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83章 勇者が攻めてくる季節
1153. 無理なものは無理
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「ぐっ……無理なものは無理だ」
一瞬苦しそうに顔を顰めたものの、なんとか堪えたルシファー。リリスに嫌われたくないから叶えたい。でも叶えると、ルキフェルが研究に使って、最後は処分してしまうのは目に見えていた。それも気の毒だし、何よりリリスにバレたら泣かれると思う。
堪えるルシファーの頑なな様子に、ヤンが援護に入った。
「リリス様、合宿のご相談はよいのですかな?」
話を逸らす作戦だ。通常なら移り気の激しいリリスは、その話題に飛びついただろう。だが、目の前に少女がいる状況では、話が元に戻ってしまう。
「それもあるけど、先にこの子よ」
「……我が君、お役に立てず申し訳ございませぬ」
しょんぼりと項垂れるフェンリルに、ルシファーが苦笑いする。健闘を称えるように巨体の顎を撫でてやり、ぺたんと垂れた耳を軽く叩いた。
「リリス様、こうしてはいかがですか。ルキフェル様に預けましょう」
それを回避しようとしていたんだが? 恐ろしい提案をするレライエに、翡翠竜も援護した。新しく購入したバッグの中から必死に説得する。
「ルキフェル大公なら、管理してくれますし。リリス姫は合宿があります。それにヴラゴの面倒も見るから手が足りないですから」
間違ってはいない。小竜になったヴラゴは赤子同然で手がかかる。今日はコボルト達に預けてきたが、普段はリリスが面倒を見ると言い切っていた。これ以上面倒を見る対象を増やすのは無理だ。もっともな理論だ。そこまでは問題ないが、どうしてルキフェルに預けようとする?
参ったと額を押さえるルシファーの魔力を感知したのか、ベルゼビュートがふわりと現れた。転移というより、舞い降りた形だ。珍しく羽を出していたので、リリスの興味がそちらに逸れた。こういう時は、彼女の移り気なところが好ましい。
「ベルゼ姉さん、すごく綺麗。見せて」
くるりと背中に回り込み、羽を褒められたベルゼビュートも嬉しそうに広げてみせる。そのまま気を引いているよう頼んだルシファーに頷くベルゼビュートは、目の前にいる探し物に目を瞠った。
あれ、あたくしの獲物ですわ。口パクで伝えられ、ルシファーが仕方なく頷く。ひらりと手を振って転移させた先は、魔王城の城門前だった。こうなったら隠す方が怖い。ベルゼビュートは満足げに頷き、言いつけられた仕事を終えた安堵感で鼻歌を歌いだした。
「リリス、合宿とはなんだ?」
話を逸らすために先を促せば、少女が消えたことに気づかないリリスがぽんと手を叩いた。
「そう! 皆んなで合宿をしたいの」
「何のために?」
そもそも普段から合宿のようなものだろう。大公女達も護衛も含め、全員が魔王城に住んでいるのだから。今さら集まって何をするのか、ルシファーの疑問に答えたのはイポスだった。
「私の態度に問題があり、距離を感じると言われました。その距離をゼロにしたいと仰って……この提案になった次第です」
「ああ、なるほど」
納得してしまう。ルシファー自身も、イポスはすこし硬すぎると思っていたのだ。仕事に専念にするのは構わないが、自分を押し殺しすぎだ。ヤンくらい自由に振る舞えばいい。だが生きてきた年数も経験も違う貴族令嬢となれば、いくら剣の腕が立つとはいえ子供だった。人族との最前線で一族を率いたヤンに敵うはずがない。
「城の西側に、小屋があるから使うといい」
数日なら不自由しないだろう。広さもあり、魔王城の庭の一部だった。アラクネ達が住む地域ともズレるし、誰かが襲撃する可能性も低い。魔王城の塔からは見えるが、森の中の小屋から城が見えないのが利点だった。エルフ達に管理させていたので、問題なく使えるはずだ。
ルシファーの提案に、リリスが大喜びした。
「いいわね、ヴラゴも一緒に……そうだわ! アンナも誘ってみましょう」
話は決まったらしい。リリスが少女の不在に気づかないよう、大急ぎで合宿の案を進めた。
「よし、ベール達にはオレから話しておく」
もう機嫌も直っただろう。少女も送り届けたことだし……そう安心したルシファーは、ベルゼビュート以下護衛と大公女達を連れて中庭へ転移した。
************************
新作『虚』をUPし始めました。
