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81章 予行演習? 誰の入れ知恵だ

1127. おむつか、食事か

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 陽炎の中にぼんやりと黒い影が見える。どうやらドラゴン同士で、怪獣大戦争が展開されたらしい。ルキフェルの説明によると、事情を聞こうと話しかけた直後にパンチを食らったので、全力で蹴飛ばしたという。普通に考えて黒幕で間違いないだろう。

「本当に生きてるんですか?」

 アスタロトが疑うのも無理はない。黒い影と化したドラゴンは微動だにしないのだ。立ったまま絶命していると説明されても違和感がなかった。

「さっきは息してたよ」

 けろりと恐ろしい発言をしたルキフェルに肩を竦め、アスタロトが確認に向かった。ルシファーも気になるが、自分が動くとリリスも一緒だ。それは危険だった。何より……率先してルシファーが動くと叱られるのだ。君主は配下を動かす者だと何度も言い聞かされた。

 説教も数万年単位になれば、のんきでマイペースな魔王の脳裏に刻まれるようだ。効率の悪いこと極まりないが、刻まれないよりマシだろう。詳しい戦いの様子を聞きたがるリリスに、ルキフェルが身振り手振りを交えて話し始めた。壮大な戦いの記録は、それでもルキフェルが手加減したのがわかる。

 本気でルキフェルが蹴ったら、相手の足が吹き飛んで肉片だ。その点相手の形が残っているのだから、調整はうまくいったのだと思う。一度切れたルキフェルを宥めようとしたベールが、肩から先を吹き飛ばされたのを思い出し、ルシファーは穏やかな気持ちで相槌を打った。

「っ! 大人しくなさい」

 アスタロトの声が響いた直後、大地が揺れて裂けた。振り返ると、結界の境目まで大地が割れ、その隙間に黒焦げドラゴンが押し込まれている。振動が収まった大地は、しっかりとドラゴンを拘束した。全身を圧迫された状態では、逃げ出すのも大変だろう。まあ自業自得なのだが。

「これはあれかしら、抵抗されたの?」

 リリスの質問に「たぶん」とルシファーが呟く。ルキフェルは、自分がやりたかったとぼやいた。ドラゴンブレスを吐きまくって、まだ暴れたりないらしい。全力を尽くしての戦いではないから物足りないだろうが、本気を出す瑠璃竜王の相手が出来るのは大公か魔王だけだ。

「逃がすくらいなら息の根を止めようと思いますが」

 どうでしょう? 笑顔で恐ろしい提案をする部下に、勢いよく首を横に振った。ここで唯一、黒焦げドラゴンの味方をするのは魔王のみだ。無法地帯ではなく法整備されているので、処断は法に沿って行って欲しい。

「ルシファー様がそう仰るなら仕方ありませんね」

 珍しく譲歩したアスタロトは、転移でドラゴンを消した。魔王城の城門前に投げ捨てたのだろう。今頃、当番の魔王軍が捕縛している頃か。

「ふわぁあ……っ、ぎゃあああああ!」

 勢いよく息を吸ったレラジェが、突然泣き出した。おむつか、食事か。空を見上げて時間を計り、ルシファーは頷く。

「食事だな。城に戻ろう」

 リリスの時と違い、レラジェの離乳食は持ち歩いていない。そもそも攫われたこと自体が予想外で、数日アンナに預けるつもりだった。食事の準備をしている筈がなかった……あ。

「アンナが心配してるぞ」

 思いだした。青ざめるルシファーに、ルキフェルが「そうだった」と呟く。すっかり忘れて盛り上がっていた魔王城の重鎮達は顔を見合わせ、それぞれに転移した。残されたのは荒れた大地……じわじわと魔力を集めながら、草木は勝手に芽吹き始める。

 ベールの領地を荒らしたルキフェルは、ルシファーを言い訳の道連れにし……2人はこってり叱られた。責任を取って魔の森を蘇らせるため、魔力を撒きに再び焼け野原に訪れるのは数時間後のことである。森の魔獣達は「ああ、またか」程度の眼差しを注ぎ、森の木々は与えられた魔力でざわざわと枝を揺らした。
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