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86章 溢れ出たあれこれの後始末
1185. 黒髪を選んだ理由
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純白の髪、白い肌、銀の瞳。強者の色とされる白に最も近い姿でありながら、体を覆い尽くすほどの翼はすべて黒だった。出会った頃からその状態だったので、大公達も違和感はなかったが、本来はおかしい。
翼12枚の魔力が少ないなら、濃縮されるはずだ。12枚の黒い羽ではなく、6枚の白い羽になるのが正しい。色の法則はこの世界の理だった。大公達でさえ一対2枚の羽しか持たないのに、ルシファーは12枚を維持する魔力を有する。
これほどの枚数は必要ないというのに。その理由が魔の森に魔力を流したからだという。リリスの言葉を借りるなら、魔力を貸したのだ。だから12枚が残っていた。12枚の白い翼から平均に魔力を抜いたから、色が黒に変わっていたのだ。
「……そう考えると、絶対おかしいのに……どうして気づけなかったんだろう」
生まれた時から見慣れた影響とはいえ、魔力の法則を研究するルキフェルは唸った。そうだ、リリスの黒髪を見たときは違和感を覚えたのに。すぐにどうでも良くなった。研究を専門にする者が、解決していない現象を後回しにして忘れるなんて……。
「魔の森のせいだもの。仕方ないわ」
リリスはけろりとルキフェルに言い放ち、ルシファーが摘んだ菓子を齧る。半分食べて、残りをルシファーの口に押し込んだ。リリスに食べさせるつもりだった焼き菓子の残りを食べながら、今度は違う焼き菓子を手に取るルシファーは、肩をすくめた。
「森は追及されたくなかったのか。何らかの影響を受けたんだろう」
全員が見落とした異常は、魔の森が隠そうとした事実を含んでいる。生みの母である魔の森の秘密は守られた。それでいいじゃないか。くすくす笑うルシファーが、残る翼を広げた。途端に圧迫感を感じるほどの強大な魔力が満ちる。
「全部白くなったらお披露目したいわね」
無邪気に手を叩くリリスだが、アスタロトが首を横に振った。
「距離を置かないと、魔力の弱い種族は消滅しますよ」
魔力による圧死を示唆され、ルシファーは苦笑いした。ルーサルカは少し息苦しさを感じ、ルーシアは小刻みに震える。大公女に影響が出たのを見て、10枚の翼を仕舞った。リリスは二対4枚をひらひらと遊ばせている。
「リリスの髪が黒いのは何故だ?」
白い肌、金の瞳、白い羽……なぜ黒髪を選んだのか。同じような理由があるのでは? そう心配したルシファーの声に、リリスは紅茶を飲んでから答えた。
「私がどんなに成長してもルシファーを超えないように、かしら」
黒髪という色を持つ限り、リリスがルシファーを超えることはない。魔の森は己の娘に枷をつけたのだ。最愛の魔王が頂点に立ち続けるよう望んだ。傍に立つ娘リリスが、ルシファーを脅かす存在と見做されないこと。それは重要だった。
「我々への対策ですね」
アスタロトが頬を崩す。魔力の塊である翼が消えたことで、ルーサルカ達も落ち着きを取り戻した。ヤンはずっと尻尾と耳をぺたんと押し付けたまま、ソファに徹している。その毛皮を撫でながら、ルシファーが溜め息を吐いた。
「純白や銀の髪だったら、我々が排除すると思われたのでしょう」
「赤子のうちなら何とかなるし」
ベールがさらりと恐ろしい予測を立て、ルキフェルが残酷さを濁しながら肯定する。あの頃のリリスは赤い瞳だった。アスタロトもそうだが、赤い瞳は強者に分類される。アルビノの考え方が影響するせいだ。
親の分からぬ純白の子供が落ちていたら……ルシファーが見つける前に処分されただろう。未来の脅威を育てる大公達ではない。送り込んだ我が子の命を守るため、森はわざと黒い髪を選んだのだ。
「オレはリリスの黒髪が好きだぞ。艶を帯びると夜闇のようで美しいからな」
一房手に取って、唇を押し当てる。ルシファーの告白を「ありがとう」と笑顔で受け取るリリスは手にした葡萄を一粒口にいれ、もう一粒をルシファーの唇に滑り込ませた。
翼12枚の魔力が少ないなら、濃縮されるはずだ。12枚の黒い羽ではなく、6枚の白い羽になるのが正しい。色の法則はこの世界の理だった。大公達でさえ一対2枚の羽しか持たないのに、ルシファーは12枚を維持する魔力を有する。
これほどの枚数は必要ないというのに。その理由が魔の森に魔力を流したからだという。リリスの言葉を借りるなら、魔力を貸したのだ。だから12枚が残っていた。12枚の白い翼から平均に魔力を抜いたから、色が黒に変わっていたのだ。
「……そう考えると、絶対おかしいのに……どうして気づけなかったんだろう」
生まれた時から見慣れた影響とはいえ、魔力の法則を研究するルキフェルは唸った。そうだ、リリスの黒髪を見たときは違和感を覚えたのに。すぐにどうでも良くなった。研究を専門にする者が、解決していない現象を後回しにして忘れるなんて……。
「魔の森のせいだもの。仕方ないわ」
リリスはけろりとルキフェルに言い放ち、ルシファーが摘んだ菓子を齧る。半分食べて、残りをルシファーの口に押し込んだ。リリスに食べさせるつもりだった焼き菓子の残りを食べながら、今度は違う焼き菓子を手に取るルシファーは、肩をすくめた。
「森は追及されたくなかったのか。何らかの影響を受けたんだろう」
全員が見落とした異常は、魔の森が隠そうとした事実を含んでいる。生みの母である魔の森の秘密は守られた。それでいいじゃないか。くすくす笑うルシファーが、残る翼を広げた。途端に圧迫感を感じるほどの強大な魔力が満ちる。
「全部白くなったらお披露目したいわね」
無邪気に手を叩くリリスだが、アスタロトが首を横に振った。
「距離を置かないと、魔力の弱い種族は消滅しますよ」
魔力による圧死を示唆され、ルシファーは苦笑いした。ルーサルカは少し息苦しさを感じ、ルーシアは小刻みに震える。大公女に影響が出たのを見て、10枚の翼を仕舞った。リリスは二対4枚をひらひらと遊ばせている。
「リリスの髪が黒いのは何故だ?」
白い肌、金の瞳、白い羽……なぜ黒髪を選んだのか。同じような理由があるのでは? そう心配したルシファーの声に、リリスは紅茶を飲んでから答えた。
「私がどんなに成長してもルシファーを超えないように、かしら」
黒髪という色を持つ限り、リリスがルシファーを超えることはない。魔の森は己の娘に枷をつけたのだ。最愛の魔王が頂点に立ち続けるよう望んだ。傍に立つ娘リリスが、ルシファーを脅かす存在と見做されないこと。それは重要だった。
「我々への対策ですね」
アスタロトが頬を崩す。魔力の塊である翼が消えたことで、ルーサルカ達も落ち着きを取り戻した。ヤンはずっと尻尾と耳をぺたんと押し付けたまま、ソファに徹している。その毛皮を撫でながら、ルシファーが溜め息を吐いた。
「純白や銀の髪だったら、我々が排除すると思われたのでしょう」
「赤子のうちなら何とかなるし」
ベールがさらりと恐ろしい予測を立て、ルキフェルが残酷さを濁しながら肯定する。あの頃のリリスは赤い瞳だった。アスタロトもそうだが、赤い瞳は強者に分類される。アルビノの考え方が影響するせいだ。
親の分からぬ純白の子供が落ちていたら……ルシファーが見つける前に処分されただろう。未来の脅威を育てる大公達ではない。送り込んだ我が子の命を守るため、森はわざと黒い髪を選んだのだ。
「オレはリリスの黒髪が好きだぞ。艶を帯びると夜闇のようで美しいからな」
一房手に取って、唇を押し当てる。ルシファーの告白を「ありがとう」と笑顔で受け取るリリスは手にした葡萄を一粒口にいれ、もう一粒をルシファーの唇に滑り込ませた。
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