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92章 新種発見ラッシュ
1259. 大量に生んだら寝るらしい
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イグアナは仮の文字が取れるまで、領地が得られない。検討した結果、魔王城の裏庭の日当たりがいい区画を、自由に使う権利を得た。話しかけて撫でるイザヤを、遠くから眺めるアンナ。彼女はあまり得意ではないらしい。
双子を乗せたベビーカーもどきを押しながら、微妙な距離を保った。ベビーカーの原型は、人族が異世界人から得た知識を基に作られたという。ドワーフが改良を重ねた結果、不思議な形の車輪になった。見た目は三角に近いのだが、驚くほど振動が少ない。車輪を固定する軸に理由があるそうだ。技術協力したルキフェルは、久しぶりに見た過去の作品に目を細めた。
「いただいたベビーカー、使いやすいです」
「うん、今ならもう少し改良できそう。新作が出来たら渡すから試してみてよ」
「はい」
にこやかに応じるアンナに手を振り、ルキフェルは欠伸をひとつ。ここ最近睡眠が疎かになっているのだ。新種の発見が続いたので、ほぼゼロ睡眠の日々が続いていた。心配ねと呟くリリスの声から事情を察したルシファーが、何やら魔法陣を取り出して慎重に転送する。
足下に突然現れた魔法陣に、あっという間に意識を奪われたルキフェルが膝から崩れ落ちた。転移したルシファーが支え、後ろから駆けて来たリリスが覗き込む。完全に意識がない。だが気を失ったというより、眠っただけに見えた。
リリスを護衛したヤンが背中を貸してくれたので、言葉に甘えてルキフェルを乗せる。並んで歩くルシファーとリリスは腕を組み、それを見た魔族は微笑ましさに頬を緩めた。
「いい感じですね」
「恋人同士って感じで」
「つい先日まで親子だったのに」
見守る彼らの声が届くルシファーは素知らぬ顔をするが耳が赤くなる。聞いていないリリスは、調子の外れた鼻歌を口遊みながら寄りかかった。
「ルシファー、魔の森は新しい命を大量に生み出したわ。きっと数十年で眠りに入るのよ」
過去がそうだったもの。リリスは雑談のように軽い口調で、思わぬことを口にした。魔の森が眠りに入る前は、大量の魔力を蓄える。それから自分のいない間に対応するため、さまざまな種族を生み出して置いていく。環境に対応できるよう、多種多様の魔族を生むのだ。
話を聞いたルシファーは心当たりがあった。数千年に一度、新種が複数発見される時期が記録されている。定期的というには不規則だが、その前後は森の侵食がゆっくりになる特徴があった。これは魔の森の眠りだったのか。アスタロトやルシファーが長期の眠りに入るのと同じく、森にも周期があるらしい。
「せっかくだ、記録しておこう」
いつでも誰でも情報を共有できるように。魔王史に刻んでおくことに決め、ルシファーはメモを取って机の上に転送した。足を踏み出したリリスは、驚いて飛び退る。
「きゃっ、何かいるわ」
「どれ……? これは昆虫でいいのか?」
先を歩くヤンが足を止め、大きな虫に目を見開いた。形としては昆虫が近いだろう。頭と胸と尻が分割して、足が6本ある。イメージとしては子犬サイズの蟻だ。だが尻尾が長い。猫のようにゆらゆらと細い尻尾が左右に揺れ、その先に穂先がついていた。
綿毛のような尻尾の先以外は、硬い甲羅に覆われた昆虫だった。背に羽が見当たらない。唸りながらじっくり観察し、ルキフェルを呼ぼうとして眠らせたことを思い出した。起こすほどの事件ではない。
「捕獲して後で検証か」
「魔族なら捕獲したら失礼よ」
「言葉が通じる種族はいないか?」
周囲で見守る人々に声をかけると、数人が近づいてきた。それぞれに得意な言語や、特殊な唸り声などでコンタクトを取る。反応はイマイチで、首を傾げるばかり。そこへ近づいて来たのは、巨大蜥蜴イグアナだった。
尻尾を打ち付けて合図を出すと、昆虫がその音に反応した。それから同じ音を繰り返す形で顎を鳴らす。蟻そっくりの強固な顎が、がちんと音を立てた。
「……会話だったか?」
「少なくとも挨拶だったんじゃないかしら」
魔王と魔王妃は首を傾げるものの、判断そのものは明日に持ち越した。ルキフェルがぐっすり寝て目覚めれば、解決してくれるだろう。専門外の者があれこれ詮索しても、プロが出てくれば一発で解決することも多い。ルシファーはそんな事例をうんざりするほど知っていた。
双子を乗せたベビーカーもどきを押しながら、微妙な距離を保った。ベビーカーの原型は、人族が異世界人から得た知識を基に作られたという。ドワーフが改良を重ねた結果、不思議な形の車輪になった。見た目は三角に近いのだが、驚くほど振動が少ない。車輪を固定する軸に理由があるそうだ。技術協力したルキフェルは、久しぶりに見た過去の作品に目を細めた。
「いただいたベビーカー、使いやすいです」
「うん、今ならもう少し改良できそう。新作が出来たら渡すから試してみてよ」
「はい」
にこやかに応じるアンナに手を振り、ルキフェルは欠伸をひとつ。ここ最近睡眠が疎かになっているのだ。新種の発見が続いたので、ほぼゼロ睡眠の日々が続いていた。心配ねと呟くリリスの声から事情を察したルシファーが、何やら魔法陣を取り出して慎重に転送する。
足下に突然現れた魔法陣に、あっという間に意識を奪われたルキフェルが膝から崩れ落ちた。転移したルシファーが支え、後ろから駆けて来たリリスが覗き込む。完全に意識がない。だが気を失ったというより、眠っただけに見えた。
リリスを護衛したヤンが背中を貸してくれたので、言葉に甘えてルキフェルを乗せる。並んで歩くルシファーとリリスは腕を組み、それを見た魔族は微笑ましさに頬を緩めた。
「いい感じですね」
「恋人同士って感じで」
「つい先日まで親子だったのに」
見守る彼らの声が届くルシファーは素知らぬ顔をするが耳が赤くなる。聞いていないリリスは、調子の外れた鼻歌を口遊みながら寄りかかった。
「ルシファー、魔の森は新しい命を大量に生み出したわ。きっと数十年で眠りに入るのよ」
過去がそうだったもの。リリスは雑談のように軽い口調で、思わぬことを口にした。魔の森が眠りに入る前は、大量の魔力を蓄える。それから自分のいない間に対応するため、さまざまな種族を生み出して置いていく。環境に対応できるよう、多種多様の魔族を生むのだ。
話を聞いたルシファーは心当たりがあった。数千年に一度、新種が複数発見される時期が記録されている。定期的というには不規則だが、その前後は森の侵食がゆっくりになる特徴があった。これは魔の森の眠りだったのか。アスタロトやルシファーが長期の眠りに入るのと同じく、森にも周期があるらしい。
「せっかくだ、記録しておこう」
いつでも誰でも情報を共有できるように。魔王史に刻んでおくことに決め、ルシファーはメモを取って机の上に転送した。足を踏み出したリリスは、驚いて飛び退る。
「きゃっ、何かいるわ」
「どれ……? これは昆虫でいいのか?」
先を歩くヤンが足を止め、大きな虫に目を見開いた。形としては昆虫が近いだろう。頭と胸と尻が分割して、足が6本ある。イメージとしては子犬サイズの蟻だ。だが尻尾が長い。猫のようにゆらゆらと細い尻尾が左右に揺れ、その先に穂先がついていた。
綿毛のような尻尾の先以外は、硬い甲羅に覆われた昆虫だった。背に羽が見当たらない。唸りながらじっくり観察し、ルキフェルを呼ぼうとして眠らせたことを思い出した。起こすほどの事件ではない。
「捕獲して後で検証か」
「魔族なら捕獲したら失礼よ」
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周囲で見守る人々に声をかけると、数人が近づいてきた。それぞれに得意な言語や、特殊な唸り声などでコンタクトを取る。反応はイマイチで、首を傾げるばかり。そこへ近づいて来たのは、巨大蜥蜴イグアナだった。
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「……会話だったか?」
「少なくとも挨拶だったんじゃないかしら」
魔王と魔王妃は首を傾げるものの、判断そのものは明日に持ち越した。ルキフェルがぐっすり寝て目覚めれば、解決してくれるだろう。専門外の者があれこれ詮索しても、プロが出てくれば一発で解決することも多い。ルシファーはそんな事例をうんざりするほど知っていた。
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