復讐に憑りつかれた主人公の青年は、異世界に召喚された元日本人。必死に戦い魔王を倒した彼に待っていたのは、この世界からの拒絶と仲間の裏切りだった。
突然現れて手を差し伸べた美女リリィの過去と正体を知る日まで、青年は足掻き続ける……ダークで残虐描写多めのお話です。
意外と明るい主人公ですので、ぜひご賞味ください(*´艸`*)
一瞬苦しそうに顔を顰めたものの、なんとか堪えたルシファー。リリスに嫌われたくないから叶えたい。でも叶えると、ルキフェルが研究に使って、最後は処分してしまうのは目に見えていた。それも気の毒だし、何よりリリスにバレたら泣かれると思う。
堪えるルシファーの頑なな様子に、ヤンが援護に入った。
「リリス様、合宿のご相談はよいのですかな?」
話を逸らす作戦だ。通常なら移り気の激しいリリスは、その話題に飛びついただろう。だが、目の前に少女がいる状況では、話が元に戻ってしまう。
「それもあるけど、先にこの子よ」
「……我が君、お役に立てず申し訳ございませぬ」
しょんぼりと項垂れるフェンリルに、ルシファーが苦笑いする。健闘を称えるように巨体の顎を撫でてやり、ぺたんと垂れた耳を軽く叩いた。
「リリス様、こうしてはいかがですか。ルキフェル様に預けましょう」
それを回避しようとしていたんだが? 恐ろしい提案をするレライエに、翡翠竜も援護した。新しく購入したバッグの中から必死に説得する。
「ルキフェル大公なら、管理してくれますし。リリス姫は合宿があります。それにヴラゴの面倒も見るから手が足りないですから」
間違ってはいない。小竜になったヴラゴは赤子同然で手がかかる。今日はコボルト達に預けてきたが、普段はリリスが面倒を見ると言い切っていた。これ以上面倒を見る対象を増やすのは無理だ。もっともな理論だ。そこまでは問題ないが、どうしてルキフェルに預けようとする?
参ったと額を押さえるルシファーの魔力を感知したのか、ベルゼビュートがふわりと現れた。転移というより、舞い降りた形だ。珍しく羽を出していたので、リリスの興味がそちらに逸れた。こういう時は、彼女の移り気なところが好ましい。
「ベルゼ姉さん、すごく綺麗。見せて」
くるりと背中に回り込み、羽を褒められたベルゼビュートも嬉しそうに広げてみせる。そのまま気を引いているよう頼んだルシファーに頷くベルゼビュートは、目の前にいる探し物に目を瞠った。
あれ、あたくしの獲物ですわ。口パクで伝えられ、ルシファーが仕方なく頷く。ひらりと手を振って転移させた先は、魔王城の城門前だった。こうなったら隠す方が怖い。ベルゼビュートは満足げに頷き、言いつけられた仕事を終えた安堵感で鼻歌を歌いだした。
「リリス、合宿とはなんだ?」
話を逸らすために先を促せば、少女が消えたことに気づかないリリスがぽんと手を叩いた。
「そう! 皆んなで合宿をしたいの」
「何のために?」
そもそも普段から合宿のようなものだろう。大公女達も護衛も含め、全員が魔王城に住んでいるのだから。今さら集まって何をするのか、ルシファーの疑問に答えたのはイポスだった。
「私の態度に問題があり、距離を感じると言われました。その距離をゼロにしたいと仰って……この提案になった次第です」
「ああ、なるほど」
納得してしまう。ルシファー自身も、イポスはすこし硬すぎると思っていたのだ。仕事に専念にするのは構わないが、自分を押し殺しすぎだ。ヤンくらい自由に振る舞えばいい。だが生きてきた年数も経験も違う貴族令嬢となれば、いくら剣の腕が立つとはいえ子供だった。人族との最前線で一族を率いたヤンに敵うはずがない。
「城の西側に、小屋があるから使うといい」
数日なら不自由しないだろう。広さもあり、魔王城の庭の一部だった。アラクネ達が住む地域ともズレるし、誰かが襲撃する可能性も低い。魔王城の塔からは見えるが、森の中の小屋から城が見えないのが利点だった。エルフ達に管理させていたので、問題なく使えるはずだ。
ルシファーの提案に、リリスが大喜びした。
「いいわね、ヴラゴも一緒に……そうだわ! アンナも誘ってみましょう」
話は決まったらしい。リリスが少女の不在に気づかないよう、大急ぎで合宿の案を進めた。
「よし、ベール達にはオレから話しておく」
もう機嫌も直っただろう。少女も送り届けたことだし……そう安心したルシファーは、ベルゼビュート以下護衛と大公女達を連れて中庭へ転移した。
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