1,206 / 1,397
87章 お勉強の一部やり直し
1201. 絶対譲らないんだから!!
しおりを挟む
久しぶりに朝をのんびり過ごし、昼過ぎになって部屋を出たルシファーはリリスの不在に気付いた。魔王城の敷地内にはいるが、どこに出かけたのか。魔力の位置を探り、城門の内側にいる彼女の元へ急いだ。
「おはよう、リリス。早いな」
「ルシファーが遅いのよ」
そう返した彼女の前には、困り顔のアベルがいた。ルーサルカとシトリーもいる。レライエは今日は休日かと思いながら、リリスの隣に立った。ルシファーの純白の髪を握ったリリスは、突然疑問をぶつける。
「ねえ、昨日生まれたアンナの子いたじゃない?」
「ああ、双子だな。兄と妹だったか」
「そう、その部分よ。アンナがね、納得できないんですって」
リリスはアベルが持ってきた出産届けの書類を差し出した。書かれた子どもの数は2人、男女1人ずつで昨日と同じに見えるが、姉と弟に変更されていた。
「何か問題なのか?」
このまま届け出ればいいじゃないか。ルシファーにはおかしな点は見つけられなかった。アスタロトも問題なく受理するはずだ。
「いえ……あの。昨日の時点で双子を兄妹に分類されたと聞いて」
「ああ、ひとまず分けたな」
それを姉弟で届けるというのなら、受理するぞ。ルシファーは首を傾げた。そんな彼らの後ろから見守っていたヤンが、溜め息をつく。客観的に話を聞いていたので、当事者同士の勘違いと話の食い違いに気づいたのだ。種族が違えば認識が変わる。その部分の理解に差が生じていた。
「我が君、よろしいでしょうか」
巨大なフェンリルがのそりと近づき、伏せて鼻を地面に押し付けた。服従を示すヤンへ手を伸ばして、鼻先を撫でる。
「どうした」
「我が君が理解しておられる届出の決まりを、日本人は知らないのではありませんか?」
ぽかんとした顔でヤンを見た後、ルシファーは振り返った。困り顔のアベル、状況が理解できず顔を見合わせるリリスと大公女達。食い違いの原因に思い至り、ルシファーが大きく息を吐き出した。
「助かった、ヤン。おかげで不毛な問答をしなくて済んだ」
労ってから、城門の端にあるベンチへ移動した。ベンチの数が足りないので、椅子をいくつか並べる。この辺はルーサルカが手早く行った。円を描くように座った彼らに、ルシファーが切り出す。
「まず、届出のルールがアンナ嬢に伝わっていなかったことは、オレの采配ミスだ。悪かった」
そこからの説明は長かった。出産に関しては、人口把握のために届出が推奨されている。奥地で生まれた場合、届出が難しく5歳になる祝いを待って届け出る者も少なくない。年単位で種族ごとに届け出る地域もあった。だから急がなくてよかったこと。
双子に関する決まりはなく、種族によって先に生まれた子を長子とする場合もあれば、後から出てきた子を長子と定める者もいる。この辺は考え方の違いなので、魔王城は関与しないこと。
あの場で先に出た男児を兄としたことは、単にその場で呼び分けるための分類でしかなく、強制力はなかったこと。ここまでを説明され、アベルが安堵の息をついた。
「安心しました。アンナちゃんが、どうしても姉弟だと騒いで興奮状態で……イザヤが離れられないんです」
濁したが、興奮しているのだろう。子を産んだばかりで気が昂っているのかも知れない。そういう種族は魔獣に多いのだが、彼女も該当するようだ。
「わかった。オレがきちんと説明することにしよう。アベルはそのまま書類を提出してくれ」
「私も行くわ」
「「ご一緒します」」
説明をお願いしますとアベルは城内へ向かった。その後ろ姿を見送り、ルシファーは転移でアンナ達の屋敷前に向かう。大型犬サイズに縮んだヤンは魔法陣に飛び乗り、ちゃっかり同行していた。ハーブの咲き乱れる庭を抜けて玄関を開けたルシファーが、声をかける。
「アンナ嬢、話があ……っ」
「絶対に譲らないんだから!!」
興奮したアンナに叫ばれ、飛んできた鍋を受け止めたルシファーは肩を落とした。これはアベルが困り顔をするわけだ。説明から始めても聞いてくれないだろう。
「届出は受理された! アンナ嬢の子は姉、弟で確定だ」
挨拶も何もかもすっ飛ばし、ルシファーはいきなり結論から突きつけた。
「おはよう、リリス。早いな」
「ルシファーが遅いのよ」
そう返した彼女の前には、困り顔のアベルがいた。ルーサルカとシトリーもいる。レライエは今日は休日かと思いながら、リリスの隣に立った。ルシファーの純白の髪を握ったリリスは、突然疑問をぶつける。
「ねえ、昨日生まれたアンナの子いたじゃない?」
「ああ、双子だな。兄と妹だったか」
「そう、その部分よ。アンナがね、納得できないんですって」
リリスはアベルが持ってきた出産届けの書類を差し出した。書かれた子どもの数は2人、男女1人ずつで昨日と同じに見えるが、姉と弟に変更されていた。
「何か問題なのか?」
このまま届け出ればいいじゃないか。ルシファーにはおかしな点は見つけられなかった。アスタロトも問題なく受理するはずだ。
「いえ……あの。昨日の時点で双子を兄妹に分類されたと聞いて」
「ああ、ひとまず分けたな」
それを姉弟で届けるというのなら、受理するぞ。ルシファーは首を傾げた。そんな彼らの後ろから見守っていたヤンが、溜め息をつく。客観的に話を聞いていたので、当事者同士の勘違いと話の食い違いに気づいたのだ。種族が違えば認識が変わる。その部分の理解に差が生じていた。
「我が君、よろしいでしょうか」
巨大なフェンリルがのそりと近づき、伏せて鼻を地面に押し付けた。服従を示すヤンへ手を伸ばして、鼻先を撫でる。
「どうした」
「我が君が理解しておられる届出の決まりを、日本人は知らないのではありませんか?」
ぽかんとした顔でヤンを見た後、ルシファーは振り返った。困り顔のアベル、状況が理解できず顔を見合わせるリリスと大公女達。食い違いの原因に思い至り、ルシファーが大きく息を吐き出した。
「助かった、ヤン。おかげで不毛な問答をしなくて済んだ」
労ってから、城門の端にあるベンチへ移動した。ベンチの数が足りないので、椅子をいくつか並べる。この辺はルーサルカが手早く行った。円を描くように座った彼らに、ルシファーが切り出す。
「まず、届出のルールがアンナ嬢に伝わっていなかったことは、オレの采配ミスだ。悪かった」
そこからの説明は長かった。出産に関しては、人口把握のために届出が推奨されている。奥地で生まれた場合、届出が難しく5歳になる祝いを待って届け出る者も少なくない。年単位で種族ごとに届け出る地域もあった。だから急がなくてよかったこと。
双子に関する決まりはなく、種族によって先に生まれた子を長子とする場合もあれば、後から出てきた子を長子と定める者もいる。この辺は考え方の違いなので、魔王城は関与しないこと。
あの場で先に出た男児を兄としたことは、単にその場で呼び分けるための分類でしかなく、強制力はなかったこと。ここまでを説明され、アベルが安堵の息をついた。
「安心しました。アンナちゃんが、どうしても姉弟だと騒いで興奮状態で……イザヤが離れられないんです」
濁したが、興奮しているのだろう。子を産んだばかりで気が昂っているのかも知れない。そういう種族は魔獣に多いのだが、彼女も該当するようだ。
「わかった。オレがきちんと説明することにしよう。アベルはそのまま書類を提出してくれ」
「私も行くわ」
「「ご一緒します」」
説明をお願いしますとアベルは城内へ向かった。その後ろ姿を見送り、ルシファーは転移でアンナ達の屋敷前に向かう。大型犬サイズに縮んだヤンは魔法陣に飛び乗り、ちゃっかり同行していた。ハーブの咲き乱れる庭を抜けて玄関を開けたルシファーが、声をかける。
「アンナ嬢、話があ……っ」
「絶対に譲らないんだから!!」
興奮したアンナに叫ばれ、飛んできた鍋を受け止めたルシファーは肩を落とした。これはアベルが困り顔をするわけだ。説明から始めても聞いてくれないだろう。
「届出は受理された! アンナ嬢の子は姉、弟で確定だ」
挨拶も何もかもすっ飛ばし、ルシファーはいきなり結論から突きつけた。
20
お気に入りに追加
4,953
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
「アゼリア・フォン・ホーヘーマイヤー、俺はお前との婚約を破棄する!」
「王太子殿下、我が家名はヘーファーマイアーですわ」
公爵令嬢アゼリアは、婚約者である王太子ヨーゼフに婚約破棄を突きつけられた。それも家名の間違い付きで。
理由は聖女エルザと結婚するためだという。人々の視線が集まる夜会でやらかした王太子に、彼女は満面の笑みで婚約関係を解消した。
王太子殿下――あなたが選んだ聖女様の意味をご存知なの? 美しいアゼリアを手放したことで、国は傾いていくが、王太子はいつ己の失態に気づけるのか。自由に羽ばたくアゼリアは、魔王の溺愛の中で幸せを掴む!
頭のゆるい王太子をぎゃふんと言わせる「ざまぁ」展開ありの、ハッピーエンド。
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2021/08/16 「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過
※2021/01/30 完結
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
この人が私の夫……政略結婚だけど、一目惚れです!
12歳にして、戦争回避のために隣国の王弟に嫁ぐことになった末っ子姫アンジェル。15歳も年上の夫に会うなり、一目惚れした。彼のすべてが大好きなのに、私は年の離れた妹のように甘やかされるばかり。溺愛もいいけれど、妻として愛してほしいわ。
両片思いの擦れ違い夫婦が、本物の愛に届くまで。ハッピーエンド確定です♪
ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/07/06……完結
2024/06/29……本編完結
2024/04/02……エブリスタ、トレンド恋愛 76位
2024/04/02……アルファポリス、女性向けHOT 77位
2024/04/01……連載開始
死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります
みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」
私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。
聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?
私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。
だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。
こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。
私は誰にも愛されていないのだから。
なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。
灰色の魔女の死という、極上の舞台をー
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる