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80章 勇者は魔王の対じゃない?

1107. うっかり……首を落としました

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 魔王と勇者は対だったらしい。襲ってくる勇者がいなくなったため、魔王と対だろうが無関係だろうが構わない。そう結論づけるしかなかった。

 逃げ延びた人族がどのくらいいるか調査しているが、容易に数えられる程の少数だ。接触した魔族に対しても、いきなり攻撃的な態度を見せることはなかったという。都の生き残りではなく、辺境の地に追われ住む人々は穏やかだった。

「無理に全滅させることもあるまい」

「数の管理は魔王軍が行い、一定以上の数になったら駆除します」

「……魔物と同じ扱いね」

 意思の疎通ができれば魔族分類なのだが、そこはベールが譲らなかった。貴重な幻獣や神獣を守る彼の立場を思えば、あまり強く反対もできない。その意味では、辺境を守護したベルゼビュートもベールと同意見だった。

「別の話だが、なぜ城に帰ってきたオレが警戒対象だったんだ?」

「あ、そうだ! 忘れるところだった」

「大切な案件が残っていました」

 ルキフェルが苦笑いし、ベールもお茶を淹れ直しながら「うっかりした」と漏らす。己の自宅である魔王城に帰ってくるなり、警護の兵に武器を突きつけられる魔王というのはおかしいだろう。ルシファーがむくれた声を出した。

「いきなり、偽物だの本物だの。見ればわかるだろう」

「見ても分からないんですよ。あなたの偽物が出ました」

「うん、魔力以外はそっくりだったよね」

 ベールとルキフェルは遭遇したらしい。偽物が出た。そう言われても、外見は魔力量を示している。同じ魔力量を持つ敵がいるのか?

 リリスの膝から身を起こすと、髪があちこちに引っ張られた。リリスが編んだ髪を解くと、さらりと流れる。昔から癖がつきにくく、纏めるのに苦労した。

「そういえば、髪が少し癖っ毛だったかも」

 ルキフェルが突然、思い出したように手を叩く。ベールが記憶を辿りながら同意した。

「そうですね。あとは魔力の濃さが違います。偽物は、バラけた感じがしましたし」

「変ね。魔力が少ないと真似もできないと思うけど」

 首を傾げるリリスも話に加わった。お菓子を食べるとルシファーの顔に落ちるから、食べずに我慢していたのだ。珍しく気を使っていたリリスは、菓子の皿を引き寄せて膝の上に乗せた。2枚一度に頬張る。

「それは捕まえたのか?」

「ううん、別に」

「捕まえるべきでしたか?」

 ルシファーの問いに、側近2人は不思議そうに返した。ここにアスタロトがいたら「なぜ逃すんでしょうね」と寒い笑みを……。

「アスタロトはどうした」

 先に帰ったはずだが。そう尋ねたルシファーが探った結果、文官が集まる階下の大部屋にアスタロトがいることが判明した。侍従のベリアルを捕まえて呼びに行かせ、その間に偽物の話を聞く。

「今朝初めて見たんだ。僕が研究室から出て、朝日に目を細めていたら」

「ルキフェル。徹夜は禁止だと言ったでしょう」

「ごめん。夢中になってたら朝だったんだよね」

 話が大幅に逸れた。

「目を細めたら、の続きから頼む」

「あ、ああ。えっと……渡り廊下の途中で会ったんだ。すれ違ったってほど距離が近くないんだけど、ルシファーだと思って挨拶した。そしたら無視するんだよ。追いかけて呼び止めようとしたら、ベールが飛び込んで」

「うっかり本気で斬りかかって、首を落としました」

「……オレの首を?」

「偽物の首でしたから」

 いや、オレの首を落とした後で偽物だと判明したんだろう? それってオレの首を落としたのと同じだぞ。魔王が向ける抗議の眼差しを、ベールは笑顔で受け止めた。

「偽物の、首でしたよ」
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