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80章 勇者は魔王の対じゃない?
1108. 本物も危険なんだが
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オレじゃないと理解して首を落としたのではなく、首を落としたら魔王本人じゃなかった、と。問題ある対応だが、そこを突くと藪蛇になりそうだ。なぜ首を落とされた側のオレが、気を遣わなければならないのか……ん? いや、オレの首じゃないから……ダメだ、混乱してきた。
「その件は後にしよう。首を落とされた偽物はどうしたんだ?」
「消えました」
ベールはけろりと話し、隣のルキフェルは考えながら表現を変えた。この辺は観察眼に優れた研究者だからか。こだわりがあるらしい。
「一瞬で無になったんじゃなく、霧が晴れる時みたいな感じでね。ふわっと薄くなったんだ。慌てて捕獲用ネットを使用したんだけど、すり抜けられちゃった」
「……さっきの網か?」
頷くルキフェルが肩をすくめた。残念と笑っているが、その後に改良したのだろう。それをベルゼビュート相手に試したのは間違いない。何かを開発した時のルキフェルは、すぐに実験相手を探すからな。
何度か付き合ったルシファーはだいぶ掴めてきた状況に眉を顰めた。
偽物が出て、見た目で区別がつかない。それは特に何か悪さをしたわけではないが、魔力の分析が出来ない者が出会ったら……どうする? これからも攻撃しない確証はなかった。何かあってからでは遅い。
「探した方がいいと思うが」
「うーん、見つからない気がするんだよね。探させてるんだけど」
魔王軍の中で、城に残っていた訓練組に「魔王陛下を見つけたら連絡して。攻撃許可もある」と告げた。彼らは深く考えずに「ああ、訓練の一環ですね」と納得した――そこまで聞いて、ルシファーは頭を抱える。
やられた。
「と言うわけで、しばらく外出禁止です。よかった、これで溜まった書類が片付きます」
視察だと言って処理を後回しにした上、さらに休暇に出かけましたからね。温泉のお湯はいかがでした? さぞ心地よかったでしょう。嫌味をぶつけられ、たじたじになったルシファーを、リリスが庇った。
「ルシファーだって大変だったのよ! 鳳凰の子が温泉止めたり、噴き出したり、溢れさせたり、配管詰まらせたんだから!!」
温泉止めたのは間違いないが、噴き出したのは卵を抜いたアスタロトの所為だし、溢れさせたのはルシファーの自業自得。さらに配管を薔薇の花びらで詰まらせたのはリリスである。鳳凰の雛はとばっちりもいいところだった。完全なる冤罪だ。
「リリス、ありがとう。でもいいんだよ」
ぽんと頭を撫でて、リリスの黒髪を一房持ち上げて口付けた。嬉しそうに顎を逸らす得意げなリリスだが、ルシファーは複雑な心境を押し殺していた。これ以上リリスに話をさせたら、余計なことまでバラされそうだ。
「お戻りだったんですね、本物ですか?」
「お前もか? アスタロト」
笑うしかない。部屋に入ってきた側近は、事情を知ってると示すために手っ取り早く揶揄った。これを受けて、ルシファーも事情を理解したことを匂わせる。この辺りのやりとりは、付き合いの長さゆえだろう。
「偽物捜索の話だが」
「見つけたら、私が遠慮なく首を刎ねますのでご安心くださいね」
「いや、安心できないな」
全くもって安心できない。魔王城内にいても、側近達と遭遇するたびに逃げ回る必要があるのか? 魔王城は、魔王であるオレの家だぞ??
「先ほどアベルから面白い話を聞きました。ルシファー様、まずここに立ってください」
ソファから立ち上がったルシファーの前に、アスタロトが鏡を置いた。なんと言う事はない。普段通りに純白の魔王が映っていた。
「それで?」
「偽物は鏡に映らないはずだ、と。彼のいた世界の通例だそうです」
アスタロトが平然と言ってのけたので「そうか」と相槌を打ったが、本当にそんなことで見分けられるのか?
「その件は後にしよう。首を落とされた偽物はどうしたんだ?」
「消えました」
ベールはけろりと話し、隣のルキフェルは考えながら表現を変えた。この辺は観察眼に優れた研究者だからか。こだわりがあるらしい。
「一瞬で無になったんじゃなく、霧が晴れる時みたいな感じでね。ふわっと薄くなったんだ。慌てて捕獲用ネットを使用したんだけど、すり抜けられちゃった」
「……さっきの網か?」
頷くルキフェルが肩をすくめた。残念と笑っているが、その後に改良したのだろう。それをベルゼビュート相手に試したのは間違いない。何かを開発した時のルキフェルは、すぐに実験相手を探すからな。
何度か付き合ったルシファーはだいぶ掴めてきた状況に眉を顰めた。
偽物が出て、見た目で区別がつかない。それは特に何か悪さをしたわけではないが、魔力の分析が出来ない者が出会ったら……どうする? これからも攻撃しない確証はなかった。何かあってからでは遅い。
「探した方がいいと思うが」
「うーん、見つからない気がするんだよね。探させてるんだけど」
魔王軍の中で、城に残っていた訓練組に「魔王陛下を見つけたら連絡して。攻撃許可もある」と告げた。彼らは深く考えずに「ああ、訓練の一環ですね」と納得した――そこまで聞いて、ルシファーは頭を抱える。
やられた。
「と言うわけで、しばらく外出禁止です。よかった、これで溜まった書類が片付きます」
視察だと言って処理を後回しにした上、さらに休暇に出かけましたからね。温泉のお湯はいかがでした? さぞ心地よかったでしょう。嫌味をぶつけられ、たじたじになったルシファーを、リリスが庇った。
「ルシファーだって大変だったのよ! 鳳凰の子が温泉止めたり、噴き出したり、溢れさせたり、配管詰まらせたんだから!!」
温泉止めたのは間違いないが、噴き出したのは卵を抜いたアスタロトの所為だし、溢れさせたのはルシファーの自業自得。さらに配管を薔薇の花びらで詰まらせたのはリリスである。鳳凰の雛はとばっちりもいいところだった。完全なる冤罪だ。
「リリス、ありがとう。でもいいんだよ」
ぽんと頭を撫でて、リリスの黒髪を一房持ち上げて口付けた。嬉しそうに顎を逸らす得意げなリリスだが、ルシファーは複雑な心境を押し殺していた。これ以上リリスに話をさせたら、余計なことまでバラされそうだ。
「お戻りだったんですね、本物ですか?」
「お前もか? アスタロト」
笑うしかない。部屋に入ってきた側近は、事情を知ってると示すために手っ取り早く揶揄った。これを受けて、ルシファーも事情を理解したことを匂わせる。この辺りのやりとりは、付き合いの長さゆえだろう。
「偽物捜索の話だが」
「見つけたら、私が遠慮なく首を刎ねますのでご安心くださいね」
「いや、安心できないな」
全くもって安心できない。魔王城内にいても、側近達と遭遇するたびに逃げ回る必要があるのか? 魔王城は、魔王であるオレの家だぞ??
「先ほどアベルから面白い話を聞きました。ルシファー様、まずここに立ってください」
ソファから立ち上がったルシファーの前に、アスタロトが鏡を置いた。なんと言う事はない。普段通りに純白の魔王が映っていた。
「それで?」
「偽物は鏡に映らないはずだ、と。彼のいた世界の通例だそうです」
アスタロトが平然と言ってのけたので「そうか」と相槌を打ったが、本当にそんなことで見分けられるのか?
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