1,074 / 1,397
78章 温泉旅行は驚きがいっぱい
1069. 改革と一緒に持ち込まれた断捨離
しおりを挟む
様々な書類を一段落させ、余裕をもって休暇前日を迎えた。
「今日はこちらの書類だけです」
運んできたアスタロトは、1回で運べる程度の量を積み上げた。ざっと見て、半日ほどの量だ。
「本当にこれだけか?」
「はい。アンナ嬢やイザヤ達の進言を受けて、改革しておりますから」
書類の分業化に関する知識は、異世界の方が進んでいる。日本人が持ち込んだ手法をアレンジして専門職を作り、それぞれに得意な部分だけを担当する形に変更した。その改革が早くも功を奏しているらしい。今までは魔王か大公の署名を必要とした書類も、各部署の長の署名で通るように変更した。
一週間に一度、それぞれの部署から報告書が上がる。その報告日を部署ごとにずらした。週末の経理部門、週明けは行政関連、と提出日をずらしたことにより、書類が同じ日に集中しなくなる。簡単だが誰も手を付けなかった部分だ。
「こんなに変わるのか」
「ええ。驚きましたね」
アスタロトが最後に1枚の書類を足した。それは功績をあげた者を表彰する際に使う推薦状だ。ついでに昇進させて、日本人を役職に縛り付けるつもりのようだ。これが褒美になるかどうか分からないが、昇進は悪いことではない。城下町に住むと決めた以上、ある程度の給与がもらえる仕事は必要だった。
さらさらと推薦状の承諾欄に署名して押印する。
「こき使うなよ?」
「人聞きの悪いことを言わないでください」
差し出した書類を、苦笑いして受け取るアスタロトが一礼して下がる。複雑な内容が多い時は隣で読み上げと説明をするが、今回は簡単な決裁のみだった。すでに彼が目を通し問題ないとした書類ばかりだろう。
書類の処理を始めたルシファーの横で、リリスはクローゼットから取り出した衣類を積み重ねていた。
「これもいいと思うわ」
「そうですね、もう着られませんから」
アデーレが相槌を打ちながら、サイズの合わなくなった服を畳んで箱に詰める。ふと気になり、ルシファーは書類処理の手を止めた。あのオレンジの服は小さい頃のリリスがお茶を零したっけ。懐かしくなり、立ちあがって近づく。
「その服をどうするんだ?」
「小さいのは着られないから、寄付するの」
リリスの一言に慌てて駆け寄った。既に箱の中に大量に積まれた服を確認し、リリスの手元にある服もチェックする。震える手で服の入った箱を引き寄せようとして……アデーレに阻止された。手伝いで参加するレライエと翡翠竜が、困ったような顔でリリスと魔王を交互に見つめる。
「リ、リリス。これはオレの宝物だから、残してほしい」
「ダメよ。前もそう言って反対したじゃない。もう着られないんだから、誰かに着てもらうのよ」
「オレが一生大切に保管するから、渡してくれ」
むっとした顔で、リリスがルシファーに向き直った。左手を腰に当て、右手で魔王を指さす。行儀は悪いが、意見を通そうという気概は感じられた。
「ルシファー、あなたは服と私とどっちが大事なの?」
「リリスに決まってるだろ!」
きっぱり言い切った瞬間、笑顔のアデーレに箱を収納されてしまった。愕然とするルシファーに、リリスが言い聞かせる。
「今日一緒にお風呂入ったら、背中流してあげるから我慢して」
「う……うぅ゛」
背中を流してもらう特典と、失われた宝物を秤にかけて魔王が唸る。その情けない姿を前に、レライエは溜め息をついた。
「さっきのリリス様の、どっちが大事なの発言は……あれだろう? アベルに習ったセリフか」
本来は仕事と私、どっちが大事なの!? だったが、リリスなりにアレンジしたらしい。小さな両手で顔を覆う翡翠竜は「わかる、陛下の葛藤がわかるぅ」と同情を露わにし、ルシファーと頷きあった。
この特殊性癖は、女性達に理解されることはなく……その後もリリスの断捨離は続いた。
「今日はこちらの書類だけです」
運んできたアスタロトは、1回で運べる程度の量を積み上げた。ざっと見て、半日ほどの量だ。
「本当にこれだけか?」
「はい。アンナ嬢やイザヤ達の進言を受けて、改革しておりますから」
書類の分業化に関する知識は、異世界の方が進んでいる。日本人が持ち込んだ手法をアレンジして専門職を作り、それぞれに得意な部分だけを担当する形に変更した。その改革が早くも功を奏しているらしい。今までは魔王か大公の署名を必要とした書類も、各部署の長の署名で通るように変更した。
一週間に一度、それぞれの部署から報告書が上がる。その報告日を部署ごとにずらした。週末の経理部門、週明けは行政関連、と提出日をずらしたことにより、書類が同じ日に集中しなくなる。簡単だが誰も手を付けなかった部分だ。
「こんなに変わるのか」
「ええ。驚きましたね」
アスタロトが最後に1枚の書類を足した。それは功績をあげた者を表彰する際に使う推薦状だ。ついでに昇進させて、日本人を役職に縛り付けるつもりのようだ。これが褒美になるかどうか分からないが、昇進は悪いことではない。城下町に住むと決めた以上、ある程度の給与がもらえる仕事は必要だった。
さらさらと推薦状の承諾欄に署名して押印する。
「こき使うなよ?」
「人聞きの悪いことを言わないでください」
差し出した書類を、苦笑いして受け取るアスタロトが一礼して下がる。複雑な内容が多い時は隣で読み上げと説明をするが、今回は簡単な決裁のみだった。すでに彼が目を通し問題ないとした書類ばかりだろう。
書類の処理を始めたルシファーの横で、リリスはクローゼットから取り出した衣類を積み重ねていた。
「これもいいと思うわ」
「そうですね、もう着られませんから」
アデーレが相槌を打ちながら、サイズの合わなくなった服を畳んで箱に詰める。ふと気になり、ルシファーは書類処理の手を止めた。あのオレンジの服は小さい頃のリリスがお茶を零したっけ。懐かしくなり、立ちあがって近づく。
「その服をどうするんだ?」
「小さいのは着られないから、寄付するの」
リリスの一言に慌てて駆け寄った。既に箱の中に大量に積まれた服を確認し、リリスの手元にある服もチェックする。震える手で服の入った箱を引き寄せようとして……アデーレに阻止された。手伝いで参加するレライエと翡翠竜が、困ったような顔でリリスと魔王を交互に見つめる。
「リ、リリス。これはオレの宝物だから、残してほしい」
「ダメよ。前もそう言って反対したじゃない。もう着られないんだから、誰かに着てもらうのよ」
「オレが一生大切に保管するから、渡してくれ」
むっとした顔で、リリスがルシファーに向き直った。左手を腰に当て、右手で魔王を指さす。行儀は悪いが、意見を通そうという気概は感じられた。
「ルシファー、あなたは服と私とどっちが大事なの?」
「リリスに決まってるだろ!」
きっぱり言い切った瞬間、笑顔のアデーレに箱を収納されてしまった。愕然とするルシファーに、リリスが言い聞かせる。
「今日一緒にお風呂入ったら、背中流してあげるから我慢して」
「う……うぅ゛」
背中を流してもらう特典と、失われた宝物を秤にかけて魔王が唸る。その情けない姿を前に、レライエは溜め息をついた。
「さっきのリリス様の、どっちが大事なの発言は……あれだろう? アベルに習ったセリフか」
本来は仕事と私、どっちが大事なの!? だったが、リリスなりにアレンジしたらしい。小さな両手で顔を覆う翡翠竜は「わかる、陛下の葛藤がわかるぅ」と同情を露わにし、ルシファーと頷きあった。
この特殊性癖は、女性達に理解されることはなく……その後もリリスの断捨離は続いた。
10
お気に入りに追加
4,927
あなたにおすすめの小説
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
【完結】虐げられた令嬢の復讐劇 〜聖女より格上の妖精の愛し子で竜王様の番は私です~
大福金
ファンタジー
10歳の時、床掃除をしている時に水で足を滑らせ前世の記憶を思い出した。侯爵家令嬢ルチア
8さいの時、急に現れた義母に義姉。
あれやこれやと気がついたら部屋は義姉に取られ屋根裏に。
侯爵家の娘なのに、使用人扱い。
お母様が生きていた時に大事にしてくれた。使用人たちは皆、義母が辞めさせた。
義母が連れてきた使用人達は私を義母と一緒になってこき使い私を馬鹿にする……
このままじゃ先の人生詰んでる。
私には
前世では25歳まで生きてた記憶がある!
義母や義姉!これからは思い通りにさせないんだから!
義母達にスカッとざまぁしたり
冒険の旅に出たり
主人公が妖精の愛し子だったり。
竜王の番だったり。
色々な無自覚チート能力発揮します。
竜王様との溺愛は後半第二章からになります。
※完結まで執筆済みです。(*´꒳`*)10万字程度。
※後半イチャイチャ多めです♡
※R18描写♡が入るシーンはタイトルに★マークをいれています。
【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。
112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。
目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。
死にたくない。あんな最期になりたくない。
そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる