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74章 事後処理が一番大変
1026. 世界が輝くリア充魔法
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森の中は木漏れ日が降り注ぎ、心地よかった。ブーツに絡む下生えをよけながら、ルーサルカは軽やかな足取りで進む。多少の遅れをとるもののアベルも後を追った。
「そのベスト、カッコいいな。似合ってる」
「ありがとう、お義母様のを借りたの」
「ブラウスのフリルが可愛いけど、淡いピンク?」
「っ、そうよ……似合わない?」
「いや、すごく可愛い。茶色の髪だし、ピンクは相性いいぞ。白に近いピンクなんて、濃い肌の方が映えるし」
服を褒めるスキルは、アンナの指導の賜物だ。出会った瞬間に褒めるとチャラい感じがすると言われ、少し時間を置いてから褒めた。応用力を活用した高等テクニックだ。頬を染めるルーサルカも嬉しそうだった。
前世界では女性と出会った瞬間から服や装飾品、爪、化粧に至るまで何でも褒める男を見て「カッコ悪い」と思っていた。媚びていると感じたのが本音だ。しかし実際に恋人が出来てみると、彼女が身に着けるならすべてが素晴らしく思える。
これが恋人が出来るってことか――うっとりとしながら、美しい彼女を見つめる。昔は彼女のいる奴を見ると「爆ぜろ」と罵ってたが、悪いことをした。いや、向こうは俺なんか目に入ってなかっただろう。ならいいか。
自己完結したアベルは、繋いだ手の温もりに頬が緩むのを抑えきれなかった。ちらりと目をやれば、狐の大きな尻尾が左右に揺れる。普段はスカートの中であまり見えないのが残念だが、今日はパンツ姿なので、獣人の特徴である尻尾も堪能し放題だった。
触れたいと思うが、そこはやはり礼儀正しく。彼女の許可が出るまで我慢が正義だ。道になっていない森を歩くのは遭難の危険がある。前世界のそんな知識は、魔族にとってナンセンスだった。魔族にとって母なる森は庇護者であり、時に厳しい面を見せるが、穏やかな存在だ。
方向感覚が狂っても、ドライアドか精霊に呼び掛ければ助けてもらえる。大抵の場所はカバーしているらしく、遭難した時の対処方法は魔王城の基礎教育で習っていた。
「こっちよ」
このあたりの地理に詳しいのか、ルーサルカの足取りに迷いがない。素直に手を引かれて踏み込んだ先は、小川が流れていた。かなり小さく、助走をつけたら飛び越せる幅だ。落ちてケガをする可能性も低く、澄んだ水を覗き込んだ。
「ここは水場なの。だからいろんな生き物がくるわ」
ルーサルカの言いたいことが分かった。待ち伏せで狩りを楽しむらしい。ぐるりと見回し、適度に離れた場所に茂みを見つけた。
「あの茂みに隠れるのはどうだろう」
「いいわね」
罠を仕掛ける方法を提案してみたが、どんな獲物が来るかわからない場所に向いていない。小型動物用の罠なら、大型の魔獣が来たら踏み潰されるからだ。エルフから譲り受けた弓を引っ張り出すルーサルカは、足元に矢を並べ始めた。
茂みの中でごろんと転がり、隙間から川の様子を窺う。アベルは愛用の剣を諦め、借りてきた槍を傍に置いた。これなら矢を受けた獲物へのトドメを刺すのに最適だろう。
森の掟として、必要以上に獲物を苦しめないという項目がある。復讐などの場合は別だが、食料調達のために殺す獲物を苦しめないのは、アベルを含めた日本人も賛成だった。
自分達で鳥や猛獣の解体が出来なくて、近所の獣人に頼んだことがある。その際に学んだのは、奪った命は責任を持って美味しく頂く。残さない、無駄にしない、それくらいなら飢えて死ねと言われた。
森は直接危害を加えることは少ないが、人の行いをずっと見ている――特定の信仰がない魔族にとって、教訓や慣習は長い年月で培われたものだ。一緒に生きていくなら、従うのは当然だった。
がさっ、物音がして2人は息を詰める。目の前の川に、小さな角兎が現れた。だがルーサルカは弓に手をかけない。あれはまだ子供、見逃そうとしたところに……子兎を狙った猛獣が現れた。立てて設置した弓に矢をつがえ、ルーサルカは呼吸を整える。息を吐きながら、矢を持つ指を離した。
「そのベスト、カッコいいな。似合ってる」
「ありがとう、お義母様のを借りたの」
「ブラウスのフリルが可愛いけど、淡いピンク?」
「っ、そうよ……似合わない?」
「いや、すごく可愛い。茶色の髪だし、ピンクは相性いいぞ。白に近いピンクなんて、濃い肌の方が映えるし」
服を褒めるスキルは、アンナの指導の賜物だ。出会った瞬間に褒めるとチャラい感じがすると言われ、少し時間を置いてから褒めた。応用力を活用した高等テクニックだ。頬を染めるルーサルカも嬉しそうだった。
前世界では女性と出会った瞬間から服や装飾品、爪、化粧に至るまで何でも褒める男を見て「カッコ悪い」と思っていた。媚びていると感じたのが本音だ。しかし実際に恋人が出来てみると、彼女が身に着けるならすべてが素晴らしく思える。
これが恋人が出来るってことか――うっとりとしながら、美しい彼女を見つめる。昔は彼女のいる奴を見ると「爆ぜろ」と罵ってたが、悪いことをした。いや、向こうは俺なんか目に入ってなかっただろう。ならいいか。
自己完結したアベルは、繋いだ手の温もりに頬が緩むのを抑えきれなかった。ちらりと目をやれば、狐の大きな尻尾が左右に揺れる。普段はスカートの中であまり見えないのが残念だが、今日はパンツ姿なので、獣人の特徴である尻尾も堪能し放題だった。
触れたいと思うが、そこはやはり礼儀正しく。彼女の許可が出るまで我慢が正義だ。道になっていない森を歩くのは遭難の危険がある。前世界のそんな知識は、魔族にとってナンセンスだった。魔族にとって母なる森は庇護者であり、時に厳しい面を見せるが、穏やかな存在だ。
方向感覚が狂っても、ドライアドか精霊に呼び掛ければ助けてもらえる。大抵の場所はカバーしているらしく、遭難した時の対処方法は魔王城の基礎教育で習っていた。
「こっちよ」
このあたりの地理に詳しいのか、ルーサルカの足取りに迷いがない。素直に手を引かれて踏み込んだ先は、小川が流れていた。かなり小さく、助走をつけたら飛び越せる幅だ。落ちてケガをする可能性も低く、澄んだ水を覗き込んだ。
「ここは水場なの。だからいろんな生き物がくるわ」
ルーサルカの言いたいことが分かった。待ち伏せで狩りを楽しむらしい。ぐるりと見回し、適度に離れた場所に茂みを見つけた。
「あの茂みに隠れるのはどうだろう」
「いいわね」
罠を仕掛ける方法を提案してみたが、どんな獲物が来るかわからない場所に向いていない。小型動物用の罠なら、大型の魔獣が来たら踏み潰されるからだ。エルフから譲り受けた弓を引っ張り出すルーサルカは、足元に矢を並べ始めた。
茂みの中でごろんと転がり、隙間から川の様子を窺う。アベルは愛用の剣を諦め、借りてきた槍を傍に置いた。これなら矢を受けた獲物へのトドメを刺すのに最適だろう。
森の掟として、必要以上に獲物を苦しめないという項目がある。復讐などの場合は別だが、食料調達のために殺す獲物を苦しめないのは、アベルを含めた日本人も賛成だった。
自分達で鳥や猛獣の解体が出来なくて、近所の獣人に頼んだことがある。その際に学んだのは、奪った命は責任を持って美味しく頂く。残さない、無駄にしない、それくらいなら飢えて死ねと言われた。
森は直接危害を加えることは少ないが、人の行いをずっと見ている――特定の信仰がない魔族にとって、教訓や慣習は長い年月で培われたものだ。一緒に生きていくなら、従うのは当然だった。
がさっ、物音がして2人は息を詰める。目の前の川に、小さな角兎が現れた。だがルーサルカは弓に手をかけない。あれはまだ子供、見逃そうとしたところに……子兎を狙った猛獣が現れた。立てて設置した弓に矢をつがえ、ルーサルカは呼吸を整える。息を吐きながら、矢を持つ指を離した。
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