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93章 大規模視察、留守番は誰
1269. 立派な魔族だが……単独?
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ヤンの怒りの鉄拳を受けた動物は、じたばたと手足を動かした。うぎゅぅ! 威嚇するような声を出して睨んでくる。
「また新種か?」
ルシファーが手を近づけると、いきなり牙が食い込んだ。噛まれたのだが、結界が防いでいる。ただ、外側の1枚が食い破られた。
「なかなかの攻撃だ」
感心しながら首根っこを掴んで持ち上げる。小さな手足を丸める姿は、母猫に咥えられた子猫のようだ。問題は鋭すぎる牙と背中に生えた小さな翼だった。猫ではない。
「言葉は分かるか?」
小動物の体を支えながらルシファーが尋ねる。リリスは目を輝かせて手を出そうとし、魔王に止められた。
「まだダメだ。相手の許可を得ていないし、魔族かどうかも分からない」
危険度も判定できないのだ。迂闊に触らせるわけがない。しかしリリスは思わぬ反論を口にした。
「あら、ルシファーだって許可なく首を摘んでるじゃない」
一瞬、頷きそうになる。アスタロトの変な部分を見習ったな。
「捕まえただけだ。捕獲と愛玩は別だぞ」
リリスは撫で回すだけだろう。そう言い聞かされ、少し考えて頷く。捕獲する気はないし、すでに捕獲された猫もどきにリリスが触れる理由はない。諦め切れずに頬を膨らませるが、いくらリリスに甘いルシファーでも許可しなかった。
「我が君、言葉なら通じますぞ」
ヤンと同じく魔獣に分類してよさそうだ。猫っぽい何かは、腹が減ったと繰り返しているらしい。こちらの言葉は理解出来ると判断し、砂の上に下ろした。砂と同化しそうなクリーム色の猫もどきは、大人しく座る。
「魚は切り分けるから、他人のを奪ってはダメだぞ」
うきゅ、みゃー。猫にしては妙な鳴き声で返答され、撫でてから切り分けた魚を置く。どうぞと差し出した手を引っ込める前に、がつがつと食べ始めた。
「リリスは自分の分を食べなさい。イポスもだ」
顔を上げたルシファーはやや脱力しながら、そう言い聞かせた。自分達の魚を提供するつもりのようだ。まだ魚は余っているし、しっかり食事を摂るように命じる。一度収納へしまった魚の切り身を取り出し、表面を炙ってから猫もどきの前に置いた。
毛皮がクリーム色というか、やや白茶けたオレンジ色をしている。色が示す通り、魔力量は豊富だった。一番外側とはいえ、魔王の結界を1枚突破したのだから、立派な魔族だ。
「仲間はいるか? まだ魚はあるぞ」
いれば呼んで一緒に食べるといい。そう話しかけたところ、きょとんとした顔で首を横に振った。もぐもぐと動く口は開かない。食べている物が出てしまうからだろう。猫同様に削るように舐めとる食べ方なので、あっという間に飲み込んだ。
うみゅぅ……ヤンの翻訳によれば、仲間は知らないとのこと。気づいたら海辺にいて、腹が減ったので匂いにつられて襲ったらしい。毛皮の色が保護色になったこともあり、素早い動きで餌を掠め取るつもりだった。ヤンの察知能力と動体視力に負けたが、本人は気にせず魚を食べ続ける。
見守るヤンも、大きな口でばくりと焼き魚を丸呑みした。その口の大きさと勢いにびっくりした猫もどきは、餌を引き摺ってヤンから距離をとる。
リリスに「あーん」で食べさせ、自分も食べさせてもらっていたルシファーは目を見開き、それから声をかけた。
「安心しろ、まだ魚はある。それにヤンはお前の食事を取ったりしないぞ」
ゔみゃっ! 違うと否定されたのか? ニュアンスから察したルシファーに、ヤンが溜め息をついて訳す。
「我に噛まれると思ったらしいですぞ。それと巨大な犬ではありませぬ」
誇り高い魔狼の頂点に君臨するフェンリルは、不満そうに鼻を鳴らした。
「また新種か?」
ルシファーが手を近づけると、いきなり牙が食い込んだ。噛まれたのだが、結界が防いでいる。ただ、外側の1枚が食い破られた。
「なかなかの攻撃だ」
感心しながら首根っこを掴んで持ち上げる。小さな手足を丸める姿は、母猫に咥えられた子猫のようだ。問題は鋭すぎる牙と背中に生えた小さな翼だった。猫ではない。
「言葉は分かるか?」
小動物の体を支えながらルシファーが尋ねる。リリスは目を輝かせて手を出そうとし、魔王に止められた。
「まだダメだ。相手の許可を得ていないし、魔族かどうかも分からない」
危険度も判定できないのだ。迂闊に触らせるわけがない。しかしリリスは思わぬ反論を口にした。
「あら、ルシファーだって許可なく首を摘んでるじゃない」
一瞬、頷きそうになる。アスタロトの変な部分を見習ったな。
「捕まえただけだ。捕獲と愛玩は別だぞ」
リリスは撫で回すだけだろう。そう言い聞かされ、少し考えて頷く。捕獲する気はないし、すでに捕獲された猫もどきにリリスが触れる理由はない。諦め切れずに頬を膨らませるが、いくらリリスに甘いルシファーでも許可しなかった。
「我が君、言葉なら通じますぞ」
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「魚は切り分けるから、他人のを奪ってはダメだぞ」
うきゅ、みゃー。猫にしては妙な鳴き声で返答され、撫でてから切り分けた魚を置く。どうぞと差し出した手を引っ込める前に、がつがつと食べ始めた。
「リリスは自分の分を食べなさい。イポスもだ」
顔を上げたルシファーはやや脱力しながら、そう言い聞かせた。自分達の魚を提供するつもりのようだ。まだ魚は余っているし、しっかり食事を摂るように命じる。一度収納へしまった魚の切り身を取り出し、表面を炙ってから猫もどきの前に置いた。
毛皮がクリーム色というか、やや白茶けたオレンジ色をしている。色が示す通り、魔力量は豊富だった。一番外側とはいえ、魔王の結界を1枚突破したのだから、立派な魔族だ。
「仲間はいるか? まだ魚はあるぞ」
いれば呼んで一緒に食べるといい。そう話しかけたところ、きょとんとした顔で首を横に振った。もぐもぐと動く口は開かない。食べている物が出てしまうからだろう。猫同様に削るように舐めとる食べ方なので、あっという間に飲み込んだ。
うみゅぅ……ヤンの翻訳によれば、仲間は知らないとのこと。気づいたら海辺にいて、腹が減ったので匂いにつられて襲ったらしい。毛皮の色が保護色になったこともあり、素早い動きで餌を掠め取るつもりだった。ヤンの察知能力と動体視力に負けたが、本人は気にせず魚を食べ続ける。
見守るヤンも、大きな口でばくりと焼き魚を丸呑みした。その口の大きさと勢いにびっくりした猫もどきは、餌を引き摺ってヤンから距離をとる。
リリスに「あーん」で食べさせ、自分も食べさせてもらっていたルシファーは目を見開き、それから声をかけた。
「安心しろ、まだ魚はある。それにヤンはお前の食事を取ったりしないぞ」
ゔみゃっ! 違うと否定されたのか? ニュアンスから察したルシファーに、ヤンが溜め息をついて訳す。
「我に噛まれると思ったらしいですぞ。それと巨大な犬ではありませぬ」
誇り高い魔狼の頂点に君臨するフェンリルは、不満そうに鼻を鳴らした。
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