1,049 / 1,397
76章 一難去るとまた……
1044. 原因特定、解決は未定
しおりを挟む
見た目はほぼ同じだが、10年前のプリンは少し色が濃い。この点はあまり重要ではない。計測結果が示すのは、別の問題だった。
リリスは教わった通りに作り、誰もその作り方に口だししなかった。そのため同じ作り方、同じ材料で繰り返し作ったため、比較対象として最適だ。10年ほど前のプリンは、魔王が最上級の魔法と収納空間で保存した。
幼い頃のリリスは魔力の操作が苦手で、作った料理に魔力を込められなかった。新しい方のプリンを作った今は、魔力が封じられているため使えない。ほぼ条件は同じ。
なのに計測結果に大きな差が出た。まず最初に疑われる魔力量はほぼゼロ、どちらも同じ。味を比較する糖度測定や滑らかさも違いはなかった。一番の差は、卵や牛乳に残るはずの生命力――栄養素だ。
味に変化はないのに、栄養がごっそり抜けている。だから食べた動物や人は気づかなかった。獲物の肉を食べて、その魔力を吸収する魔獣にも影響は少ない。だが、食物連鎖の裾野を担う動物は違った。
魔力を持たない動物達は、食べても魔力を活用できない。排泄物に含んで排出し、それは森の栄養素となった。動物にとって重要なのは、栄養の部分だけ。
イザヤ達の知るビタミンやタンパク質は、生命力という項目に集約されていた。その生命力がほぼゼロに近い数値を示す。
「これは食べても食べても太れないよね」
参ったな。そう呟いてルキフェルは額を押さえた。見た目で区別がつかない栄養のない食事、魔族に影響が出るのは数年から数十年後だろう。魔獣はもっと早く、2~3年で影響が出始める。
魔力と栄養を含んだ草を食べた動物が栄養を消費し、残った魔力を魔獣が喰らう。その魔獣を魔族が食す食物連鎖だ。末端が崩壊したら、最後は頂点まで巻き込まれる。
「生命力を戻す方法……いや、なくなった原因を探る方が先?」
ぶつぶつ言いながら、ルキフェルは10年前のプリンの残りをスプーンで突いた。直後、大きな爆発が起きて周囲が煙に覆われる。
「けほっ、またやっちゃった」
ルキフェルはさらに袖の焦げた研究用の白衣を脱ぎ捨てた。周囲に甘い匂いが立ち込める。
「これ、バニラの匂いね」
安全な結界に守られたアンナは、兄イザヤの腕の中で瞬く。鼻をくすぐる香りは、バニラエッセンスに似ていた。爆発したのがプリンだからだろう。先程スライムかと思った散乱物も、どうやらプリンだったらしい。
研究に必要な量を複製するスプーンが爆発の原因だ。急激に複製されたプリンが飛び散った地面を、ピヨが掃除していく。嘴で突きストローのように吸い込む姿は、器用の一言に尽きた。執念で会得した技術のようだ。
ヤンが身を挺してピヨを守ったので、彼の灰色の毛皮にも大量のプリンが付着していた。それを嘴で追いかけるピヨが擽ったいのか、ヤンは逃げ回っている。
「無事ですか?」
駆けつけたベールが、ルキフェルの焦げた毛先を修復し、真剣に資料を読む青年を抱き上げる。ぶつぶつと解決策を呟くルキフェルはそのまま拉致され、イザヤは溜め息をついた。
「終わりのようだが……この結界はどうしたらいいのか」
外へ出られるようだが、放置しても問題ないとは限らない。ひとまず自分が先に出て安全を確認したイザヤは、妹アンナを結界から連れ出した。条件付けされていた魔法陣が消えたのを確かめ、ほっとした顔を見せる。
アンナは大量のプリンを踏みしめながら、近くの通路に敷かれた煉瓦道まで避難した。
「ご苦労様でした。今日の業務は終了にして帰って構いませんよ」
連続した爆発の確認にきたアスタロトが、被害状況を記録しながら指示を出す。イザヤとアンナは言葉に甘えることにして、帰宅の途についた。しかしその夜、すぐに呼び出されることになるとは夢にも思わず。
リリスは教わった通りに作り、誰もその作り方に口だししなかった。そのため同じ作り方、同じ材料で繰り返し作ったため、比較対象として最適だ。10年ほど前のプリンは、魔王が最上級の魔法と収納空間で保存した。
幼い頃のリリスは魔力の操作が苦手で、作った料理に魔力を込められなかった。新しい方のプリンを作った今は、魔力が封じられているため使えない。ほぼ条件は同じ。
なのに計測結果に大きな差が出た。まず最初に疑われる魔力量はほぼゼロ、どちらも同じ。味を比較する糖度測定や滑らかさも違いはなかった。一番の差は、卵や牛乳に残るはずの生命力――栄養素だ。
味に変化はないのに、栄養がごっそり抜けている。だから食べた動物や人は気づかなかった。獲物の肉を食べて、その魔力を吸収する魔獣にも影響は少ない。だが、食物連鎖の裾野を担う動物は違った。
魔力を持たない動物達は、食べても魔力を活用できない。排泄物に含んで排出し、それは森の栄養素となった。動物にとって重要なのは、栄養の部分だけ。
イザヤ達の知るビタミンやタンパク質は、生命力という項目に集約されていた。その生命力がほぼゼロに近い数値を示す。
「これは食べても食べても太れないよね」
参ったな。そう呟いてルキフェルは額を押さえた。見た目で区別がつかない栄養のない食事、魔族に影響が出るのは数年から数十年後だろう。魔獣はもっと早く、2~3年で影響が出始める。
魔力と栄養を含んだ草を食べた動物が栄養を消費し、残った魔力を魔獣が喰らう。その魔獣を魔族が食す食物連鎖だ。末端が崩壊したら、最後は頂点まで巻き込まれる。
「生命力を戻す方法……いや、なくなった原因を探る方が先?」
ぶつぶつ言いながら、ルキフェルは10年前のプリンの残りをスプーンで突いた。直後、大きな爆発が起きて周囲が煙に覆われる。
「けほっ、またやっちゃった」
ルキフェルはさらに袖の焦げた研究用の白衣を脱ぎ捨てた。周囲に甘い匂いが立ち込める。
「これ、バニラの匂いね」
安全な結界に守られたアンナは、兄イザヤの腕の中で瞬く。鼻をくすぐる香りは、バニラエッセンスに似ていた。爆発したのがプリンだからだろう。先程スライムかと思った散乱物も、どうやらプリンだったらしい。
研究に必要な量を複製するスプーンが爆発の原因だ。急激に複製されたプリンが飛び散った地面を、ピヨが掃除していく。嘴で突きストローのように吸い込む姿は、器用の一言に尽きた。執念で会得した技術のようだ。
ヤンが身を挺してピヨを守ったので、彼の灰色の毛皮にも大量のプリンが付着していた。それを嘴で追いかけるピヨが擽ったいのか、ヤンは逃げ回っている。
「無事ですか?」
駆けつけたベールが、ルキフェルの焦げた毛先を修復し、真剣に資料を読む青年を抱き上げる。ぶつぶつと解決策を呟くルキフェルはそのまま拉致され、イザヤは溜め息をついた。
「終わりのようだが……この結界はどうしたらいいのか」
外へ出られるようだが、放置しても問題ないとは限らない。ひとまず自分が先に出て安全を確認したイザヤは、妹アンナを結界から連れ出した。条件付けされていた魔法陣が消えたのを確かめ、ほっとした顔を見せる。
アンナは大量のプリンを踏みしめながら、近くの通路に敷かれた煉瓦道まで避難した。
「ご苦労様でした。今日の業務は終了にして帰って構いませんよ」
連続した爆発の確認にきたアスタロトが、被害状況を記録しながら指示を出す。イザヤとアンナは言葉に甘えることにして、帰宅の途についた。しかしその夜、すぐに呼び出されることになるとは夢にも思わず。
20
お気に入りに追加
4,969
あなたにおすすめの小説
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました
オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、
【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。
互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、
戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。
そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。
暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、
不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。
凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、内容が異なります。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!
――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。
「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」
すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。
最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2022/02/14 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2022/02/13 小説家になろう ハイファンタジー日間59位
※2022/02/12 完結
※2021/10/18 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2021/10/19 アルファポリス、HOT 4位
※2021/10/21 小説家になろう ハイファンタジー日間 17位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる