1,096 / 1,397
79章 先祖返りが増えてませんか
1091. 食べちゃったのか
しおりを挟む
「やたら豪勢な肉を振る舞ったんだって?」
ルシファー同様、何か感じたらしいベルゼビュートも口を付けなかった神龍肉は噂になった。なんでも魔力量が増えたとか。その噂を聞きつけたルキフェルが、現地調査という名目で合流する。
「ロキちゃん、あのお肉はアシュタが持ってきたの」
「……罪人、食べちゃったのか」
ぶつぶつと呟くルキフェルの文句の中に「実験に使いたかった」だの「僕がやりたかった」と物騒な文言が混じっているのを、ルシファーは無視した。そっとリリスの耳に両手を当て、結界で音を防ぐのも忘れない。あまり黒い面はリリスに近づけたくなかった。
「ルキフェル、調査対象はそれだけか?」
現在は魔の森を調べていて忙しいはずだろう。そう告げると、思い出したようにルキフェルが明るい声を上げた。
「そうそう! また親のいない鳳凰の雛が出たって聞いたんだよ。どこ?」
「火口で、アラエルやピヨが見てるぞ」
複雑な事情を察した様子で、ルキフェルは苦笑いした。屋敷をピヨに燃やされかけた話は、すでに魔王城に伝わったようだ。
観光中の魔王様御一行グループは、現在大公3人と大公女3人、護衛付きという大所帯だった。本屋の前で立ち止まり、老婆の書いた物語の続編を手に取っている。当然お買い上げ決定で、本屋はほくほく顔だった。
「雛の方は僕が調べる。あとは任せて」
管理も含めて対応するというので、魔王城の城門で預かる予定なのを説明して別れた。少し残念そうなリリスだが、ルシファーが何かを囁くと嬉しそうに笑う。幸せそのものの光景に、魔族は安堵を覚えた。魔王と魔王妃が仲良く過ごす間、少なくとも大きな災いが訪れることはない――そう感じるのだ。
「ルシファー、あのお店が見たいわ」
視察の時と同じように、地元にお金を落とす目的で観光を再開する。温泉街はさまざまな種族が集まる観光地のため、土産物を扱う店が多かった。小さなアクセサリーから温泉絡みの食べ物や小物、大きな湯船に至るまで。豊富な土産品が揃っている。
「簪か?」
「違うみたい」
美しい棒状の飾り物を見つけ、リリスに手を引かれたルシファーが駆け寄った。魔石を使い、棒は金属でできている。簪や髪飾りのように見えるそれを、リリスは褒めながら手を伸ばした。
店主は穏やかな笑みを浮かべ、何も言わずに見ている。リリスが手を触れた途端……それは破裂した。結界が作動したため、リリスには傷ひとつない。しかしルシファーは慌てて抱き寄せ、己の腕で婚約者を庇った。
厳しい顔をしたベルゼビュートが間に入り、アスタロトも周囲への警戒を露わにする。爆発音に驚いた周囲の通行人が、じりじりと距離を開けた。イポスが背後を守るために剣に手をかけ、大公女達もリリスを守ろうと動いた。
「店主は無事か?」
リリスの無事を確かめたあと、ルシファーが次に気にしたのはそれだった。攻撃が連続して来ないなら、偶発的な事故の可能性が高い。心配を口にしたルシファーの意思を受け、アスタロトが店主に近づいた。
俯いて動かない店主の肩に手を触れたアスタロトが、店先にあった飾り物に襲撃される。事故ではなかったらしい。そう判断しながら、ルシファーは店主周辺に結界を張った。周りをすべて守るより、外へ出さないよう露店ごと店主を覆った方が安全だ。アスタロトも一緒に閉じ込めてしまったが、まあ……問題ないだろう。
「ルシファー様、あとでお話があります」
「……いやだ」
思わず本音で答えてしまい、アスタロトの怒りをさらに焚き付ける魔王。青ざめた彼の様子に、話の内容が聞こえなかった民はざわついた。
ルシファー同様、何か感じたらしいベルゼビュートも口を付けなかった神龍肉は噂になった。なんでも魔力量が増えたとか。その噂を聞きつけたルキフェルが、現地調査という名目で合流する。
「ロキちゃん、あのお肉はアシュタが持ってきたの」
「……罪人、食べちゃったのか」
ぶつぶつと呟くルキフェルの文句の中に「実験に使いたかった」だの「僕がやりたかった」と物騒な文言が混じっているのを、ルシファーは無視した。そっとリリスの耳に両手を当て、結界で音を防ぐのも忘れない。あまり黒い面はリリスに近づけたくなかった。
「ルキフェル、調査対象はそれだけか?」
現在は魔の森を調べていて忙しいはずだろう。そう告げると、思い出したようにルキフェルが明るい声を上げた。
「そうそう! また親のいない鳳凰の雛が出たって聞いたんだよ。どこ?」
「火口で、アラエルやピヨが見てるぞ」
複雑な事情を察した様子で、ルキフェルは苦笑いした。屋敷をピヨに燃やされかけた話は、すでに魔王城に伝わったようだ。
観光中の魔王様御一行グループは、現在大公3人と大公女3人、護衛付きという大所帯だった。本屋の前で立ち止まり、老婆の書いた物語の続編を手に取っている。当然お買い上げ決定で、本屋はほくほく顔だった。
「雛の方は僕が調べる。あとは任せて」
管理も含めて対応するというので、魔王城の城門で預かる予定なのを説明して別れた。少し残念そうなリリスだが、ルシファーが何かを囁くと嬉しそうに笑う。幸せそのものの光景に、魔族は安堵を覚えた。魔王と魔王妃が仲良く過ごす間、少なくとも大きな災いが訪れることはない――そう感じるのだ。
「ルシファー、あのお店が見たいわ」
視察の時と同じように、地元にお金を落とす目的で観光を再開する。温泉街はさまざまな種族が集まる観光地のため、土産物を扱う店が多かった。小さなアクセサリーから温泉絡みの食べ物や小物、大きな湯船に至るまで。豊富な土産品が揃っている。
「簪か?」
「違うみたい」
美しい棒状の飾り物を見つけ、リリスに手を引かれたルシファーが駆け寄った。魔石を使い、棒は金属でできている。簪や髪飾りのように見えるそれを、リリスは褒めながら手を伸ばした。
店主は穏やかな笑みを浮かべ、何も言わずに見ている。リリスが手を触れた途端……それは破裂した。結界が作動したため、リリスには傷ひとつない。しかしルシファーは慌てて抱き寄せ、己の腕で婚約者を庇った。
厳しい顔をしたベルゼビュートが間に入り、アスタロトも周囲への警戒を露わにする。爆発音に驚いた周囲の通行人が、じりじりと距離を開けた。イポスが背後を守るために剣に手をかけ、大公女達もリリスを守ろうと動いた。
「店主は無事か?」
リリスの無事を確かめたあと、ルシファーが次に気にしたのはそれだった。攻撃が連続して来ないなら、偶発的な事故の可能性が高い。心配を口にしたルシファーの意思を受け、アスタロトが店主に近づいた。
俯いて動かない店主の肩に手を触れたアスタロトが、店先にあった飾り物に襲撃される。事故ではなかったらしい。そう判断しながら、ルシファーは店主周辺に結界を張った。周りをすべて守るより、外へ出さないよう露店ごと店主を覆った方が安全だ。アスタロトも一緒に閉じ込めてしまったが、まあ……問題ないだろう。
「ルシファー様、あとでお話があります」
「……いやだ」
思わず本音で答えてしまい、アスタロトの怒りをさらに焚き付ける魔王。青ざめた彼の様子に、話の内容が聞こえなかった民はざわついた。
10
お気に入りに追加
4,953
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
「アゼリア・フォン・ホーヘーマイヤー、俺はお前との婚約を破棄する!」
「王太子殿下、我が家名はヘーファーマイアーですわ」
公爵令嬢アゼリアは、婚約者である王太子ヨーゼフに婚約破棄を突きつけられた。それも家名の間違い付きで。
理由は聖女エルザと結婚するためだという。人々の視線が集まる夜会でやらかした王太子に、彼女は満面の笑みで婚約関係を解消した。
王太子殿下――あなたが選んだ聖女様の意味をご存知なの? 美しいアゼリアを手放したことで、国は傾いていくが、王太子はいつ己の失態に気づけるのか。自由に羽ばたくアゼリアは、魔王の溺愛の中で幸せを掴む!
頭のゆるい王太子をぎゃふんと言わせる「ざまぁ」展開ありの、ハッピーエンド。
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2021/08/16 「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過
※2021/01/30 完結
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
この人が私の夫……政略結婚だけど、一目惚れです!
12歳にして、戦争回避のために隣国の王弟に嫁ぐことになった末っ子姫アンジェル。15歳も年上の夫に会うなり、一目惚れした。彼のすべてが大好きなのに、私は年の離れた妹のように甘やかされるばかり。溺愛もいいけれど、妻として愛してほしいわ。
両片思いの擦れ違い夫婦が、本物の愛に届くまで。ハッピーエンド確定です♪
ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/07/06……完結
2024/06/29……本編完結
2024/04/02……エブリスタ、トレンド恋愛 76位
2024/04/02……アルファポリス、女性向けHOT 77位
2024/04/01……連載開始
死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります
みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」
私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。
聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?
私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。
だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。
こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。
私は誰にも愛されていないのだから。
なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。
灰色の魔女の死という、極上の舞台をー
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる