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71章 北の大地は危険な噂の宝庫
981. 我の毛皮はご勘弁を!
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「リリス様、卵を入れる袋を作りましたの」
アデーレが笑顔で差し出したのは、卵を入れるバッグのような布だった。斜め掛けするもので、両手が塞がらないよう卵が固定される仕組みだ。筒状体の長い紐を作り、その中央に卵を固定してリボンで縛る。簡単だが安全で、落とす心配がなかった。
「ありがとう! これならレラジェも安心ね」
侍女長との平和なやり取りをよそに、ルシファーはベルゼビュートの提出する書類を映像に変更できないか、相談中だった。ルキフェルは唸りながら録画用魔法陣の改善を約束し、装飾品に刻んでベルゼビュートに保有させる方向で話し合いが一段落する。
「昨日は半日休めたし、今日からまた視察だな」
「今度は我々も万全です!」
気合を入れて答えたのはレライエだ。翡翠竜に小型種族用の防寒服を着せ、バッグもグレードアップさせた。内側に羊系獣人から貰った羊毛を敷き詰めている。
「リリスの袋はレライエのバッグに似ているな」
片方の肩から、腰に掛けて後ろで固定する。仕組みもよく似ていた。中に生き物が入る点でも類似点が多い。嬉しそうに「お揃い」と手を叩くリリスとレライエをよそに、シトリーも完璧な防寒を決め込んでいた。ほぼ着ぐるみに近い顔以外を覆う形状の服に入っている。着ると表現するより、被ったと表現した方が近いか。
「これは温かそう」
「お兄様に用意していただきました」
満面の笑みで得意げなシトリーは、上に嘴のついた着ぐるみ姿で胸を反らす。
「確かに……可愛いな」
リリスに着せた姿を想像するルシファーの言葉に、リリスがピクリと反応した。
「浮気?!」
「違う。リリスもこんな着ぐる……いや、衣装を着たら可愛いだろうと想像しただけだ」
本人に着ぐるみと言い放つのは失礼だろう。服と表現するのも違う気がして、衣装という単語を選んだ。ぱちくりと大きな目を瞬かせ、リリスはシトリーの服を眺める。それから要望を口にした。
「私はヤンの着ぐるみがいい」
「わ、我の毛皮は……いくら姫でも! せめて死ぬまで……」
半泣きで抵抗するヤンを捕まえ、頭を撫でてやる。
「安心しろ。ヤンの仲間に見える姿の着ぐるみで、ヤンから毛皮を奪ったりしない」
「我が君ぃ、本当ですな? 姫のあの表情を見ても、我を裏切ったりはなさいませんな?」
やけにしつこく念を押すヤンの示す先で、リリスは目を輝かせていた。危険な兆候だ。ひとまずコートを羽織らせて出かけてしまおう。何かに気を逸らせば……そんな思惑を知らず、リリスは素直にコートに袖を通した。
ここで問題が発生する。コートの前が閉まらないのだ。巨大卵がはみ出してしまうため、悩んで自分のコートを羽織らせた。裾を引きずるのも危険か。細身のルシファーの服では、さっきより少しマシ程度にしか卵が隠れない。
「こちらのタイプなら大丈夫ではありませんか?」
見かねたアデーレが差し出したのは、ポンチョタイプの上着だった。リリスの膝まで覆うタイプで袖を通す部分がなく、ひらひらと裾が大きく波打つデザインだ。お飾りが多いドレスや、裾広がりの時に使用する上着だった。
「これにするわ」
くるりと回ると、裾が大きく広がって優雅な印象を与える。問題ないと判断したルシファーが頷いた。
「それにしよう。助かった、アデーレ」
もしアベルがこの場にいたら「テルテル坊主」と表現して、理由を聞かれたことだろう。色が紺色なのが救いだが、上に三角のフードがついたポンチョで卵を覆ったリリスはご機嫌だ。動きを妨げない裾の動きが気に入ったらしい。何度もくるくる回って確かめていた。
「では行こうか」
中庭に移動してから転移を発動させ、北の大陸に降り立つ。留守にしていたアスタロトとベールは彼らの装いを知らず、新しい録画機で頭がいっぱいのルキフェルは気づかなかった。
――リリスの姿が、妊婦にしか見えない事実を。
アデーレが笑顔で差し出したのは、卵を入れるバッグのような布だった。斜め掛けするもので、両手が塞がらないよう卵が固定される仕組みだ。筒状体の長い紐を作り、その中央に卵を固定してリボンで縛る。簡単だが安全で、落とす心配がなかった。
「ありがとう! これならレラジェも安心ね」
侍女長との平和なやり取りをよそに、ルシファーはベルゼビュートの提出する書類を映像に変更できないか、相談中だった。ルキフェルは唸りながら録画用魔法陣の改善を約束し、装飾品に刻んでベルゼビュートに保有させる方向で話し合いが一段落する。
「昨日は半日休めたし、今日からまた視察だな」
「今度は我々も万全です!」
気合を入れて答えたのはレライエだ。翡翠竜に小型種族用の防寒服を着せ、バッグもグレードアップさせた。内側に羊系獣人から貰った羊毛を敷き詰めている。
「リリスの袋はレライエのバッグに似ているな」
片方の肩から、腰に掛けて後ろで固定する。仕組みもよく似ていた。中に生き物が入る点でも類似点が多い。嬉しそうに「お揃い」と手を叩くリリスとレライエをよそに、シトリーも完璧な防寒を決め込んでいた。ほぼ着ぐるみに近い顔以外を覆う形状の服に入っている。着ると表現するより、被ったと表現した方が近いか。
「これは温かそう」
「お兄様に用意していただきました」
満面の笑みで得意げなシトリーは、上に嘴のついた着ぐるみ姿で胸を反らす。
「確かに……可愛いな」
リリスに着せた姿を想像するルシファーの言葉に、リリスがピクリと反応した。
「浮気?!」
「違う。リリスもこんな着ぐる……いや、衣装を着たら可愛いだろうと想像しただけだ」
本人に着ぐるみと言い放つのは失礼だろう。服と表現するのも違う気がして、衣装という単語を選んだ。ぱちくりと大きな目を瞬かせ、リリスはシトリーの服を眺める。それから要望を口にした。
「私はヤンの着ぐるみがいい」
「わ、我の毛皮は……いくら姫でも! せめて死ぬまで……」
半泣きで抵抗するヤンを捕まえ、頭を撫でてやる。
「安心しろ。ヤンの仲間に見える姿の着ぐるみで、ヤンから毛皮を奪ったりしない」
「我が君ぃ、本当ですな? 姫のあの表情を見ても、我を裏切ったりはなさいませんな?」
やけにしつこく念を押すヤンの示す先で、リリスは目を輝かせていた。危険な兆候だ。ひとまずコートを羽織らせて出かけてしまおう。何かに気を逸らせば……そんな思惑を知らず、リリスは素直にコートに袖を通した。
ここで問題が発生する。コートの前が閉まらないのだ。巨大卵がはみ出してしまうため、悩んで自分のコートを羽織らせた。裾を引きずるのも危険か。細身のルシファーの服では、さっきより少しマシ程度にしか卵が隠れない。
「こちらのタイプなら大丈夫ではありませんか?」
見かねたアデーレが差し出したのは、ポンチョタイプの上着だった。リリスの膝まで覆うタイプで袖を通す部分がなく、ひらひらと裾が大きく波打つデザインだ。お飾りが多いドレスや、裾広がりの時に使用する上着だった。
「これにするわ」
くるりと回ると、裾が大きく広がって優雅な印象を与える。問題ないと判断したルシファーが頷いた。
「それにしよう。助かった、アデーレ」
もしアベルがこの場にいたら「テルテル坊主」と表現して、理由を聞かれたことだろう。色が紺色なのが救いだが、上に三角のフードがついたポンチョで卵を覆ったリリスはご機嫌だ。動きを妨げない裾の動きが気に入ったらしい。何度もくるくる回って確かめていた。
「では行こうか」
中庭に移動してから転移を発動させ、北の大陸に降り立つ。留守にしていたアスタロトとベールは彼らの装いを知らず、新しい録画機で頭がいっぱいのルキフェルは気づかなかった。
――リリスの姿が、妊婦にしか見えない事実を。
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