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78章 温泉旅行は驚きがいっぱい
1077. 確認してきてくれ
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夫婦喧嘩の原因を含め、鳳凰を責めても仕方ない。起きてしまった事は戻らないのだ。
「というわけで、お前も諦めろ」
愚痴が過ぎるぞ。笑いながらルシファーは穴の位置を確認して、屋敷を振り返った。方角的には反対方向なのに、どうして屋敷に影響が出たのか。これは中に入って確認しなくてはダメだな。
仕方ないと動きかけて、リリスを見つめる。当たり前のように着いてくる気だが、どうしたものか。中の状態が分からないのに連れていくのは、危険な気がした。だが置いて離れるのも不安だ。
「アスタロト」
「はい」
「中に入って確認してきてくれ」
「はい?」
器用に同じ単語で語尾を上げて尋ねるアスタロトは、顔を顰めた。煮えたぎる火口の中は、大公ならば大した問題ではない。結界もあるし、いざとなれば足元の影に逃げ込む手も使えるが。
「私が、ですか?」
「他にいないだろう」
レライエは無理だし、翡翠竜が許さない。ピヨを連れたアラエルも……騒動を大きくして被害を拡大する可能性が高くて許可できなかった。
ルシファーが行かないなら、リリスも行かない。消去法で自分が指名されたのは理解した。納得するかは別問題だ。
「いつも飛び込んでいくではありませんか」
止めても聞かないくせに。都合の悪い時は押し付けるというのも、どうでしょうね。嫌味を魔王はスルーした。
「信頼できる部下に任せるのも、上司の器と言われたからな」
数十年前の嫌味を突き返され、アスタロトはもう何も言わずに飛び込んだ。背に広げた羽ごと結界に包み、鳳凰が刺さったとという穴へ姿を消す。
「ルシファー、どうしてアシュタは怒ってるの?」
尋ねるリリスの黒髪を撫でながら、ルシファーは表現を探す。別に怒っているわけではない。ただ少し機嫌を損ねただけだ。もしルシファーが飛び込んだとしても、それはそれで気に入らない。
「機嫌が悪いんだと思うぞ」
「そうなの」
ふとリリスの様子が気にかかった。何でもかんでも尋ねるが、基本的に他人の感情の機微に疎い。どうしてそう思ったのか、理解できずに尋ねることが多かった。魔の森の子供、分身に近い存在だ。本来はそういった小さな感情に揺れることはなく、他者の感情を気遣うこともない。その特性が影響しているのか。
「リリスは勉強熱心だな」
覚えて同じように振る舞おうとする気持ちはあるのだ。だから隠さずに尋ねる。その質問が相手を不愉快にすることがあったとしても、リリスはまた同じ質問をするだろう。見た目以上に幼児の婚約者は、まだまだ成長途中だった。
どうしてこんなに愛しいのか。出会った時から募る感情を持て余しながら、ルシファーはこっそり相談を持ちかけた。
「後で、ルーサルカに頼んでアスタロトの機嫌を取ろう。手伝ってくれるか?」
「ええ、いいわ。ルカも反対しないと思うの」
無邪気な相談に、翡翠竜がぼそっと呟いた。
「バレた後のことを考えた方がいいんですよ。いつもそれで失敗するくせに」
「いいんじゃないか? お前も私が言ったら頷くだろう」
「……そう、ですね」
もしレライエが同じ提案をしたら、アムドゥスキアスは頷いた。立場が違えば気付くことも、わかりきった失敗も、楽しんだ方が勝ちだ。
アスタロトの姿が消えた穴に、どろりと溶岩が流れ込んでいく。鳳凰が気づいて声を上げた直後、派手に爆発した。飛び散る溶岩やマグマを結界で内側に押し留める。思わずレライエの前に飛び出して羽を広げた翡翠竜は、感極まった婚約者に抱き締められて真っ赤に照れた。
ピヨがアラエルと一緒に中を覗き、不安そうに顔を見合わせる。同じように火口を覗いた魔王と姫は、中で平然としているアスタロトを感知して安堵の息をついた。
「というわけで、お前も諦めろ」
愚痴が過ぎるぞ。笑いながらルシファーは穴の位置を確認して、屋敷を振り返った。方角的には反対方向なのに、どうして屋敷に影響が出たのか。これは中に入って確認しなくてはダメだな。
仕方ないと動きかけて、リリスを見つめる。当たり前のように着いてくる気だが、どうしたものか。中の状態が分からないのに連れていくのは、危険な気がした。だが置いて離れるのも不安だ。
「アスタロト」
「はい」
「中に入って確認してきてくれ」
「はい?」
器用に同じ単語で語尾を上げて尋ねるアスタロトは、顔を顰めた。煮えたぎる火口の中は、大公ならば大した問題ではない。結界もあるし、いざとなれば足元の影に逃げ込む手も使えるが。
「私が、ですか?」
「他にいないだろう」
レライエは無理だし、翡翠竜が許さない。ピヨを連れたアラエルも……騒動を大きくして被害を拡大する可能性が高くて許可できなかった。
ルシファーが行かないなら、リリスも行かない。消去法で自分が指名されたのは理解した。納得するかは別問題だ。
「いつも飛び込んでいくではありませんか」
止めても聞かないくせに。都合の悪い時は押し付けるというのも、どうでしょうね。嫌味を魔王はスルーした。
「信頼できる部下に任せるのも、上司の器と言われたからな」
数十年前の嫌味を突き返され、アスタロトはもう何も言わずに飛び込んだ。背に広げた羽ごと結界に包み、鳳凰が刺さったとという穴へ姿を消す。
「ルシファー、どうしてアシュタは怒ってるの?」
尋ねるリリスの黒髪を撫でながら、ルシファーは表現を探す。別に怒っているわけではない。ただ少し機嫌を損ねただけだ。もしルシファーが飛び込んだとしても、それはそれで気に入らない。
「機嫌が悪いんだと思うぞ」
「そうなの」
ふとリリスの様子が気にかかった。何でもかんでも尋ねるが、基本的に他人の感情の機微に疎い。どうしてそう思ったのか、理解できずに尋ねることが多かった。魔の森の子供、分身に近い存在だ。本来はそういった小さな感情に揺れることはなく、他者の感情を気遣うこともない。その特性が影響しているのか。
「リリスは勉強熱心だな」
覚えて同じように振る舞おうとする気持ちはあるのだ。だから隠さずに尋ねる。その質問が相手を不愉快にすることがあったとしても、リリスはまた同じ質問をするだろう。見た目以上に幼児の婚約者は、まだまだ成長途中だった。
どうしてこんなに愛しいのか。出会った時から募る感情を持て余しながら、ルシファーはこっそり相談を持ちかけた。
「後で、ルーサルカに頼んでアスタロトの機嫌を取ろう。手伝ってくれるか?」
「ええ、いいわ。ルカも反対しないと思うの」
無邪気な相談に、翡翠竜がぼそっと呟いた。
「バレた後のことを考えた方がいいんですよ。いつもそれで失敗するくせに」
「いいんじゃないか? お前も私が言ったら頷くだろう」
「……そう、ですね」
もしレライエが同じ提案をしたら、アムドゥスキアスは頷いた。立場が違えば気付くことも、わかりきった失敗も、楽しんだ方が勝ちだ。
アスタロトの姿が消えた穴に、どろりと溶岩が流れ込んでいく。鳳凰が気づいて声を上げた直後、派手に爆発した。飛び散る溶岩やマグマを結界で内側に押し留める。思わずレライエの前に飛び出して羽を広げた翡翠竜は、感極まった婚約者に抱き締められて真っ赤に照れた。
ピヨがアラエルと一緒に中を覗き、不安そうに顔を見合わせる。同じように火口を覗いた魔王と姫は、中で平然としているアスタロトを感知して安堵の息をついた。
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