1,237 / 1,397
90章 臆病な精霊女王の恋愛事情
1232. 腹を割って話せば分かる
しおりを挟む
魔獣のエリゴスは酒類を遠慮したため、ベルゼビュートも口をつけなかった。ルシファーは祝いの席でなければ飲酒しない上、リリスが未成年扱いなので普段からテーブルにアルコール飲料が並ぶことはない。正直、油断していた。
「ぷはっ」
何かを一気飲みしたリリスに気付き、視線を向けたルシファーが固まった。動きの止まった右手から箸が転げ落ちる。食器が奏でる音にびっくりしたベルゼビュートは、動かない魔王と真っ赤な顔のお姫様の様子に状況を悟った。
「飲んじゃったのね?」
手をつけずに置いてあった酒は、ワインより強い蒸留酒だ。白ワインを濃縮させた蒸留酒は、見た目こそ淡い琥珀で綺麗だが、強烈な二日酔いを引き起こす酒だった。ベルゼビュートは飲み慣れているので、がくりと肩を落とす。明日のリリスは二日酔い確定だった。
不純物抜き取りの魔法陣で、蛇を解体した実績持ちのルシファーは、アルコール分離を行えない。トラウマに近いあの光景には今も、蛇と二日酔いに対する強烈な嫌悪感が残っていた。
青ざめたルシファーが、大急ぎでコップを濯いで水を溜める。差し出すが真っ赤な顔のリリスは嫌がって飲まない。水の入ったコップを振り回して水をばら撒き、げらげらと笑う始末だ。酒癖はベルゼビュートと張るほど酷い。
「ど、どうしよう」
おろおろするルシファーをよそに、ベルゼビュートは立ち上がってリリスの手を掴んだ。目をぱちくりと瞬いたリリスは一度動きを止め、すぐにまたのけぞって大笑いを始める。笑い上戸らしい。
「陛下、私が寝かしつけてきますわ。それとアルコールを抜いておきます」
「助かる、頼むぞ」
自分では出来ないので、過去にもベールやアスタロト、ベルゼビュートに頼ってきた。幼いリリスがワインの一気飲みをした時も、助けてやれずに困っていたくらいだ。慣れた様子で酔っ払いリリスを連れて退室するベルゼビュートを見送り、残されたエリゴスに詫びた。
「申し訳ない。目を離した隙に飲んだようで、女性同士なので許してやってくれ」
婚約者を残して退出したベルゼビュートの行為を擁護すると、エリゴスはゆっくり首を横に振った。
「気にしませんので、お気遣いなく。それより、魔王陛下は何か気になることがおありですか? 私が彼女の夫では、実力が足りないのは分かっております」
だから実力者でもないエリゴスと女大公が結婚するのは不満があるのでは? そう匂わせる彼は僅かに目を伏せた。釣り合わないと自覚しているエリゴスの様子に、ルシファーは良い機会だと話を続けた。
「どちらかといえば、本当にベルゼビュートで問題ないのかと問いたい。彼女は知っての通り……ずっと結婚相手に恵まれなかった。婚約した相手に逃げられたこともある。家事は全く出来ないぞ。酒を飲めば管を巻くし、賭け事も好きだ。いいのか?」
わざと悪い部分だけを口にする。するとエリゴスは穏やかに応じた。
「心にもないことを。ベルゼビュート様はお美しく、心根は真っ直ぐで優しい方です。他種族への偏見もお持ちでない。透明なのにしっかりした芯がある女性で……手が届かないお方だと思っておりました。触れて構わないなら、離したくないのです」
目を細めて話を聞いたルシファーは、安堵の息を吐いた。どうやら外見だけでなく、彼女の本質をある程度見抜いている。魔獣ゆえに本質を見極める能力が発達しているのだろう。
「魔獣の時はメスで、現在は男性の姿だが……どちらが本体だ?」
聞きたかった本題を尋ねると、こてりと首を傾げたエリゴスが少し考え込む。まさかリリスの話が間違ってたとか? そんな疑惑がルシファーを満たす頃、ようやくエリゴスが口を開く。
「本体はどちらも、としかお答えできません。ただベルゼビュート様が私の顔をお気に召したようですので、可能な限り今の姿を維持しようと考えています」
本当に雌雄の区別がないのか。驚いたらいいのか、感心したらいいか。分からぬまま、見つめ合ううちにベルゼビュートが戻ってきた。
「あら、陛下。気に入ってもエリゴスはあげませんわよ?」
「安心してくれ、リリス一筋だ」
即答して、リリスの無事を聞いたルシファーは立ち上がる。食後のお茶で尋ねる予定の質問は終わった。リリスに付いててやりたかった。
「幸せになれ、ベルゼ。エリゴス、彼女を頼んだぞ」
頷き見つめ合う2人を残し、ルシファーは足早に寝室へ向かう。うちのお姫様が起きていなければいいが。
「ぷはっ」
何かを一気飲みしたリリスに気付き、視線を向けたルシファーが固まった。動きの止まった右手から箸が転げ落ちる。食器が奏でる音にびっくりしたベルゼビュートは、動かない魔王と真っ赤な顔のお姫様の様子に状況を悟った。
「飲んじゃったのね?」
手をつけずに置いてあった酒は、ワインより強い蒸留酒だ。白ワインを濃縮させた蒸留酒は、見た目こそ淡い琥珀で綺麗だが、強烈な二日酔いを引き起こす酒だった。ベルゼビュートは飲み慣れているので、がくりと肩を落とす。明日のリリスは二日酔い確定だった。
不純物抜き取りの魔法陣で、蛇を解体した実績持ちのルシファーは、アルコール分離を行えない。トラウマに近いあの光景には今も、蛇と二日酔いに対する強烈な嫌悪感が残っていた。
青ざめたルシファーが、大急ぎでコップを濯いで水を溜める。差し出すが真っ赤な顔のリリスは嫌がって飲まない。水の入ったコップを振り回して水をばら撒き、げらげらと笑う始末だ。酒癖はベルゼビュートと張るほど酷い。
「ど、どうしよう」
おろおろするルシファーをよそに、ベルゼビュートは立ち上がってリリスの手を掴んだ。目をぱちくりと瞬いたリリスは一度動きを止め、すぐにまたのけぞって大笑いを始める。笑い上戸らしい。
「陛下、私が寝かしつけてきますわ。それとアルコールを抜いておきます」
「助かる、頼むぞ」
自分では出来ないので、過去にもベールやアスタロト、ベルゼビュートに頼ってきた。幼いリリスがワインの一気飲みをした時も、助けてやれずに困っていたくらいだ。慣れた様子で酔っ払いリリスを連れて退室するベルゼビュートを見送り、残されたエリゴスに詫びた。
「申し訳ない。目を離した隙に飲んだようで、女性同士なので許してやってくれ」
婚約者を残して退出したベルゼビュートの行為を擁護すると、エリゴスはゆっくり首を横に振った。
「気にしませんので、お気遣いなく。それより、魔王陛下は何か気になることがおありですか? 私が彼女の夫では、実力が足りないのは分かっております」
だから実力者でもないエリゴスと女大公が結婚するのは不満があるのでは? そう匂わせる彼は僅かに目を伏せた。釣り合わないと自覚しているエリゴスの様子に、ルシファーは良い機会だと話を続けた。
「どちらかといえば、本当にベルゼビュートで問題ないのかと問いたい。彼女は知っての通り……ずっと結婚相手に恵まれなかった。婚約した相手に逃げられたこともある。家事は全く出来ないぞ。酒を飲めば管を巻くし、賭け事も好きだ。いいのか?」
わざと悪い部分だけを口にする。するとエリゴスは穏やかに応じた。
「心にもないことを。ベルゼビュート様はお美しく、心根は真っ直ぐで優しい方です。他種族への偏見もお持ちでない。透明なのにしっかりした芯がある女性で……手が届かないお方だと思っておりました。触れて構わないなら、離したくないのです」
目を細めて話を聞いたルシファーは、安堵の息を吐いた。どうやら外見だけでなく、彼女の本質をある程度見抜いている。魔獣ゆえに本質を見極める能力が発達しているのだろう。
「魔獣の時はメスで、現在は男性の姿だが……どちらが本体だ?」
聞きたかった本題を尋ねると、こてりと首を傾げたエリゴスが少し考え込む。まさかリリスの話が間違ってたとか? そんな疑惑がルシファーを満たす頃、ようやくエリゴスが口を開く。
「本体はどちらも、としかお答えできません。ただベルゼビュート様が私の顔をお気に召したようですので、可能な限り今の姿を維持しようと考えています」
本当に雌雄の区別がないのか。驚いたらいいのか、感心したらいいか。分からぬまま、見つめ合ううちにベルゼビュートが戻ってきた。
「あら、陛下。気に入ってもエリゴスはあげませんわよ?」
「安心してくれ、リリス一筋だ」
即答して、リリスの無事を聞いたルシファーは立ち上がる。食後のお茶で尋ねる予定の質問は終わった。リリスに付いててやりたかった。
「幸せになれ、ベルゼ。エリゴス、彼女を頼んだぞ」
頷き見つめ合う2人を残し、ルシファーは足早に寝室へ向かう。うちのお姫様が起きていなければいいが。
20
お気に入りに追加
4,927
あなたにおすすめの小説
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。
112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。
目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。
死にたくない。あんな最期になりたくない。
そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。
【完結】虐げられた令嬢の復讐劇 〜聖女より格上の妖精の愛し子で竜王様の番は私です~
大福金
ファンタジー
10歳の時、床掃除をしている時に水で足を滑らせ前世の記憶を思い出した。侯爵家令嬢ルチア
8さいの時、急に現れた義母に義姉。
あれやこれやと気がついたら部屋は義姉に取られ屋根裏に。
侯爵家の娘なのに、使用人扱い。
お母様が生きていた時に大事にしてくれた。使用人たちは皆、義母が辞めさせた。
義母が連れてきた使用人達は私を義母と一緒になってこき使い私を馬鹿にする……
このままじゃ先の人生詰んでる。
私には
前世では25歳まで生きてた記憶がある!
義母や義姉!これからは思い通りにさせないんだから!
義母達にスカッとざまぁしたり
冒険の旅に出たり
主人公が妖精の愛し子だったり。
竜王の番だったり。
色々な無自覚チート能力発揮します。
竜王様との溺愛は後半第二章からになります。
※完結まで執筆済みです。(*´꒳`*)10万字程度。
※後半イチャイチャ多めです♡
※R18描写♡が入るシーンはタイトルに★マークをいれています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる