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92章 新種発見ラッシュ

1250. 新種のぷよぷよ?

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 祭りとは準備から片付けまでセットだ。必要なものを手配し、準備して配置する。喧嘩がないよう、種族特性を考えながら会場の手配をするのも、もう慣れたものだった。大公や魔王の仕事の一部といっても差し支えない。

 当日は焼肉や飲み物の配布など下働きが多い彼らだが、当然片付けも彼らの仕事だった。会場設営で伸ばした木の枝をカットしたり、芝生の上に落ちたゴミを風の魔法で回収し、次回も使うテントなどは浄化を掛けて収納していく。

 魔法があるからある程度は楽だが、予想外の落とし物や忘れ物を見つけることもあった。そうして今回も、予想外の何かを拾ってしまい、ルシファーは頭を抱える。どう見ても生き物だ。だが初めて見る外見に困惑した。

 目と鼻と口の位置がわからないんだが……ぷるぷると動くので生き物だろうと判断した。問題はこれを放置した場合の弊害だ。もし新種の魔族だったら大事件になる。魔王による魔族殺害未遂事件に発展する可能性もあった。だが、意思の疎通をどうしたらいいのか。

 結界もあるし、最悪手足の1本や2本、食われても再生できるだろう。恐ろしいことを考えながら、ルシファーは無造作に左手で拾い上げた。揺れる生物の手触りは、リリスのおやつによく出ていた果物のゼリーが近い。わずかに色がついているが、ほぼ透明だった。

 顔の近くまで持ち上げてじっくり観察するが、特に危害を加えられることもなかった。無害だな。己を実験台に判断した魔王は、ぷるぷるした何かを箱に入れた。拾得物を回収する箱なので、使用目的としては間違っていない。

「アスタロト、いるか?」

 今回のお祭りは規模が大きかった。ルシファーは城門前の芝生を担当したが、中庭や裏庭、ダークプレイスの一部まで出店があり盛り上がったのだ。出店のゴミや片付けに関しては、当事者に任せている。片付けができない業者は次回から参加できなくなるため、彼らは周囲のゴミまできっちり拾うのが慣わしだった。

 余談ではあるが、祭りがあるたびに街や道沿いの汚れが綺麗になるという副産物もある。祭りは民も楽しめるし、他種族との交流に持ってこいだった。今後のために転移魔法陣の普及も進めるので、もっと祭りの重要性が増すだろう。

 考え事をしているルシファーの前に現れたアスタロトはため息を吐き、ぼんやりしている主君の手を無造作に掴んだ。びくりと肩を揺らした後、ほっとした顔を見せる。常時結界を展開しているため、とにかく無防備に振る舞う魔王に苦笑いした。圧倒的強者は、その強さゆえに警戒心が薄いのだ。

「どうなさいました?」

「これなんだが、生き物だよな?」

 ずいっと箱を差し出す。中には、拾った空き缶を体内に取り込んだ透明のゼリー状物体が揺れていた。首を傾げたアスタロトの様子に、やはり彼も知らなかったかと得意げになる。新種だとしたら、ルキフェルも呼んだ方がいいか?

「ルキフェル、手が空いてたら来れるか?」

「すぐ後ろにいたけど、何それ」

 城門付近で後片付けのチェックをしていたルキフェルは、アスタロトが移動した気配に気づいて距離を詰めていた。ひょいっと横から箱を覗き込み、躊躇いなく手を突っ込む。

「危ないのではありませんか?」

「ああ、問題ない。オレがすでに手を入れた」

「はい?」

「だから、オレがもう試したがなんともない……ぞ?」

 途中でアスタロトのおどろおどろしい気配に顔を引きつらせたルシファーは、やや腰が引けた姿で一歩後ずさった。追いかけるアスタロト、さらに下がるルシファー。さっさと箱を奪って検証を始めるルキフェル。まとまりのない上層部の動きに、片付けついでに芝の手入れを始めたエルフ達は顔を見合わせた。

 危ないから関わらない。それこそが魔王城に勤める上で、長生きするコツである。先輩達から代々受け継がれる秘訣を胸に、彼女らは目を逸らした。
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