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74章 事後処理が一番大変
1028. 選出ミスじゃないかしら
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鞄から出したシートを敷いて、その上に割れない食器を並べる。木製の器ばかりなのは、外出用に用意したためだった。ガラス製品は重いし破損しやすい。森の中で割ると、片付けが大変な上に破片で野生動物がケガをする可能性もあった。
「だから器は木製なのよ」
マナーなのだと説明し、人数分をシートの上に並べた。魔王から譲り受けた剣を鞘に戻して収納へ入れたアベルが腰を落とし、向かいにゲーデが息子を膝に乗せて座る。
バスケットからは昨夜の猪豚の匂いがしていた。くんと鼻をひくつかせるアミーの仕草が可愛い。
「アミーも大きくなったみたい」
久しぶりだわと喜ぶルーサルカは、彼らの前にサンドウィッチに加工した猪豚を置いた。外でも食べやすいよう、パンに挟んだのは名案だ。ポットからお茶を淹れるのかと思えば、彼女は乾燥させた具をカップに入れて湯を注いだ。
「魔法でやらないのか?」
「うーん、私は土や植物への力が強い分だけ、火の魔法は苦手なの。使えるけれど、水の魔法より魔力を奪われるわ」
魔族はある程度生まれ持った属性に左右される。魔王はともかく、大公にもそれぞれ得意な属性があった。苦手な属性も使えるが、魔力の消費が多いのだ。
ルーサルカは魔力の無駄遣いを防ごうと、ポットにお湯を用意してきたのだろう。なるほどと頷いて、提案した。
「次は俺が一緒なら、湯を沸かすよ。水も火も普通に使えるから」
「助かるわ」
「……確かにこれは、アスタロト大公閣下が心配するわけだ」
唸ったゲーデの声は、2人に聞こえていなかった。膝の上の我が子がくーんと鼻を鳴らす。
「ごめんね、アミー。食べていいのよ」
「いただきます」
アベルの挨拶を聞いて、アミーはぎこちなく前足を合わせて小さく振った。挨拶の代わりらしい。ぬいぐるみのような子狼の仕草に、ルーサルカの頬が緩む。
「いただく」
ゲーデがサンドウィッチを半分に割ると、真ん中の肉があるところにアミーが噛み付いた。一番美味しい場所を食べると、パン耳を放置して父親の手にある肉入りのパンを狙う。魔王城預かりの間に、随分と舌が肥えてしまったらしい。
「全部食べろ、残すのは悪い子だ」
ゲーデが父親らしい言葉を吐く。その姿に、アベルは未来の自分を想像した。いつか、ルーサルカとの間に子供が生まれたら、きっと可愛くて叱れない気がする。
男の子だったら一緒に遊ぶ。魔法も覚えさせて、魔王チャレンジに出られるくらい強くしてやりたい。だけど女の子だったら、絶対に危ないことはさせないぞ。部屋から出して変な奴に攫われると困るし、いっそラプンチェルみたいに塔にしまおうか。
物騒なアベルの想像を知る由もないのに、ルーサルカが苦笑いした。
「ちょっと、顔がだらしないわよ」
「ごめん」
慌てて引き締めるが、ルーサルカにそっくりな女の子が生まれたらどうしよう……という想像は膨らむ一方だった。
「ところで、お義父様になんて頼まれたの。口止めされていないでしょ?」
策略を巡らすアスタロト大公相手なら、口止めしないはずがない。だが義父としてのアスタロトなら、聞かれたら答えてもいいと言うんじゃないかしら。ルーサルカの予想は当たっていた。だが方向性が少し違う。単に口止めを忘れたのだ。
「アベルがルーサルカ嬢を襲ったら、咬み殺せと。そうでなければ監視だけでいいそうだ。視線を向けて反応を見たのは、飽きたからだが」
その飽きたを体現する子狼アミーが、満腹になった腹を前足で摩りながら、ごろんと膝の上に寝転がる。毛繕いする満足そうな様子に、ルーサルカが笑いだした。
「確かにアミーは飽きちゃうわね。狼の狩りは集団だし、じっと待つのは性に合わないもの。お義父様ったら、監視役選びをミスったわ」
賛否を避けるゲーデだが、本音は似たようなものらしい。本当は別の指示も受けていたが、それは口にしない方がいいだろう。ゲーデの判断で、もうひとつの命令は封印された。
「だから器は木製なのよ」
マナーなのだと説明し、人数分をシートの上に並べた。魔王から譲り受けた剣を鞘に戻して収納へ入れたアベルが腰を落とし、向かいにゲーデが息子を膝に乗せて座る。
バスケットからは昨夜の猪豚の匂いがしていた。くんと鼻をひくつかせるアミーの仕草が可愛い。
「アミーも大きくなったみたい」
久しぶりだわと喜ぶルーサルカは、彼らの前にサンドウィッチに加工した猪豚を置いた。外でも食べやすいよう、パンに挟んだのは名案だ。ポットからお茶を淹れるのかと思えば、彼女は乾燥させた具をカップに入れて湯を注いだ。
「魔法でやらないのか?」
「うーん、私は土や植物への力が強い分だけ、火の魔法は苦手なの。使えるけれど、水の魔法より魔力を奪われるわ」
魔族はある程度生まれ持った属性に左右される。魔王はともかく、大公にもそれぞれ得意な属性があった。苦手な属性も使えるが、魔力の消費が多いのだ。
ルーサルカは魔力の無駄遣いを防ごうと、ポットにお湯を用意してきたのだろう。なるほどと頷いて、提案した。
「次は俺が一緒なら、湯を沸かすよ。水も火も普通に使えるから」
「助かるわ」
「……確かにこれは、アスタロト大公閣下が心配するわけだ」
唸ったゲーデの声は、2人に聞こえていなかった。膝の上の我が子がくーんと鼻を鳴らす。
「ごめんね、アミー。食べていいのよ」
「いただきます」
アベルの挨拶を聞いて、アミーはぎこちなく前足を合わせて小さく振った。挨拶の代わりらしい。ぬいぐるみのような子狼の仕草に、ルーサルカの頬が緩む。
「いただく」
ゲーデがサンドウィッチを半分に割ると、真ん中の肉があるところにアミーが噛み付いた。一番美味しい場所を食べると、パン耳を放置して父親の手にある肉入りのパンを狙う。魔王城預かりの間に、随分と舌が肥えてしまったらしい。
「全部食べろ、残すのは悪い子だ」
ゲーデが父親らしい言葉を吐く。その姿に、アベルは未来の自分を想像した。いつか、ルーサルカとの間に子供が生まれたら、きっと可愛くて叱れない気がする。
男の子だったら一緒に遊ぶ。魔法も覚えさせて、魔王チャレンジに出られるくらい強くしてやりたい。だけど女の子だったら、絶対に危ないことはさせないぞ。部屋から出して変な奴に攫われると困るし、いっそラプンチェルみたいに塔にしまおうか。
物騒なアベルの想像を知る由もないのに、ルーサルカが苦笑いした。
「ちょっと、顔がだらしないわよ」
「ごめん」
慌てて引き締めるが、ルーサルカにそっくりな女の子が生まれたらどうしよう……という想像は膨らむ一方だった。
「ところで、お義父様になんて頼まれたの。口止めされていないでしょ?」
策略を巡らすアスタロト大公相手なら、口止めしないはずがない。だが義父としてのアスタロトなら、聞かれたら答えてもいいと言うんじゃないかしら。ルーサルカの予想は当たっていた。だが方向性が少し違う。単に口止めを忘れたのだ。
「アベルがルーサルカ嬢を襲ったら、咬み殺せと。そうでなければ監視だけでいいそうだ。視線を向けて反応を見たのは、飽きたからだが」
その飽きたを体現する子狼アミーが、満腹になった腹を前足で摩りながら、ごろんと膝の上に寝転がる。毛繕いする満足そうな様子に、ルーサルカが笑いだした。
「確かにアミーは飽きちゃうわね。狼の狩りは集団だし、じっと待つのは性に合わないもの。お義父様ったら、監視役選びをミスったわ」
賛否を避けるゲーデだが、本音は似たようなものらしい。本当は別の指示も受けていたが、それは口にしない方がいいだろう。ゲーデの判断で、もうひとつの命令は封印された。
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