1,226 / 1,397
89章 災害復興は最優先です
1221. 奇跡、そして復元
しおりを挟む
触れた先から藻が広がっていく。大量に増えた藻を、リザードマンが急いで収穫した。出来上がった隙間にまた藻が生える。
「リリスの能力か?」
「できると思ったの」
嬉しそうに告げる彼女に、リザードマンの戦士が礼を口にする。藻が増えれば浮島を量産できるため、女性達が島を編み始めた。手早く大量に編むので、じわじわと島が大きくなっていく。
「この勢いだと半日くらいで状況は改善するな。ならばオレは水の浄化をするか」
流れ込んだ泥や砂が沈殿しなくては、濁りが取れない。だが元からこの地になかった土が沈めば、育ってはいけない植物が繁殖する恐れがあった。復元の魔法陣を改良して対応するか。だが以前の状態を刻み込む部分が空欄だと発動しない。対策を考えるルシファーは明らかに異物である倒木や砂を排除した。
「ルシファー、ちょっと手伝って」
転移したルキフェルが、両手に魔法陣を展開した。両方はまったく同じに見えるが、何かが違う。首を傾げたルシファーは、除去した砂を沼地の向こうに捨てながら眺めた。
「逆回りだわ」
リリスが気づいて指摘する。ずっと水に手をつけたままなので、しゃがんだ彼女に気づかなかったルキフェルがびくりと肩を震わせた。
「びっくりした。リリスは何してるの?」
「藻を増やしてるのよ。ロキちゃんの魔法陣、右と左が逆回りで干渉し合ってるわ」
「うん。時を進めながら戻したら復元できないかと思ってね。でも発動条件が何か足りないみたい」
研究結果を簡素に口にしたルキフェルに、ルシファーが近づいた。じっくり眺めた後、首を傾げる。ルキフェルほどではなくとも、魔法陣の改良や開発が得意なルシファーは考え込んだ。基本の考え方も魔法陣の出来栄えも素晴らしい。だが発動しないなら……時間軸の指定がおかしいのではないか。
「時間軸が逆転するなら、同時に動いている文字が……あっ!」
過去の経験が過ぎる。噴火した溶岩の流れを制御する際に、逆転する魔法陣を設置したことがあった。その際、文字を鏡写にしたはずだ。
「ルキフェル、鏡文字だ。試してみろ」
「え? そんな簡単なこと?」
悩んでいた本人が拍子抜けするくらい、単純な答えだ。だが夢中になったルキフェルには見えなかった足下や背中だった。読書に夢中になりながら散策し、髪が木の枝に絡まる状況に似ていた。足を止めて本から目を離せば、木の枝に気付けるのに……本の文字を追うのに必死で気づけないのだ。ただ引っかかった事実だけが残る。外から見れば原因は一目瞭然、指摘するのは簡単だった。
魔法陣の文字を反転し、鏡写しにして回転させる。合わせ鏡にせず、平らに回る魔法陣が輝いた。目を見開いたルキフェルが発動に必要な魔力を流すと、手の中で輝きを増す。
「出来た!!」
「おめでとう。もう使えるなら、この沼地の復元を試してくれ」
ルキフェルへ要請したルシファーの言葉に、リリスが水から手を抜いた。繁殖した藻を一気にルシファーが風で巻き上げる。浮島は上に乗せられた藻の重さで揺れた。
ルキフェルは沼の水を対象とするよう魔法陣に修正を加え、水の上に両方の魔法陣を浮かべる。失敗したら、ルシファーとルキフェルが復旧すればいい。魔法陣が使えるようなら、他の地域の復興も一気に加速するだろう。見守る彼らの前で、魔法陣の光が水面を埋め尽くした。
「あ、この風景は知ってるわ」
以前にリザードマンの領地を訪れた視察で見た。リリスが手を叩く。棚田のように整えられた沼が澄んで、崩れた土手が修復された。壊れた浮島は戻らないが、沼の中に植物が芽を出す。
「これはっ!」
「我らの沼が戻ったぞ」
感動で叫ぶリザードマンに握手を求められ、両手で掴まれてぶんぶんと振られるルキフェルが、照れた顔でぶっきらぼうに呟く。
「僕だけの成功じゃないから」
「だが魔法陣の骨格を作り上げたのは、ルキフェル大公の手柄だ。さっそく他の地域や大公に知らせよう」
ルシファーが手放しで褒めたため、真っ赤になったルキフェルは俯く。兄に等しいルキフェルに飛び付き、リリスは興奮した様子で褒め称えた。
「すごいわ、やっぱりロキちゃんは魔法陣の天才ね」
「リリスの能力か?」
「できると思ったの」
嬉しそうに告げる彼女に、リザードマンの戦士が礼を口にする。藻が増えれば浮島を量産できるため、女性達が島を編み始めた。手早く大量に編むので、じわじわと島が大きくなっていく。
「この勢いだと半日くらいで状況は改善するな。ならばオレは水の浄化をするか」
流れ込んだ泥や砂が沈殿しなくては、濁りが取れない。だが元からこの地になかった土が沈めば、育ってはいけない植物が繁殖する恐れがあった。復元の魔法陣を改良して対応するか。だが以前の状態を刻み込む部分が空欄だと発動しない。対策を考えるルシファーは明らかに異物である倒木や砂を排除した。
「ルシファー、ちょっと手伝って」
転移したルキフェルが、両手に魔法陣を展開した。両方はまったく同じに見えるが、何かが違う。首を傾げたルシファーは、除去した砂を沼地の向こうに捨てながら眺めた。
「逆回りだわ」
リリスが気づいて指摘する。ずっと水に手をつけたままなので、しゃがんだ彼女に気づかなかったルキフェルがびくりと肩を震わせた。
「びっくりした。リリスは何してるの?」
「藻を増やしてるのよ。ロキちゃんの魔法陣、右と左が逆回りで干渉し合ってるわ」
「うん。時を進めながら戻したら復元できないかと思ってね。でも発動条件が何か足りないみたい」
研究結果を簡素に口にしたルキフェルに、ルシファーが近づいた。じっくり眺めた後、首を傾げる。ルキフェルほどではなくとも、魔法陣の改良や開発が得意なルシファーは考え込んだ。基本の考え方も魔法陣の出来栄えも素晴らしい。だが発動しないなら……時間軸の指定がおかしいのではないか。
「時間軸が逆転するなら、同時に動いている文字が……あっ!」
過去の経験が過ぎる。噴火した溶岩の流れを制御する際に、逆転する魔法陣を設置したことがあった。その際、文字を鏡写にしたはずだ。
「ルキフェル、鏡文字だ。試してみろ」
「え? そんな簡単なこと?」
悩んでいた本人が拍子抜けするくらい、単純な答えだ。だが夢中になったルキフェルには見えなかった足下や背中だった。読書に夢中になりながら散策し、髪が木の枝に絡まる状況に似ていた。足を止めて本から目を離せば、木の枝に気付けるのに……本の文字を追うのに必死で気づけないのだ。ただ引っかかった事実だけが残る。外から見れば原因は一目瞭然、指摘するのは簡単だった。
魔法陣の文字を反転し、鏡写しにして回転させる。合わせ鏡にせず、平らに回る魔法陣が輝いた。目を見開いたルキフェルが発動に必要な魔力を流すと、手の中で輝きを増す。
「出来た!!」
「おめでとう。もう使えるなら、この沼地の復元を試してくれ」
ルキフェルへ要請したルシファーの言葉に、リリスが水から手を抜いた。繁殖した藻を一気にルシファーが風で巻き上げる。浮島は上に乗せられた藻の重さで揺れた。
ルキフェルは沼の水を対象とするよう魔法陣に修正を加え、水の上に両方の魔法陣を浮かべる。失敗したら、ルシファーとルキフェルが復旧すればいい。魔法陣が使えるようなら、他の地域の復興も一気に加速するだろう。見守る彼らの前で、魔法陣の光が水面を埋め尽くした。
「あ、この風景は知ってるわ」
以前にリザードマンの領地を訪れた視察で見た。リリスが手を叩く。棚田のように整えられた沼が澄んで、崩れた土手が修復された。壊れた浮島は戻らないが、沼の中に植物が芽を出す。
「これはっ!」
「我らの沼が戻ったぞ」
感動で叫ぶリザードマンに握手を求められ、両手で掴まれてぶんぶんと振られるルキフェルが、照れた顔でぶっきらぼうに呟く。
「僕だけの成功じゃないから」
「だが魔法陣の骨格を作り上げたのは、ルキフェル大公の手柄だ。さっそく他の地域や大公に知らせよう」
ルシファーが手放しで褒めたため、真っ赤になったルキフェルは俯く。兄に等しいルキフェルに飛び付き、リリスは興奮した様子で褒め称えた。
「すごいわ、やっぱりロキちゃんは魔法陣の天才ね」
20
お気に入りに追加
4,927
あなたにおすすめの小説
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。
112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。
目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。
死にたくない。あんな最期になりたくない。
そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。
【完結】虐げられた令嬢の復讐劇 〜聖女より格上の妖精の愛し子で竜王様の番は私です~
大福金
ファンタジー
10歳の時、床掃除をしている時に水で足を滑らせ前世の記憶を思い出した。侯爵家令嬢ルチア
8さいの時、急に現れた義母に義姉。
あれやこれやと気がついたら部屋は義姉に取られ屋根裏に。
侯爵家の娘なのに、使用人扱い。
お母様が生きていた時に大事にしてくれた。使用人たちは皆、義母が辞めさせた。
義母が連れてきた使用人達は私を義母と一緒になってこき使い私を馬鹿にする……
このままじゃ先の人生詰んでる。
私には
前世では25歳まで生きてた記憶がある!
義母や義姉!これからは思い通りにさせないんだから!
義母達にスカッとざまぁしたり
冒険の旅に出たり
主人公が妖精の愛し子だったり。
竜王の番だったり。
色々な無自覚チート能力発揮します。
竜王様との溺愛は後半第二章からになります。
※完結まで執筆済みです。(*´꒳`*)10万字程度。
※後半イチャイチャ多めです♡
※R18描写♡が入るシーンはタイトルに★マークをいれています。
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる