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85章 始まる準備がひと騒動
1181. 食事して一緒に眠りましょう
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ぐずぐずと鼻を啜るルシファーの説明で、ようやく自分が3日も戻って来なかったと知った。驚いたリリスが最初にしたことは、抱きしめたルシファーにキスをすることだ。何度も触れて離れるキスに、徐々に落ち着いてきたルシファーが腕を緩めた。
タオルの下は裸なので、出してもらった下着から服、靴まで身に着ける。その間も、体のどこかに触れていたルシファーに黒髪を掴ませ、リリスは静かに怒りを溜めていた。魔の森が「すぐ」って言うから、信じたのに。まさか3日も経過してたなんて! しかもルシファーに伝言もなかったの?
自分も伝言を残していなかったことをすっかり棚の上に放り投げ、リリスはむっとした顔でテント内の大木を睨む。といっても、この大木はただの入り口に過ぎないのだが。手のひらを押し当てて、文句を言ってやろうと近づいた瞬間、後ろからルシファーに押さえ込まれた。
「ルシファー?」
「……ダメだ」
木に近づいたらダメだと訴えるルシファーの、子どもっぽい態度に絆されてしまう。やだ……私にも母性本能とかあったのね。よしよしと純白の髪を撫でながら抱き締めると、嬉しそうだった。リリスが消えたのがショック過ぎて、いろいろ壊れた魔王である。
頬ずりするリリスにご機嫌で、回した手に力を込めた。こうしてしっかり捕まえているのに、するりと抜け出してしまう。そこが魅力かと問われたら、正直頷きづらい。お転婆な態度も可愛いと思うが、今回は度を越していた。3日も行先不明になるなら手を離さなかったのに。
「ごめんなさい、今度は森に帰る前に連絡するわ。中からも連絡できたらいいんだけど」
どうも中と外で時間の流れが違うらしい。その程度しか理解していないリリスは、申し訳なさそうに謝った。彼女にとって僅か数時間が、外で3日も経っていた。心配させたのは理解できたし、悪いとも思う。でも必要があれば、森とまた同化するだろう。
「帰るときは連れていけ」
「……出来るかしら」
意地悪ではなく、試したことがないので怖い。リリスは困ったような顔をしたものの、否定はしなかった。なんとなくだけど、魔の森が受け入れそうな気がする。ルシファーにはひたすら甘い魔の森なのだ。無理やりにでもルシファーを中に通すと思われた。
「そうじゃないわ、いけ。押し倒せ」
奇妙な呟きに気づいて眉を顰めるリリス、同様にルシファーも後ろを振り返った。テント入り口の少し脇、足元が捲れてピンクの巻き毛が見えている。覗きを楽しんでいる精霊女王に、ルシファーが遠慮容赦なくぴしゃりと結界を叩きつけた。
「いたっ!」
「何を馬鹿なことをしているんですか! 当然です!!」
叫んだところをベールに発見され、ベルゼビュートは慌ただしく連れ去られた。緊迫していたテントの中は、この騒動で緩む。ふかふかの毛皮の上に直接座ったルシファーが、リリスを膝に座らせた。横抱きのリリスは、慣れた様子で首に手を回す。満足そうに笑うルシファーの目元に、指先を滑らせた。
「寝てないのね」
「問題ない」
「食事はした?」
「覚えていない」
嘘はつかないが、本当のことも隠す。ルシファーの受け答えで状況を理解したリリスは、にっこりと笑った。
「ねえ、ルシファー。果物が食べたいわ。それからお昼寝もしたいの」
振りかざした我が侭を、あなたは叶えてくれるでしょう? 一緒に食事をして、一緒に眠りましょうよ。そう誘いかけるリリスに目を細め、ルシファーはぱちんと指を鳴らした。外で待っていたアデーレが食事を運び込み、あっという間に準備が整えられる。
いつリリスが帰ってきてもいいよう、食事、風呂、ベッドは完璧に準備してあった。疲れてお腹が空いて帰ってくるだろうと予想したのだ。まさか逆に気遣われるとは思わなかった。ようやく穏やかな表情を取り戻した魔王の膝の上で、リリスは葡萄を手に取った。
「はい、あーんして」
タオルの下は裸なので、出してもらった下着から服、靴まで身に着ける。その間も、体のどこかに触れていたルシファーに黒髪を掴ませ、リリスは静かに怒りを溜めていた。魔の森が「すぐ」って言うから、信じたのに。まさか3日も経過してたなんて! しかもルシファーに伝言もなかったの?
自分も伝言を残していなかったことをすっかり棚の上に放り投げ、リリスはむっとした顔でテント内の大木を睨む。といっても、この大木はただの入り口に過ぎないのだが。手のひらを押し当てて、文句を言ってやろうと近づいた瞬間、後ろからルシファーに押さえ込まれた。
「ルシファー?」
「……ダメだ」
木に近づいたらダメだと訴えるルシファーの、子どもっぽい態度に絆されてしまう。やだ……私にも母性本能とかあったのね。よしよしと純白の髪を撫でながら抱き締めると、嬉しそうだった。リリスが消えたのがショック過ぎて、いろいろ壊れた魔王である。
頬ずりするリリスにご機嫌で、回した手に力を込めた。こうしてしっかり捕まえているのに、するりと抜け出してしまう。そこが魅力かと問われたら、正直頷きづらい。お転婆な態度も可愛いと思うが、今回は度を越していた。3日も行先不明になるなら手を離さなかったのに。
「ごめんなさい、今度は森に帰る前に連絡するわ。中からも連絡できたらいいんだけど」
どうも中と外で時間の流れが違うらしい。その程度しか理解していないリリスは、申し訳なさそうに謝った。彼女にとって僅か数時間が、外で3日も経っていた。心配させたのは理解できたし、悪いとも思う。でも必要があれば、森とまた同化するだろう。
「帰るときは連れていけ」
「……出来るかしら」
意地悪ではなく、試したことがないので怖い。リリスは困ったような顔をしたものの、否定はしなかった。なんとなくだけど、魔の森が受け入れそうな気がする。ルシファーにはひたすら甘い魔の森なのだ。無理やりにでもルシファーを中に通すと思われた。
「そうじゃないわ、いけ。押し倒せ」
奇妙な呟きに気づいて眉を顰めるリリス、同様にルシファーも後ろを振り返った。テント入り口の少し脇、足元が捲れてピンクの巻き毛が見えている。覗きを楽しんでいる精霊女王に、ルシファーが遠慮容赦なくぴしゃりと結界を叩きつけた。
「いたっ!」
「何を馬鹿なことをしているんですか! 当然です!!」
叫んだところをベールに発見され、ベルゼビュートは慌ただしく連れ去られた。緊迫していたテントの中は、この騒動で緩む。ふかふかの毛皮の上に直接座ったルシファーが、リリスを膝に座らせた。横抱きのリリスは、慣れた様子で首に手を回す。満足そうに笑うルシファーの目元に、指先を滑らせた。
「寝てないのね」
「問題ない」
「食事はした?」
「覚えていない」
嘘はつかないが、本当のことも隠す。ルシファーの受け答えで状況を理解したリリスは、にっこりと笑った。
「ねえ、ルシファー。果物が食べたいわ。それからお昼寝もしたいの」
振りかざした我が侭を、あなたは叶えてくれるでしょう? 一緒に食事をして、一緒に眠りましょうよ。そう誘いかけるリリスに目を細め、ルシファーはぱちんと指を鳴らした。外で待っていたアデーレが食事を運び込み、あっという間に準備が整えられる。
いつリリスが帰ってきてもいいよう、食事、風呂、ベッドは完璧に準備してあった。疲れてお腹が空いて帰ってくるだろうと予想したのだ。まさか逆に気遣われるとは思わなかった。ようやく穏やかな表情を取り戻した魔王の膝の上で、リリスは葡萄を手に取った。
「はい、あーんして」
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