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81章 予行演習? 誰の入れ知恵だ

1126. 楽しくなって焼け野原

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 森の木々が思わぬ場所まで焼け焦げ、更地となった大地は遠くまで見通せる。これは……戦いが終わった後に必要となる魔力量が膨大すぎないか? 魔の森の一部なので、幸いにして魔力さえ供給すれば数日で森は元に戻る。しかし供給する魔力は誰が……。

「ベールに任せましょう」

 まったく協力する意思のないアスタロトは、すべてをルキフェルの養い親に押し付けるらしい。現在は魔力を使って戦う予定もないし、ある程度は手伝おうと決めたルシファーは肩を竦めた。ベール経由で魔王軍から大量の魔力を搾り取ると、日常業務に差し支えそうだ。

 どかんっ!

 派手な爆発音の直後、みしみしと巨木が倒れていく。ルキフェルの蹴りが直撃したのだろう。足跡がくっきりついた幹が真っ二つに裂けた。根っこも大半が露出する衝撃を受けた木は、倒れた地面の高熱で発火する。結界越しなので実感はないが、外はかなりの高温だった。

「そろそろ止めるか?」

「まだ早いですよ」

 どうせなら中途半端な複数回より、派手な一回の方が被害が少ないです。長年の経験からとんでもない理論で魔王を止める側近は、同僚の戦い方に興味津々だった。ルキフェルは魔法陣の研究に熱心で、普段は魔法陣を使った戦いを好む。しかし本性はドラゴンだ。本能の命じるまま力を振るう戦いは、ルキフェルの強さを浮き彫りにした。

「魔王城を吹き飛ばしたアムドゥスキアスを思い出しますね」

「嫌な記憶を呼び起こすな」

 早い段階で止めようとして、うっかりがれきの下敷きにされたルシファーは舌打ちした。結界ごと魔王城の地下に沈められたのは、失態だった。あの後ベールとアスタロトに長い説教を食らったのだ。転移して戻ったら城は崩れて建て直しになるわ、側近には叱られるわ。散々だった。

「ロキちゃん、すごいわね」

 凄いの一言で片づけるリリスを、器が大きいと考えれば悪くない。そう思ったルシファーに、続きが刺さった。

「私もやりたいわ」

「絶対にやめてくれ」

 被せ気味に禁止を言い渡す。どかんと雷を落とすだけで、魔王城の塔が崩れる未来が見える気がした。魔の森の娘であるリリスの魔力は無尽蔵で、ルシファー自身が暴れるのと大差ない。銀龍石も無限ではないので、建て直しの資材が足りなくなるだろう。

「……我慢する」

「いい子だ、リリス。そうしてくれると助かる。一緒に暮らす城がないと、薔薇のお風呂も入れないぞ」

 大好きなお風呂がなくなる。その一言は意外にもリリスの心に届いた。お気に入りのドレスやベッドも、ヤンと一緒にお昼寝したテラスもなくなる……そんなの嫌だわ。実感を込めて頷くリリスの黒髪を撫でるルシファーに、アスタロトが声を掛けた。

「一段落したようですよ」

 結界の外で続いていた物騒な破壊音と、土煙が止んでいた。焼け爛れた大地は陽炎を立ち上らせるほどの高温で、その揺らぎの中で青い鱗の竜が振り返る。

「ルキフェル、片付けが大変だぞ」

「手伝ってあげるわ」

 手を振るリリスの声に、するりとルキフェルが人化した。いつもの水色の髪をかき上げながら近づき、にっこりと笑って結界をノックする。

「いいぞ」

 許可を出す。それは魔法陣に作用した。外からの干渉を排除していた結界を通り抜け、ルキフェルはほっとした様子で笑った。

「ごめん、途中から楽しくなっちゃって」

 ぺろっと舌を出して詫びる。あまり悪いと思っていない様子だった。

「何を見つけたんだ?」

「ワイバーンを操っていた黒幕。ドラゴン種に生まれた変わり種の話を思い出したんだ。僕と同じで神龍と竜の間に生まれた子だよ」

 ワイバーンを操る能力は種族の特性にない。個体が偶然得た固有の能力だった。その話を思い出して顔を出した途端に攻撃されたのだという。間違いなく関与していたと思われた。

「犯人なら確保してください」

「ああ、一応まだ生きてるよ?」

「……あの焼け野原で、か?」

 アスタロトの苦情に、けろりと返したルキフェル。殺してないと言われても、ルシファーの目に映る景色は地獄絵図だった。
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