1,247 / 1,397
91章 天才恋愛作家現る?
1242. 当日よりも準備が大変
しおりを挟む
予想外の速さで、転移魔法陣の設置は承認された。というのも、その後の様々な提案を実現するためにも、移動手段の改善は重要なのだ。作家支援にしても、遠い地域や隣の大陸に住む種族は、移動時間を見越して早めに締め切りが設定されてしまう。その上、情報伝達に遅れが生じた場合、間に合わない可能性もあった。
魔法陣を利用して、魔王城との通信や行き来が定期的に実現できれば、住んでいる場所による不利や偏りが是正できるのだ。魔族にとって目から鱗、画期的だった。ずいぶん昔に設置を検討したことはあるが、魔力の供給問題で挫折した。
転移魔法はかなりの魔力量が必要だ。魔力を使いすぎると体温が低下し、程度によっては倒れることもあった。それゆえに、無理して使用する者が出ることを懸念したのだ。だが魔の森の魔力が使えれば問題ない。その上、魔法陣の管理費用は、街道の整備費を流用できた。
「魔力が余ってるなら、使わない手はないだろう」
ルシファーがさらさらと署名して押印する。大公と魔王の署名が入った転移魔法陣設定は、すぐに噂になった。侍従や侍女から漏れたのか。城下町で騒ぎを巻き起こす。好きでダークプレイスに移住したが、里帰りの際に苦労しなくて済むのは吉報だった。
人々の期待を乗せて、提案書は貴族会議を通過して見事採用された。ここからはルキフェルの出番である。魔王城と各地区を結ぶ魔法陣を大量に描き始めた。設置場所ごとに魔法文字が違うため、複製というわけにいかなかったのだ。さらに石板へ刻むため、ドワーフ達が駆り出された。
魔法で掘り込むより、ドワーフの手で彫刻した方が長持ちする。何より、これは公共事業の一環として、人々に利益を分散する目的もあった。ドワーフが働くと、食事を作る者や宿を提供する者が集まってくる。当事者だけじゃなく、多くの人が収益を得られるのだ。
街道整備もある程度予算を割いて、維持することに決まった。交通手段をひとつに絞るのは危険という、ベールの忠告が決め手だ。魔の森が大量の魔力を持て余している間はいいが、何らかの事情で使えなくなった時、街道が森に取り込まれていたら移動手段が消えてしまう。孤立する種族が出ないよう手を打つことは、政を司る魔王城の役目だった。
準備を進める中庭の様子を横目に、ルシファーはお祭り用の食材確保に追われていた。ルキフェルは魔法陣と論文で忙しく、ベールは各種族への伝達に動いている。まだ財務計算中のベルゼビュートを除くと、動けるのは魔王かアスタロトのみ。お祭りに使う物資の調達を手分けして行っていた。
「ルシファー、食器は?」
「アデーレに頼んである」
「椅子が足りないわ」
「手配済みだ」
リリスに応対するたび、食材の確保が遅れていく。だがルシファーは気にしなかった。災害があって備蓄を大量に消費したため、とにかく買い入れる旨を商人達に伝達済みだった。お祭りもあると知れば、彼らが大量にかき集めてくるのは間違いない。楽観的な魔王はお茶を飲みながら、必要物資の一覧表に「賞品」と追加した。
作家支援の対象から外れても、参加賞を出すことにしたのだ。これは私財からの出費なので、出金の書類も作成した。そこへ入ってきた大公女達が、手配の済んだ物を記載した書類を並べる。
「敷物の不足は手配しました」
「鉄板が古くなったので新調した方がいいですね」
「あら、それならトングも一緒にお願いしたいわ」
追加で必要となる道具を目の前の紙に書き足し、ルシファーは許可の印を押した。その紙の裏が、個人資産の出金書類だったため、思わぬ金額が引き出されてびっくりするのは……数日後のことである。
魔法陣を利用して、魔王城との通信や行き来が定期的に実現できれば、住んでいる場所による不利や偏りが是正できるのだ。魔族にとって目から鱗、画期的だった。ずいぶん昔に設置を検討したことはあるが、魔力の供給問題で挫折した。
転移魔法はかなりの魔力量が必要だ。魔力を使いすぎると体温が低下し、程度によっては倒れることもあった。それゆえに、無理して使用する者が出ることを懸念したのだ。だが魔の森の魔力が使えれば問題ない。その上、魔法陣の管理費用は、街道の整備費を流用できた。
「魔力が余ってるなら、使わない手はないだろう」
ルシファーがさらさらと署名して押印する。大公と魔王の署名が入った転移魔法陣設定は、すぐに噂になった。侍従や侍女から漏れたのか。城下町で騒ぎを巻き起こす。好きでダークプレイスに移住したが、里帰りの際に苦労しなくて済むのは吉報だった。
人々の期待を乗せて、提案書は貴族会議を通過して見事採用された。ここからはルキフェルの出番である。魔王城と各地区を結ぶ魔法陣を大量に描き始めた。設置場所ごとに魔法文字が違うため、複製というわけにいかなかったのだ。さらに石板へ刻むため、ドワーフ達が駆り出された。
魔法で掘り込むより、ドワーフの手で彫刻した方が長持ちする。何より、これは公共事業の一環として、人々に利益を分散する目的もあった。ドワーフが働くと、食事を作る者や宿を提供する者が集まってくる。当事者だけじゃなく、多くの人が収益を得られるのだ。
街道整備もある程度予算を割いて、維持することに決まった。交通手段をひとつに絞るのは危険という、ベールの忠告が決め手だ。魔の森が大量の魔力を持て余している間はいいが、何らかの事情で使えなくなった時、街道が森に取り込まれていたら移動手段が消えてしまう。孤立する種族が出ないよう手を打つことは、政を司る魔王城の役目だった。
準備を進める中庭の様子を横目に、ルシファーはお祭り用の食材確保に追われていた。ルキフェルは魔法陣と論文で忙しく、ベールは各種族への伝達に動いている。まだ財務計算中のベルゼビュートを除くと、動けるのは魔王かアスタロトのみ。お祭りに使う物資の調達を手分けして行っていた。
「ルシファー、食器は?」
「アデーレに頼んである」
「椅子が足りないわ」
「手配済みだ」
リリスに応対するたび、食材の確保が遅れていく。だがルシファーは気にしなかった。災害があって備蓄を大量に消費したため、とにかく買い入れる旨を商人達に伝達済みだった。お祭りもあると知れば、彼らが大量にかき集めてくるのは間違いない。楽観的な魔王はお茶を飲みながら、必要物資の一覧表に「賞品」と追加した。
作家支援の対象から外れても、参加賞を出すことにしたのだ。これは私財からの出費なので、出金の書類も作成した。そこへ入ってきた大公女達が、手配の済んだ物を記載した書類を並べる。
「敷物の不足は手配しました」
「鉄板が古くなったので新調した方がいいですね」
「あら、それならトングも一緒にお願いしたいわ」
追加で必要となる道具を目の前の紙に書き足し、ルシファーは許可の印を押した。その紙の裏が、個人資産の出金書類だったため、思わぬ金額が引き出されてびっくりするのは……数日後のことである。
20
お気に入りに追加
4,927
あなたにおすすめの小説
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完結】虐げられた令嬢の復讐劇 〜聖女より格上の妖精の愛し子で竜王様の番は私です~
大福金
ファンタジー
10歳の時、床掃除をしている時に水で足を滑らせ前世の記憶を思い出した。侯爵家令嬢ルチア
8さいの時、急に現れた義母に義姉。
あれやこれやと気がついたら部屋は義姉に取られ屋根裏に。
侯爵家の娘なのに、使用人扱い。
お母様が生きていた時に大事にしてくれた。使用人たちは皆、義母が辞めさせた。
義母が連れてきた使用人達は私を義母と一緒になってこき使い私を馬鹿にする……
このままじゃ先の人生詰んでる。
私には
前世では25歳まで生きてた記憶がある!
義母や義姉!これからは思い通りにさせないんだから!
義母達にスカッとざまぁしたり
冒険の旅に出たり
主人公が妖精の愛し子だったり。
竜王の番だったり。
色々な無自覚チート能力発揮します。
竜王様との溺愛は後半第二章からになります。
※完結まで執筆済みです。(*´꒳`*)10万字程度。
※後半イチャイチャ多めです♡
※R18描写♡が入るシーンはタイトルに★マークをいれています。
【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。
112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。
目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。
死にたくない。あんな最期になりたくない。
そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる