1,085 / 1,397
78章 温泉旅行は驚きがいっぱい
1080. 事件は風呂で起きている!
しおりを挟む
火口で予想外の雛を拾った以外は、すこぶる順調だ。シトリーとデカラビア子爵親子を連れて戻った屋敷では、風呂に湯が満たされていた。勢いよく溢れるお湯が多すぎる気もする……。
「まさかとは思うが、温泉街の湯量が減ったりしてないだろうな」
温泉の湯はこの屋敷と温泉街の2本しか引かれていない。天然でどこかから湧き出ている可能性はあるが、こちらの湯量が多すぎるということは……必然的に温泉街の状況が不安になった。
「私が確認しましょう。デカラビア子爵、同行願えますか」
「は、はい」
大急ぎで敬礼してついていく子爵を見送り、リリスとルシファーは露天風呂に入ることにした。当然ながら大公女は同行せず、グシオンもお茶を飲んで待つことになる。
魔王妃であるリリスの肌を異性に見せるのは憚られ、大公女達は未婚女性なので魔王と風呂に入るのは問題がある。当たり前の配慮なのだが、互いに奇妙な疑惑を掛けられないために必死だった。
グシオンは覗き疑惑が出ると嫌なので、シトリーと離れない。もちろん、レライエと翡翠竜も同じ理由で同室だった。全員集まって、今日見つけた雛の親の話題で盛り上がる。
「親がいなくなっても騒動になるわよね」
「それはそうよ。希少種ですもの」
「他の種族が産んだ可能性はないでしょうか」
大公女2人の会話に、アムドゥスキアスが可能性を提示する。グシオンが唸りながら検討した。
「可能性はゼロじゃないが、鳳凰の子を産めるとなれば……炎に耐性が必要だ。卵生の種族じゃないか?」
「火龍はどうかしら」
シトリーの予想に、レライエも乗っかる。
「火属性ならドラゴンでもいいだろう」
「「確かに」」
翡翠竜とグシオンが同意する。鳳凰の卵なら属性が火に偏っていたはず。水属性の種族なら蒸発しかねない。無責任な噂話に盛り上がっていると、情報収集を終えたアラエルが舞い降りた。
「やはり鳳凰が産んだ可能性はありませんな」
「私がお姉ちゃんになる」
背から飛び降りたピヨは、自分がまだ雛に分類される自覚はないのだろう。嬉しそうに「姉になる」と繰り返した。同族で自分より若い個体がいないので、よほど嬉しかったようだ。微笑ましく見守る4人は、突然駆け込んできたリリスに慌てた。
ワンピース姿ではなく、ローブに近い姿なのだ。風呂に入りに行ったことから、湯船に入ろうとして何かあったと察するのは簡単だった。
「アシュタはどこ?!」
「ま、まだ戻ってません」
レライエが立ち上がり、膝に座っていた婚約者が転げ落ちた。慌てて拾う。こぶの出来た頭を短い手で押さえる涙目の翡翠竜は、レライエの胸に抱き上げられて頬を染める。……大したケガじゃなさそう。リリスを含めた全員がそう思った。
「何があったのですか」
一番早く我に返ったグシオンに、リリスは露天風呂を指さした。
「お風呂が溢れちゃった!」
「……溢れ?」
「え?」
掛け流しの温泉なので、溢れるのは当然だ。リリス以外の頭の中に、巨大なクエスチョンが浮かぶ。ピヨはアラエルに飛び付き、アスタロトを呼びに行くらしい。
「来て! 今、ルシファーが押さえてるわ」
押さえるほど溢れたらしい。大急ぎで向かった露天風呂前の脱衣所は、すでに足元が濡れていた。押さえるのが間に合わず、流れ込んだのだ。入浴後すぐに気づいて押さえたが、大量に流入した湯があちこちから地面を割って湧き出していた。
「危ないぞ、湯の温度が高いから近づくなよ」
注意しながら、横から湧き出した新しい穴を塞ぐ。ルシファーはあちこちに魔力による球体を作り出して、お湯を受けていた。量が多すぎるので、屋敷の外へ流しながら上手に調整する。
指ぱっちんで着替えたため、素肌でぽろんはなかった。だが結界が遅れたのか、全身ずぶ濡れだ。純白の魔王の肌に黒いローブが張り付き、ひどく色っぽかった。大公女達は赤い顔で目を逸らし、グシオンは悔しそうな顔をする。ぺたぺたと短い足で歩きながら、アムドゥスキアスが呟いた。
「……意外と平気そうだね」
「まさかとは思うが、温泉街の湯量が減ったりしてないだろうな」
温泉の湯はこの屋敷と温泉街の2本しか引かれていない。天然でどこかから湧き出ている可能性はあるが、こちらの湯量が多すぎるということは……必然的に温泉街の状況が不安になった。
「私が確認しましょう。デカラビア子爵、同行願えますか」
「は、はい」
大急ぎで敬礼してついていく子爵を見送り、リリスとルシファーは露天風呂に入ることにした。当然ながら大公女は同行せず、グシオンもお茶を飲んで待つことになる。
魔王妃であるリリスの肌を異性に見せるのは憚られ、大公女達は未婚女性なので魔王と風呂に入るのは問題がある。当たり前の配慮なのだが、互いに奇妙な疑惑を掛けられないために必死だった。
グシオンは覗き疑惑が出ると嫌なので、シトリーと離れない。もちろん、レライエと翡翠竜も同じ理由で同室だった。全員集まって、今日見つけた雛の親の話題で盛り上がる。
「親がいなくなっても騒動になるわよね」
「それはそうよ。希少種ですもの」
「他の種族が産んだ可能性はないでしょうか」
大公女2人の会話に、アムドゥスキアスが可能性を提示する。グシオンが唸りながら検討した。
「可能性はゼロじゃないが、鳳凰の子を産めるとなれば……炎に耐性が必要だ。卵生の種族じゃないか?」
「火龍はどうかしら」
シトリーの予想に、レライエも乗っかる。
「火属性ならドラゴンでもいいだろう」
「「確かに」」
翡翠竜とグシオンが同意する。鳳凰の卵なら属性が火に偏っていたはず。水属性の種族なら蒸発しかねない。無責任な噂話に盛り上がっていると、情報収集を終えたアラエルが舞い降りた。
「やはり鳳凰が産んだ可能性はありませんな」
「私がお姉ちゃんになる」
背から飛び降りたピヨは、自分がまだ雛に分類される自覚はないのだろう。嬉しそうに「姉になる」と繰り返した。同族で自分より若い個体がいないので、よほど嬉しかったようだ。微笑ましく見守る4人は、突然駆け込んできたリリスに慌てた。
ワンピース姿ではなく、ローブに近い姿なのだ。風呂に入りに行ったことから、湯船に入ろうとして何かあったと察するのは簡単だった。
「アシュタはどこ?!」
「ま、まだ戻ってません」
レライエが立ち上がり、膝に座っていた婚約者が転げ落ちた。慌てて拾う。こぶの出来た頭を短い手で押さえる涙目の翡翠竜は、レライエの胸に抱き上げられて頬を染める。……大したケガじゃなさそう。リリスを含めた全員がそう思った。
「何があったのですか」
一番早く我に返ったグシオンに、リリスは露天風呂を指さした。
「お風呂が溢れちゃった!」
「……溢れ?」
「え?」
掛け流しの温泉なので、溢れるのは当然だ。リリス以外の頭の中に、巨大なクエスチョンが浮かぶ。ピヨはアラエルに飛び付き、アスタロトを呼びに行くらしい。
「来て! 今、ルシファーが押さえてるわ」
押さえるほど溢れたらしい。大急ぎで向かった露天風呂前の脱衣所は、すでに足元が濡れていた。押さえるのが間に合わず、流れ込んだのだ。入浴後すぐに気づいて押さえたが、大量に流入した湯があちこちから地面を割って湧き出していた。
「危ないぞ、湯の温度が高いから近づくなよ」
注意しながら、横から湧き出した新しい穴を塞ぐ。ルシファーはあちこちに魔力による球体を作り出して、お湯を受けていた。量が多すぎるので、屋敷の外へ流しながら上手に調整する。
指ぱっちんで着替えたため、素肌でぽろんはなかった。だが結界が遅れたのか、全身ずぶ濡れだ。純白の魔王の肌に黒いローブが張り付き、ひどく色っぽかった。大公女達は赤い顔で目を逸らし、グシオンは悔しそうな顔をする。ぺたぺたと短い足で歩きながら、アムドゥスキアスが呟いた。
「……意外と平気そうだね」
10
お気に入りに追加
4,927
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
【完結】虐げられた令嬢の復讐劇 〜聖女より格上の妖精の愛し子で竜王様の番は私です~
大福金
ファンタジー
10歳の時、床掃除をしている時に水で足を滑らせ前世の記憶を思い出した。侯爵家令嬢ルチア
8さいの時、急に現れた義母に義姉。
あれやこれやと気がついたら部屋は義姉に取られ屋根裏に。
侯爵家の娘なのに、使用人扱い。
お母様が生きていた時に大事にしてくれた。使用人たちは皆、義母が辞めさせた。
義母が連れてきた使用人達は私を義母と一緒になってこき使い私を馬鹿にする……
このままじゃ先の人生詰んでる。
私には
前世では25歳まで生きてた記憶がある!
義母や義姉!これからは思い通りにさせないんだから!
義母達にスカッとざまぁしたり
冒険の旅に出たり
主人公が妖精の愛し子だったり。
竜王の番だったり。
色々な無自覚チート能力発揮します。
竜王様との溺愛は後半第二章からになります。
※完結まで執筆済みです。(*´꒳`*)10万字程度。
※後半イチャイチャ多めです♡
※R18描写♡が入るシーンはタイトルに★マークをいれています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる