1,098 / 1,397
79章 先祖返りが増えてませんか
1093. 問題点がない問題
しおりを挟む
街を散策するだけでも、護衛は気を張っている。ひとつ深呼吸して、イポスは気持ちを切り替えた。運ばれてきた料理はすべて大皿だ。特にリリスが注文した量は多かった。それをイポスの前に差し出し、一緒に食べ始める。あれが好き、これは美味しいと盛り上がる女性達を見ながら、魔王と側近は目を瞬いた。
「……あの方はときどき、あなたを凌ぐ君主の器を見せますね」
「ときどきは余計だ」
アスタロトの指摘に、ルシファーは眉を寄せる。幼さを前面に出しているかと思えば、やけに大人びた考えで気遣いを見せる。リリスは人格が複数あるのかと思うほど、変化が激しかった。いつまでも幼さが残る長寿種族と、大人びた態度を崩さない短命種族の両方を兼ね備えたような不安定さがある。
ベルゼビュートは注文したサラダを食べながら、ぽんと手を叩いた。
「ああ、幼い頃の陛下に似てるのよ」
その言葉に、アスタロトが納得した。
「なるほど」
言われてみれば、幼いルシファーは可愛げのない子供だった。無表情で淡々と敵を排除し、誰かを頼ることを知らない。孤独そのものを理解していないから、自分がどんな状態か分からないのだ。放って置けなくなって拾ったのはベール。冷えた手足で震えるくせに頼らない姿に絆されたのがベルゼビュートだった。
アスタロトは最後まで反発したが、受け入れると今度は過剰なまでに世話を焼いた。結果、今のルシファーが出来上がった。強大な力の器となり、立派に魔族を率いる存在となった魔王は、今やトラブル発生源と揶揄されている。
リリスも同じような現象が起きているのだろう。慈悲深く振る舞う魔王や側近の姿を真似る一方で、無知ゆえの言動が幼く映る。元からの無邪気さがちぐはぐさを演出してしまうのだ。
「さて、今回の販売品をもう一度見せていただけますか」
アスタロトが話を元に戻す。方向修正されたことで、ルシファーも簪に似た装飾品と向き合った。危険なので触れないよう、透明の結界で包んでいる。透明の袋に入れた形だ。サンプルとして魔王城に数本転送した。ルキフェルの研究所へ直送したので、ストラス達研究員が調べるだろう。
「こうして見る限りは、やはり簪のようだ」
ルシファーが手を翳しても反応しない。直接触れたことが原因だろうか。
「結界を張って、直接」
「いけません」
アスタロトに被せ気味に断られた。自分に結界を張って、直接手に取ろうと考えたルシファーの意見は通らない。ベルゼビュートも似たレベルのことを考えたらしく、開きかけた口に果物を押し込んでさり気なく誤魔化した。
「元は魔王城で販売している魔法陣を見て、思いついたみたいです」
店主は申し訳なさそうに切り出した。それによると、魔法に夢中な息子が作ったのだという。魔王城の城門前で販売される魔法陣と似た形で、新商品を作った。魔法そのものを杖に封じて、発動用の魔石をつける。これで魔法が使えない種族でも便利になると言い出した。
実際試してみると、魔力量が少ない犬獣人の店主が火をつけたり風を吹かせたり出来た。これは売れると思い、見た目を綺麗に装飾して販売したのが始まりだ。今まで、大きなトラブルは起きていないし、常連で購入していく者もいるらしい。
「別に問題なさそうですよ」
組み込まれた魔法のレベルは初歩的なもので、複雑な加工はされていない。魔石も小さいため、大きな爆発を起こす可能性は低いようだ。ならば今回の事例は何だったのか。
「リリスは魔力を封じているのに、爆発した。なぜだ?」
リリスの魔力を封じたのはルシファー自身だから、当然魔力はほぼ完璧に遮断できている。体内に大量に保有していても、出口がなければ発動する心配はなかった。技術的な意味でルシファーの封印は完璧だ。ここは疑わないアスタロトも眉を顰めた。
「ところで、お子さんも獣人なの?」
突然、ベルゼビュートが口を挟む。食べ終えたサラダの皿を横に避けて、追加注文した果物を摘みながら首を傾げた。
「……あの方はときどき、あなたを凌ぐ君主の器を見せますね」
「ときどきは余計だ」
アスタロトの指摘に、ルシファーは眉を寄せる。幼さを前面に出しているかと思えば、やけに大人びた考えで気遣いを見せる。リリスは人格が複数あるのかと思うほど、変化が激しかった。いつまでも幼さが残る長寿種族と、大人びた態度を崩さない短命種族の両方を兼ね備えたような不安定さがある。
ベルゼビュートは注文したサラダを食べながら、ぽんと手を叩いた。
「ああ、幼い頃の陛下に似てるのよ」
その言葉に、アスタロトが納得した。
「なるほど」
言われてみれば、幼いルシファーは可愛げのない子供だった。無表情で淡々と敵を排除し、誰かを頼ることを知らない。孤独そのものを理解していないから、自分がどんな状態か分からないのだ。放って置けなくなって拾ったのはベール。冷えた手足で震えるくせに頼らない姿に絆されたのがベルゼビュートだった。
アスタロトは最後まで反発したが、受け入れると今度は過剰なまでに世話を焼いた。結果、今のルシファーが出来上がった。強大な力の器となり、立派に魔族を率いる存在となった魔王は、今やトラブル発生源と揶揄されている。
リリスも同じような現象が起きているのだろう。慈悲深く振る舞う魔王や側近の姿を真似る一方で、無知ゆえの言動が幼く映る。元からの無邪気さがちぐはぐさを演出してしまうのだ。
「さて、今回の販売品をもう一度見せていただけますか」
アスタロトが話を元に戻す。方向修正されたことで、ルシファーも簪に似た装飾品と向き合った。危険なので触れないよう、透明の結界で包んでいる。透明の袋に入れた形だ。サンプルとして魔王城に数本転送した。ルキフェルの研究所へ直送したので、ストラス達研究員が調べるだろう。
「こうして見る限りは、やはり簪のようだ」
ルシファーが手を翳しても反応しない。直接触れたことが原因だろうか。
「結界を張って、直接」
「いけません」
アスタロトに被せ気味に断られた。自分に結界を張って、直接手に取ろうと考えたルシファーの意見は通らない。ベルゼビュートも似たレベルのことを考えたらしく、開きかけた口に果物を押し込んでさり気なく誤魔化した。
「元は魔王城で販売している魔法陣を見て、思いついたみたいです」
店主は申し訳なさそうに切り出した。それによると、魔法に夢中な息子が作ったのだという。魔王城の城門前で販売される魔法陣と似た形で、新商品を作った。魔法そのものを杖に封じて、発動用の魔石をつける。これで魔法が使えない種族でも便利になると言い出した。
実際試してみると、魔力量が少ない犬獣人の店主が火をつけたり風を吹かせたり出来た。これは売れると思い、見た目を綺麗に装飾して販売したのが始まりだ。今まで、大きなトラブルは起きていないし、常連で購入していく者もいるらしい。
「別に問題なさそうですよ」
組み込まれた魔法のレベルは初歩的なもので、複雑な加工はされていない。魔石も小さいため、大きな爆発を起こす可能性は低いようだ。ならば今回の事例は何だったのか。
「リリスは魔力を封じているのに、爆発した。なぜだ?」
リリスの魔力を封じたのはルシファー自身だから、当然魔力はほぼ完璧に遮断できている。体内に大量に保有していても、出口がなければ発動する心配はなかった。技術的な意味でルシファーの封印は完璧だ。ここは疑わないアスタロトも眉を顰めた。
「ところで、お子さんも獣人なの?」
突然、ベルゼビュートが口を挟む。食べ終えたサラダの皿を横に避けて、追加注文した果物を摘みながら首を傾げた。
10
お気に入りに追加
4,927
あなたにおすすめの小説
呪われた子と、家族に捨てられたけど、実は神様に祝福されてます。
光子
ファンタジー
前世、神様の手違いにより、事故で間違って死んでしまった私は、転生した次の世界で、イージーモードで過ごせるように、特別な力を神様に授けられ、生まれ変わった。
ーーー筈が、この世界で、呪われていると差別されている紅い瞳を宿して産まれてきてしまい、まさかの、呪われた子と、家族に虐められるまさかのハードモード人生に…!
8歳で遂に森に捨てられた私ーーキリアは、そこで、同じく、呪われた紅い瞳の魔法使いと出会う。
同じ境遇の紅い瞳の魔法使い達に出会い、優しく暖かな生活を送れるようになったキリアは、紅い瞳の偏見を少しでも良くしたいと思うようになる。
実は神様の祝福である紅の瞳を持って産まれ、更には、神様から特別な力をさずけられたキリアの物語。
恋愛カテゴリーからファンタジーに変更しました。混乱させてしまい、すみません。
自由にゆるーく書いていますので、暖かい目で読んで下さると嬉しいです。
【完結】虐げられた令嬢の復讐劇 〜聖女より格上の妖精の愛し子で竜王様の番は私です~
大福金
ファンタジー
10歳の時、床掃除をしている時に水で足を滑らせ前世の記憶を思い出した。侯爵家令嬢ルチア
8さいの時、急に現れた義母に義姉。
あれやこれやと気がついたら部屋は義姉に取られ屋根裏に。
侯爵家の娘なのに、使用人扱い。
お母様が生きていた時に大事にしてくれた。使用人たちは皆、義母が辞めさせた。
義母が連れてきた使用人達は私を義母と一緒になってこき使い私を馬鹿にする……
このままじゃ先の人生詰んでる。
私には
前世では25歳まで生きてた記憶がある!
義母や義姉!これからは思い通りにさせないんだから!
義母達にスカッとざまぁしたり
冒険の旅に出たり
主人公が妖精の愛し子だったり。
竜王の番だったり。
色々な無自覚チート能力発揮します。
竜王様との溺愛は後半第二章からになります。
※完結まで執筆済みです。(*´꒳`*)10万字程度。
※後半イチャイチャ多めです♡
※R18描写♡が入るシーンはタイトルに★マークをいれています。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
勇者がアレなので小悪党なおじさんが女に転生されられました
ぽとりひょん
ファンタジー
熱中症で死んだ俺は、勇者が召喚される16年前へ転生させられる。16年で宮廷魔法士になって、アレな勇者を導かなくてはならない。俺はチートスキルを隠して魔法士に成り上がって行く。勇者が召喚されたら、魔法士としてパーティーに入り彼を導き魔王を倒すのだ。
ピンクの髪のオバサン異世界に行く
拓海のり
ファンタジー
私こと小柳江麻は美容院で間違えて染まったピンクの髪のまま死んで異世界に行ってしまった。異世界ではオバサンは要らないようで放流される。だが何と神様のロンダリングにより美少女に変身してしまったのだ。
このお話は若返って美少女になったオバサンが沢山のイケメンに囲まれる逆ハーレム物語……、でもなくて、冒険したり、学校で悪役令嬢を相手にお約束のヒロインになったりな、お話です。多分ハッピーエンドになる筈。すみません、十万字位になりそうなので長編にしました。カテゴリ変更しました。
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる