押さえる。

「陛下っ! 人が足りません」

「だよな……うん、わかってた」

 なんとなく察した。オレが気前よくサインしたからだ。コボルトは侍従の仕事に就くことが多く、その大半が同族意識が強い。現時点で、侍従がとにかく足りない。叱られても後の祭りだった。

「悪い、オレが休暇をやった。臨時職員を増やせないだろうか」

「城下町に声を掛けてきます」

「悪いが頼む」

 駆け出したデュラハンを見送り、執務室の扉を開けたところで立ち止まる。回れ右して扉を閉める前に捕まった。

「ルシファー様、事情の説明をしてください」

 配下なのにお願いすらされない。ほぼ命令形のアスタロトに逆らうことなく、流れるように入り口近くの床に正座した。悪いことをした自覚はある。説明を終えたところで、促されてソファに移った。足の先が痺れたが、その程度で終わりらしい。

「悪いことではありませんが、事前にご相談ください」

「悪い。最初はベリアルだけだと思って署名したら、ずらっと……こう行列がな」

 出来てて断れなかった。正直に事情を話したルシファーに、アスタロトは苦笑いする。おそらく人数が多いので許可が下りない可能性を考慮して、一番甘い魔王に相談したのだろう。普段よく働いてくれるコボルトを責める気はない。

「人手の補充は、デュラハンに任せた。今頃城下町で……」

「募集したのですか? 現時点で、4割の種族が多出産による混乱が判明し、そのうちの8割が救助要請を出しています」

「は?」

 全体の4割の8割が救助要請? こないだの豪雨災害レベルの数じゃないか。唸った後、アスタロトにひとつ案を提示する。

「保育園を作ろう。巨大な保育園を大至急建てさせ、そこで赤子をまとめて預かる。それなら安全も確保できるし、支給も迅速に出せる。ひとまず……魔王城前の広場は、どうか」

 差し当たって広い場所を思いつけずに付け足すと、アスタロトは目を見開いた後で慎重に言葉を選んだ。

「保育園の案は素晴らしいのですが、魔王城前はどうでしょうか。ベールやルキフェルを招集します」

「ああ、ベルゼビュートは呼んでやるなよ。後で連絡だけすればいい」

「わかっております」

 長期の休暇中だ。中断させるほどの深刻な事態ではない。そこにはアスタロトもあっさり同意し、ベールとルキフェルの招集に合わせ、大公女とリリスも合流した。

 がやがやとお茶会のような盛り上がりを見せた会議は、2時間で結果を導き出した。

「それぞれの役目を果たしてくれ、では解散!」

 ルシファーの号令で、一斉に部屋から出ていく。残ったリリスはにこにこしながら、ルシファーと腕を組んだ。魔の森の申し子には、重要な仕事が割り振られている。

「さあ、森へ行きましょう」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

呪われた子と、家族に捨てられたけど、実は神様に祝福されてます。

光子
ファンタジー
前世、神様の手違いにより、事故で間違って死んでしまった私は、転生した次の世界で、イージーモードで過ごせるように、特別な力を神様に授けられ、生まれ変わった。 ーーー筈が、この世界で、呪われていると差別されている紅い瞳を宿して産まれてきてしまい、まさかの、呪われた子と、家族に虐められるまさかのハードモード人生に…! 8歳で遂に森に捨てられた私ーーキリアは、そこで、同じく、呪われた紅い瞳の魔法使いと出会う。 同じ境遇の紅い瞳の魔法使い達に出会い、優しく暖かな生活を送れるようになったキリアは、紅い瞳の偏見を少しでも良くしたいと思うようになる。 実は神様の祝福である紅の瞳を持って産まれ、更には、神様から特別な力をさずけられたキリアの物語。 恋愛カテゴリーからファンタジーに変更しました。混乱させてしまい、すみません。 自由にゆるーく書いていますので、暖かい目で読んで下さると嬉しいです。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

料理がしたいので、騎士団の任命を受けます!

ハルノ
ファンタジー
過労死した主人公が、異世界に飛ばされてしまいました 。ここは天国か、地獄か。メイド長・ジェミニが丁寧にもてなしてくれたけれども、どうも味覚に違いがあるようです。異世界に飛ばされたとわかり、屋敷の主、領主の元でこの世界のマナーを学びます。 令嬢はお菓子作りを趣味とすると知り、キッチンを借りた女性。元々好きだった料理のスキルを活用して、ジェミニも領主も、料理のおいしさに目覚めました。 そのスキルを生かしたいと、いろいろなことがあってから騎士団の料理係に就職。 ひとり暮らしではなかなか作ることのなかった料理も、大人数の料理を作ることと、満足そうに食べる青年たちの姿に生きがいを感じる日々を送る話。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」を使用しています。

【TS転生勇者のやり直し】『イデアの黙示録』~魔王を倒せなかったので2度目の人生はすべての選択肢を「逆」に生きて絶対に勇者にはなりません!~

夕姫
ファンタジー
【絶対に『勇者』にならないし、もう『魔王』とは戦わないんだから!】 かつて世界を救うために立ち上がった1人の男。名前はエルク=レヴェントン。勇者だ。  エルクは世界で唯一勇者の試練を乗り越え、レベルも最大の100。つまり人類史上最強の存在だったが魔王の力は強大だった。どうせ死ぬのなら最後に一矢報いてやりたい。その思いから最難関のダンジョンの遺物のアイテムを使う。  すると目の前にいた魔王は消え、そこには1人の女神が。 「ようこそいらっしゃいました私は女神リディアです」  女神リディアの話しなら『もう一度人生をやり直す』ことが出来ると言う。  そんなエルクは思う。『魔王を倒して世界を平和にする』ことがこんなに辛いなら、次の人生はすべての選択肢を逆に生き、このバッドエンドのフラグをすべて回避して人生を楽しむ。もう魔王とは戦いたくない!と  そしてエルクに最初の選択肢が告げられる…… 「性別を選んでください」  と。  しかしこの転生にはある秘密があって……  この物語は『魔王と戦う』『勇者になる』フラグをへし折りながら第2の人生を生き抜く転生ストーリーです。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

処理中です...