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86章 溢れ出たあれこれの後始末

1183. やっぱり白が似合うわ

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 睡眠時間や食事を摂ったことより、リリスが戻ってきた精神的な安定が一番大きかったのだろう。艶々の肌で隈もない、麗しの魔王が復活した。力の証である純白の長い髪を揺らしながら、腕を組んだ黒髪リリスと魔王軍の中を歩く。

 後ろに大量のお付きがいた。フェンリルのヤン、魔王妃護衛のイポス、大公女4人と大公3人だ。ちなみに欠けている大公はベルゼビュートで、彼女は森の木々との交信を仰せつかって……絶賛お昼寝中だった。目を閉じて交信の真似事をしながら、こっくりと眠りの船を漕ぐ。

 問題はあるが放置されたのは、魔王のテントの中で人目に触れないことが理由だった。ルシファーが「仕方ない」と苦笑いしたのも影響している。実際、リリスが取り込まれた木に魔力を送り、交信を試みて消耗しているのも事実だった。

 魔王軍も半分以上は通常業務に戻り、残された軍の関係者も撤収の準備中である。この場でのんびりしているのは、魔王周辺の関係者だけだった。

「ここがいいか」

 木漏れ日が心地よい大木を選び、その下に大公女達が道具を並べていく。机や椅子を取り出すレライエから受け取り、敷いた絨毯の上に設置するルーサルカ。ルーシアはお茶の道具が入った箱を取り出し、中身を確認する。その間にシトリーがお茶菓子を用意した。相変わらずの手際の良さだ。

「慣れていますね」

 感心半分、呆れ半分のアスタロトが苦笑いした。大公女はお茶を用意する侍女ではないのですが。そんなぼやきが滲む彼にルキフェルが肩をすくめた。

「仕方ないよ、リリスの尻拭いだけ上手になっちゃう状況だもん」

「リリス様もあと20年もすれば、落ち着かれると思います」

 ベールのフォローにならない言葉に、あと20年で落ち着くか疑わしいと唸るアスタロト。大公女達は20年って長いわね……と顔を見合わせた。ヤンは森の中なので、巨体をくるりと丸めて地面でソファになる。当たり前のように腰掛けるリリスとルシファーを尻尾で包み、喉を鳴らした。

「さて、と。事情を聞かせてくれるか? リリス」

 何かが満ちたので受け取ってくる。飛び出す前の彼女が残した言葉の意味を尋ねた。用意された椅子にそれぞれ座った大公達も身を乗り出す。注目が集まる中、茶菓子をひとつ頬張ったリリスは瞬きをした。

「ほうへ、ふへほっははぁ」

 そうね、受け取ったわ――慣れと愛の力で解読したルシファーに、リリスは無造作に手を伸ばした。触れた純白の髪を一房掴んで、手元に引き寄せる。

「……飽和してるから、髪は無理ね」

 ぼそぼそと呟きながら、ルシファーに翼を出すよう促した。言われるまま広げた一対2枚の黒い羽に、リリスが口付ける。自らも白い翼を広げ、光る輪を頭に乗せたリリスは目を閉じていた。びくりと肩を揺らして硬直するルシファーが、驚いたように振り返る。

 リリスが掴んだ翼に大量の魔力が流れ込んでいた。すでに12枚ある翼に染みる魔力は、どこか懐かしい。むず痒い感覚に翼が震えた。

「……っ、色が」

 アスタロトの指摘で、全員の視線がルシファーの羽に集まる。鳥の翼のような羽毛を持つ黒い羽が、徐々に薄くなった。翼が消えるのではなく、色が抜けていくのだ。

「白……?」

 これ以上の魔力を持つのだろうか。純白の魔王として最上位の魔力量を誇るルシファーの、背負う翼は黒。12枚すべてが黒かったのに……外に出ている2枚が鼠色になり、薄灰色に変化し、最後に真っ白に色が抜けた。

「ふぅ、疲れるわね」

 最後の1枚まで羽根の色を白く変えたリリスは、成した出来事が嘘のように軽い口調でルシファーに寄りかかる。上から下まで羽を見つめた後、にっこりと微笑んだ。

「やっぱりルシファーは白が似合うわ」
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