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91章 天才恋愛作家現る?
1246. お祭りは無礼講で
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小説家の卵や論文を担いだ魔族が集合し、魔王城前は盛り上がっていた。論文は物々交換も行われ、書き手も大量に増版して持ち込んだ。小説関連や絵本は過去の出版物も即売会が行われ、テント下の光景を見たアベルから「コミケじゃね?」と呟きが聞こえる。
聞き齧った単語は伝言ゲームの結果「みけじゃ」となってルシファーに到達した。本に匂いがつくので焼肉は夜からとなっている。現時点では菓子やお茶、ジュースなどを販売する出店が中心となっている広場で、首を傾げる。左手にストローが刺さった黄色いジュース、右手はコーヒーという奇妙な姿だ。
「みけじゃ、とは何だろう」
「後でアベルに聞いてみましょうよ」
ヤンをソファ代わりに寛ぐ魔王と魔王妃は、頷き合う。この後、大公含め焼肉配布の屋台が忙しくなるので、今のうちに休憩をとる方針だった。巨大化したヤンの反対側はアスタロトが昼寝をしており、尻尾近くではエリゴスと手を繋ぐベルゼビュートの休憩姿が見られた。
あの女大公ベルゼビュートの婚約者を一目見ようと近づく者が後を絶たない。エリゴスは愛想を振りまくこともないが、邪険に追い払うこともしなかった。ただ、ヤンには丁寧に頭を下げて礼を尽くしたため、誰かが近づきすぎるとヤンの尻尾が助けてくれるオプション付きだ。
ヤンの腹で寛ぐルシファーはひとつ欠伸をする。その手からジュースを受け取り、リリスは一口飲んでまた持たせた。当たり前のように受け取るルシファーが、器用に居眠りを始める。
「この部分、素敵よ……あら、寝てるわ」
小説の文章が気に入ったと振り返ったリリスは、目を閉じたルシファーの顔を覆う純白の髪をかき上げる。うとうとと微睡むルシファーに肩をすくめ、ジュースを受け取って飲み干した。入れ物を収納へ放り込み、ルシファーのコーヒーを受け取るが……覗き込んで迷った。
「苦手なのよね」
甘く砂糖やミルクで味付けしないと飲めないわ。そう呟くリリスの横をよじ登ろうとしたルキフェルが、カップに残ったコーヒーを一気に飲んだ。
「うげぇ、思ったより濃い」
「ルシファーが眠らないように濃いめに淹れさせたんだけど、飲む前に寝ちゃったのよ」
事情を説明しながら、空のカップをこれまた収納空間へ投げ入れた。ルキフェルはヤンに一声かけると、空中を駆けるようにして首の柔らかな毛に抱きつく。
「しばらく寝るから、ベールが来たら呼んで」
「わかったわ」
まだ読書を続けるつもりのリリスは頷き、本に熱中した。その間にベールが顔を出し、ぐっすり眠るルキフェルを撫でて帰ったことなど気づかない。穏やかに過ぎる午後の日差しが陰る頃、ようやく大公達が動き出した。
「あたくしは果物や野菜を担当するから、肉はお願いね」
焼肉は匂いがね、とぼやきながらベルゼビュートは離れたテントに陣取った。婚約者エリゴスは不満もなく、彼女の腰を抱き寄せてついて行く。口元に笑みが浮かんでいた。
似合いのカップルを見送り、ルシファーは眠い目を擦った。やたらと眠いが、この状況で休んだら何を言われるか。頑張るしかない。
「焼くのはブレスでもいい?」
ルキフェルはブレスで肉を焼くつもりのようで、火力に注意するようベールに注意された。隣の焼肉用鉄板をベールが選んだので、燃えてもなんとかするだろう。この辺はお任せだ。ルキフェルの世話はベールと決まっている。
「今回は魚の献上品が多かったので、私が焼きます。ルシファー様はお酒など飲み物の配布を行ってください」
焼きながら髪も一緒に焼くと事件ですからね。嫌味に混ぜて、心配だから火を扱うなと言われた。不器用な部下に頷き、ルシファーはリリスと飲み物を用意し始める。祭りのもてなし、振る舞いは偉い人が行う。魔王城のルールだった。今回も適用されるルールに従い、ルシファーはお酒を注ぎ、リリスは隣で子ども用のジュースやお茶の準備を始めた。
大公女達が作業を終えて合流するのは、まだ少し先のこと。黒髪を三つ編みにして結い上げたリリスは、笑顔で飲み物配布を楽しんだ。
聞き齧った単語は伝言ゲームの結果「みけじゃ」となってルシファーに到達した。本に匂いがつくので焼肉は夜からとなっている。現時点では菓子やお茶、ジュースなどを販売する出店が中心となっている広場で、首を傾げる。左手にストローが刺さった黄色いジュース、右手はコーヒーという奇妙な姿だ。
「みけじゃ、とは何だろう」
「後でアベルに聞いてみましょうよ」
ヤンをソファ代わりに寛ぐ魔王と魔王妃は、頷き合う。この後、大公含め焼肉配布の屋台が忙しくなるので、今のうちに休憩をとる方針だった。巨大化したヤンの反対側はアスタロトが昼寝をしており、尻尾近くではエリゴスと手を繋ぐベルゼビュートの休憩姿が見られた。
あの女大公ベルゼビュートの婚約者を一目見ようと近づく者が後を絶たない。エリゴスは愛想を振りまくこともないが、邪険に追い払うこともしなかった。ただ、ヤンには丁寧に頭を下げて礼を尽くしたため、誰かが近づきすぎるとヤンの尻尾が助けてくれるオプション付きだ。
ヤンの腹で寛ぐルシファーはひとつ欠伸をする。その手からジュースを受け取り、リリスは一口飲んでまた持たせた。当たり前のように受け取るルシファーが、器用に居眠りを始める。
「この部分、素敵よ……あら、寝てるわ」
小説の文章が気に入ったと振り返ったリリスは、目を閉じたルシファーの顔を覆う純白の髪をかき上げる。うとうとと微睡むルシファーに肩をすくめ、ジュースを受け取って飲み干した。入れ物を収納へ放り込み、ルシファーのコーヒーを受け取るが……覗き込んで迷った。
「苦手なのよね」
甘く砂糖やミルクで味付けしないと飲めないわ。そう呟くリリスの横をよじ登ろうとしたルキフェルが、カップに残ったコーヒーを一気に飲んだ。
「うげぇ、思ったより濃い」
「ルシファーが眠らないように濃いめに淹れさせたんだけど、飲む前に寝ちゃったのよ」
事情を説明しながら、空のカップをこれまた収納空間へ投げ入れた。ルキフェルはヤンに一声かけると、空中を駆けるようにして首の柔らかな毛に抱きつく。
「しばらく寝るから、ベールが来たら呼んで」
「わかったわ」
まだ読書を続けるつもりのリリスは頷き、本に熱中した。その間にベールが顔を出し、ぐっすり眠るルキフェルを撫でて帰ったことなど気づかない。穏やかに過ぎる午後の日差しが陰る頃、ようやく大公達が動き出した。
「あたくしは果物や野菜を担当するから、肉はお願いね」
焼肉は匂いがね、とぼやきながらベルゼビュートは離れたテントに陣取った。婚約者エリゴスは不満もなく、彼女の腰を抱き寄せてついて行く。口元に笑みが浮かんでいた。
似合いのカップルを見送り、ルシファーは眠い目を擦った。やたらと眠いが、この状況で休んだら何を言われるか。頑張るしかない。
「焼くのはブレスでもいい?」
ルキフェルはブレスで肉を焼くつもりのようで、火力に注意するようベールに注意された。隣の焼肉用鉄板をベールが選んだので、燃えてもなんとかするだろう。この辺はお任せだ。ルキフェルの世話はベールと決まっている。
「今回は魚の献上品が多かったので、私が焼きます。ルシファー様はお酒など飲み物の配布を行ってください」
焼きながら髪も一緒に焼くと事件ですからね。嫌味に混ぜて、心配だから火を扱うなと言われた。不器用な部下に頷き、ルシファーはリリスと飲み物を用意し始める。祭りのもてなし、振る舞いは偉い人が行う。魔王城のルールだった。今回も適用されるルールに従い、ルシファーはお酒を注ぎ、リリスは隣で子ども用のジュースやお茶の準備を始めた。
大公女達が作業を終えて合流するのは、まだ少し先のこと。黒髪を三つ編みにして結い上げたリリスは、笑顔で飲み物配布を楽しんだ。
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