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91章 天才恋愛作家現る?

1247. 喧嘩も酒も祭りの花

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 お祭りは盛り上がるほど事件が起きる。酔っ払いの殴り合いだったり、ドラゴンとシェンロンのブレス対決だったり、いつもお祭りは騒動が付き物だった。当然、今回が別なはずはなく……。

「誰に絡んでんだ、このやろっ」

 アベルがルーサルカに抱き着いたおっさんを殴り倒す。彼の仲間が集まり、アベルを取り囲んだ。その隙にアスタロトによってルーサルカが回収される。

「お義父様、アベルが!」

「このくらいで倒される男が、魔王チャレンジの褒賞を貰えるわけがないでしょう。わかっていますね? アベル、負けたら褒賞の剣とルカは没収です」

「絶対勝つっ!」

 気合の入ったアベルが、拳での殴り合いに突入する。この世界でかなり鍛えた彼は、身軽さを利用して男を蹴り飛ばし、殴った。地に伏せた数の方が多くなった頃、見物していたレライエが指摘する。

「アスタロト大公閣下、ルカは褒賞ですか?」

「いいえ。私とアデーレの可愛い娘です」

 にっこりと否定する。つまり褒賞は負けたら没収だが、ルーサルカは別。言葉の罠に気づいたルーシアが溜め息を吐いた。勝敗に関係なく、ルーサルカは没収という意味だ。知らずに戦うアベルが気の毒になる。

「頑張って! 勝ったら、明日は一日手を繋いであげるわ」

「っ!?」

 大喜びのアベルを睨むアスタロトが息を呑む。ここはアベルを負けさせなくては……バレない方法はないか。血走った目で周囲を窺う部下で友人の肩を、ルシファーが叩いた。

「やめとけ、嫌われるぞ?」

「おや、何のお話でしょうか。ルシファー様」

 穏やかに切り返すが、アスタロトの笑顔は引き攣っていた。普段は余裕綽々のくせに、ルーサルカが絡むとこれか。息子絡みだと平然としているくせに。自分も誰かを非難できる立場にいない魔王は、その自覚がない。

「魔王城の上層部は性格破綻者ばかりですね」

 ぼそっと指摘するイポスに、ヤンが唸り声で忠告する。

「陛下も含め耳がいいから気をつけた方がよいぞ」

「「聞こえてるぞ(います)」」

 アスタロトとルシファーに睨まれ、ヤンはぺたんと地面に伏せた。気配を消す能力ばかりが鍛えられていくフェンリルを、リリスがそっと撫でた。

「だめよ、ヤン。本当のことを言われると怒るんだから」

 こちらは流石に殺気を向けられることはなかった。困ったような顔のルシファーと、無視したアスタロトで反応が分かれる。

「これでっ、終わりだ!」

 最後の一人を殴り倒したアベルがぐっと拳を突き上げる。ルーサルカが歓声を上げ、シトリーとレライエが手を叩く。ルーシアは婚約者ジンと移動した後だった。結果が分かっているので心配しなかったのだろう。

「てぇしたもんだ、兄ちゃん」

「これでも飲めや」

 酒盛りで出来上がったドワーフ一行に絡まれ、アベルが引きずられていく。ルーサルカはいい笑顔で見送った。

「一緒に行かないの?」

 尋ねるリリスへ、彼女は平然と切り返した。

「ええ、約束は明日ですし、これからお義父様やお義母様と約束があるの。アベル、二日酔いにならないといいけど」

「それは……無理だと思うわ」

 連れて行ったのが、酒豪揃いのドワーフだ。文字通り酒を浴びるほど飲まされる。飲めなくなれば、本当に浴びせられるだろう。盛り上がる祭りの後半になれば、ちらほらと姿を消すカップルも現れる。

 早々に姿を消したベルゼビュートとエリゴスを見送ったルシファーは、あふっと欠伸をするリリスを抱き上げた。横抱きにしたリリスは胸に本を抱えている。先程、トリイ先生ことイザヤにサインを貰ったらしい。嬉しそうに説明しながら表紙を見せてくれた。

「もう休もうか、付き合っていると夜が明けるぞ」

「そうね。明日もお祭りはあるんだもの。もう寝ましょう」

 慌てて護衛につくヤンが尻尾を振りながら歩く。少し離れた場所でヤンを探すピヨが炎を噴いてテントを燃やし、怒られるのは数十分後のことだった。
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