上 下
1,070 / 1,397
77章 解決すれば問題ない

1065. 君達、監禁されてたんだよ?

しおりを挟む
 きちんと食べてくれる。アンナの変化に、イザヤもアベルも安堵していた。痩せすぎた頬を動かし、ゆっくりと食べる。特に急ぎの仕事もないため、彼らも付き合って時間をかけて食事を取った。

「人に作ってもらうのって、なんかいいわね」

 穏やかな口調でアンナが笑う。今までは料理も楽しかったが、疲れていると休みたい時もある。食べなければならない食事を、自分で作るのは気が滅入るわ。そう呟いたアンナに、アベルが肩をすくめた。

「作らせて悪かったけど、俺が作ると炭になんだよな。なんでだろう」

「お前は料理から目を離すからだ」

 イザヤがすぐに欠点を指摘した。料理に集中力を発揮しないアベルは、調理中に別のものに気を取られることが多かった。鍋を火にかけたまま、外で鍛錬を始めた夜は、中の汁が蒸発するまで稽古に熱中していたのだ。

「確かに、お鍋の焦げを落とすのが大変だったわ」

 思い出して笑うアンナは、家にある鍋の焦げを落とすのに魔法陣を買ったことを口にした。

「本当に便利、買ってよかったわね」

「ああ、あの食器洗いに使ってる魔法陣か」

 イザヤが納得した様子で頷く。ある日突然購入してきた魔法陣は、鍋の焦げどころか食器洗いに日常使いされていた。

「そう。怪我の功名っていうのかしら。すごく使いやすいし、汎用性があるのよ」

 食器をつけたタライに魔法陣を適用すれば、中の食器はすべて綺麗になる。浄化の魔法陣を弄ったものだと聞いていた。そのため購入時に種族を確認される。吸血鬼など浄化に弱い種族もいるためだろう。

「そういや、洗濯物を乾かすのに使う魔法陣、なんで魔獣厳禁なんだ?」

「さあ? 今度聞いてみるわね」

 毛皮に悪影響でもあるのかもしれない。この世界に来てから忙しかった日本人は、ようやく異世界を堪能していた。魔法陣の話、異世界の住人に驚いたこと、魔王と出会った頃の思い出――それぞれに好きなだけ語った。

 午前中に片付く程度の仕事をして、午後はお茶を飲みながら話をする。贅沢な時間を2週間ほど過ごした頃、突然ルキフェルが飛び込んできた。

「おめでとう! 元の生活に戻れるよ」

「「え?」」

 驚きすぎて、アンナとイザヤは反応できない。間抜けな受け答えをした後、顔を見合わせた。

「帰っていいんだ。もう実験は終わり。アンナも顔色良くなったじゃん」

 水色の髪の青年は一方的に話し始めた。

「獣人の方が顕著に結果が出たんだけどね。アベルも含めて、全員改善してる。だから、過去の食べ物の生命力は安全という結論に至ったわけ。しばらく食べ物は配給制になるね」

 関係なく生存できる種族もいるが、ほとんどの種族は配給制で食材をもらうことになった。その説明を終えると、ルキフェルは笑顔で尋ねる。

「ご褒美、何が欲しい?」

「褒美、ですか?」

「私達、治療していただいたんですよね」

 日本人の感覚では、医師が治療してその対価を払う。だが今回は治療された自分達に褒美が出ると言われた。不思議そうにする2人に、ルキフェルは頬を緩める。

「治療っていうか。君達は実験のために監禁されたんだよ? その不自由を強いられた対価を払わなきゃいけないし、そもそも治療は無料だし、ね」

 魔族にとって治療は対価を支払うものではない。生きていくために治療を受ける権利は保障され、ベルゼビュートや精霊、妖精族に至るまで対価をもらっていないのだ。言われて考えてみたが、確かにお礼を言われている姿は見たが、金や物を受け取る姿に覚えはなかった。

「人によっては、対価に飴やお菓子を渡すみたいだよ」

 その程度の仕事だし、魔族にとって強いものが弱いものを助けるのは美徳とされる。治癒能力を持つものが、治癒を苦手とする種族を治すのは、当たり前だった。治癒が苦手な者達も、なんらかの形で他種族に貢献するのだから。

「私達も貢献できてるかしら」

「うーん。少なくとも僕は書類運んでもらって助かってるよ。アンナ嬢の書類処理も早くて正確だって、あのアスタロトが褒めてた」

 驚いた顔をする2人に、ルキフェルが淡々と予定を伝える。

「明日は休み、明後日から出勤ね。勤務形態は以前と同じで、食料配給は自宅へ手配しておくよ。ちゃんと食べてね、残したら……また監禁だから」

 悪戯好きな子供の顔で笑って、ルキフェルは部屋をでた。隣のアベルは彼らが伝えるだろうし、獣人も話が終わっている。あとは……魔獣だけかな?
しおりを挟む
感想 851

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 「アゼリア・フォン・ホーヘーマイヤー、俺はお前との婚約を破棄する!」 「王太子殿下、我が家名はヘーファーマイアーですわ」  公爵令嬢アゼリアは、婚約者である王太子ヨーゼフに婚約破棄を突きつけられた。それも家名の間違い付きで。  理由は聖女エルザと結婚するためだという。人々の視線が集まる夜会でやらかした王太子に、彼女は満面の笑みで婚約関係を解消した。  王太子殿下――あなたが選んだ聖女様の意味をご存知なの? 美しいアゼリアを手放したことで、国は傾いていくが、王太子はいつ己の失態に気づけるのか。自由に羽ばたくアゼリアは、魔王の溺愛の中で幸せを掴む!  頭のゆるい王太子をぎゃふんと言わせる「ざまぁ」展開ありの、ハッピーエンド。 ※2022/05/10  「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過 ※2021/08/16  「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過 ※2021/01/30  完結 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう

【完結】もう結構ですわ!

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
 どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。  愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/29……完結 2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位 2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位 2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位 2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位 2024/09/11……連載開始

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
この人が私の夫……政略結婚だけど、一目惚れです! 12歳にして、戦争回避のために隣国の王弟に嫁ぐことになった末っ子姫アンジェル。15歳も年上の夫に会うなり、一目惚れした。彼のすべてが大好きなのに、私は年の離れた妹のように甘やかされるばかり。溺愛もいいけれど、妻として愛してほしいわ。  両片思いの擦れ違い夫婦が、本物の愛に届くまで。ハッピーエンド確定です♪  ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/07/06……完結 2024/06/29……本編完結 2024/04/02……エブリスタ、トレンド恋愛 76位 2024/04/02……アルファポリス、女性向けHOT 77位 2024/04/01……連載開始

死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります

みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」 私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。  聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?  私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。  だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。  こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。  私は誰にも愛されていないのだから。 なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。  灰色の魔女の死という、極上の舞台をー

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

処理中です...