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71章 北の大地は危険な噂の宝庫
975. 手伝いたい子蛇の思い出作り
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ルシファーの提案は子供達が一番喜んだ。はしゃいで木によじ登り、母や父に引き摺り下ろされる。
周囲は蛇ばかりの状況だが、言葉が通じると嫌悪感はないようだ。アンナがいたら悲鳴を上げたかもしれないが、この場にいるのは魔族ばかり。他者と自分の姿が違うのは当たり前で、気にしたり差別する意識がなかった。
「チョコレートの材料、足りますか?」
「平気じゃないか? ほら」
収納から取り出したチョコレート板を、次々とファウンテンに投入する。レライエがいないので、代わりにイポスがチョコレートを溶かし始めた。この辺は分業だ。取り出したチョコレートが尽きたため、イフリートが管理する城の貯蔵庫から拝借する。持ち出した旨を手早く書類の雛型に書き込む。貯蔵庫のチョコレートが積まれていた場所に置いた。
これを忘れると、アスタロトの長い説教が始まってしまう。管理する物や食料が消えた担当者が青ざめたことを考えれば、当然の処置だった。ルシファーも数百回同じことを繰り返し、ようやく書類作成が身についた口なので、あまり文句も言えない。
「リリス、ルーサルカ、ルーシア。これを手で砕いてくれ」
期待の眼差しを向ける虹蛇は、よく見ると小さな手が付いている。頭の後ろだが蜥蜴の手足が出る位置より少し後ろだ。木登りや移動に使う便利な手だが、食べ物を掴む器用さはなかった。体の大きさに見合わぬ小ささなので、近くで観察しないとわからない。
「意外と硬いですね」
「加工前だからじゃないかしら」
ルーサルカが顔をしかめて力を込める。ルーシアは考えたあと、魔法陣を作り始めた。効率を考えるなら、最初に魔法陣を描く時間が掛かっても、手が痛くないし簡単だからロスを取り返せると考えたのだ。両者の性格がよく出ている。
板のチョコレートは厚さがあり、砕くのに力が必要だった。見ていた虹蛇の子供が距離を詰める。親が叱る前に、気づいたリリスが手を伸ばした。どの種族であれ、触れるときにはマナーがある。慌てたルシファーが呼びかけた。
「リリス!」
「ごめんなさい。抱っこしてもいいかしら」
子供の前で手をとめ、蛇に話しかける。視線が合うように屈んで覗き込めば、キラキラした瞳が瞬いた。こくりと頷くが話さないのは、人見知りか。そっと手を差し出して、子供が自分から巻きつくのを待った。肩まで登ってきた子蛇を優しく撫でてから、胸の前で抱っこし直した。器用に尻尾で巻きついた蛇の小さな手に、すでにルーサルカが砕いたカケラを持たせる。
「おててがあるなら、一緒にやりましょう。渡したチョコレートを、ここに入れて」
じっと見た後、頷くように身をくねらせた子蛇は、リリスの腕に絡めた尻尾側の胴でバランスを取る。蛇の体はほとんどが筋肉だ。ぴんと棒のように伸びた子蛇は、握った小さなカケラをぱっと離した。吸い込まれるように落ちたカケラは、イポスが放つ熱で溶けていく。
「できた!」
興奮した様子で戻ってきた子蛇を撫でる姿に、周囲の子供が騒ぎ始めた。自分もやりたいと親に強請る。だがある程度大きな子蛇だとリリスが支えきれない。
「リリス発案のお手伝いか。それも楽しそうだな」
魔王城のイベントは、各種族が得意分野を生かして協力し合うのが通例だ。この子達は稀少種族ということもあり、あまり参加が出来ていない。ならば協力して楽しむのも、よい思い出になるはずだ。
ルシファーの声に、そわそわし始めた子供が集まってくる。微笑ましそうに眺める母蛇達の真ん中で、ルーサルカは砕く作業の手を止めた。
「枝をもらいます」
ぐるりと見回した後、近くの枝を1本折る。それを地面に突き立てると手をかざし、成長させる。土との親和性が高い魔力を持つルーサルカらしい解決方法だ。急激に大きくなった木はしっかりと四方に根を張った。跳び上がってぶら下がり、枝の強度を確認したルーサルカが手招いた。
「この枝に巻きついて、手伝ってくれない?」
周囲は蛇ばかりの状況だが、言葉が通じると嫌悪感はないようだ。アンナがいたら悲鳴を上げたかもしれないが、この場にいるのは魔族ばかり。他者と自分の姿が違うのは当たり前で、気にしたり差別する意識がなかった。
「チョコレートの材料、足りますか?」
「平気じゃないか? ほら」
収納から取り出したチョコレート板を、次々とファウンテンに投入する。レライエがいないので、代わりにイポスがチョコレートを溶かし始めた。この辺は分業だ。取り出したチョコレートが尽きたため、イフリートが管理する城の貯蔵庫から拝借する。持ち出した旨を手早く書類の雛型に書き込む。貯蔵庫のチョコレートが積まれていた場所に置いた。
これを忘れると、アスタロトの長い説教が始まってしまう。管理する物や食料が消えた担当者が青ざめたことを考えれば、当然の処置だった。ルシファーも数百回同じことを繰り返し、ようやく書類作成が身についた口なので、あまり文句も言えない。
「リリス、ルーサルカ、ルーシア。これを手で砕いてくれ」
期待の眼差しを向ける虹蛇は、よく見ると小さな手が付いている。頭の後ろだが蜥蜴の手足が出る位置より少し後ろだ。木登りや移動に使う便利な手だが、食べ物を掴む器用さはなかった。体の大きさに見合わぬ小ささなので、近くで観察しないとわからない。
「意外と硬いですね」
「加工前だからじゃないかしら」
ルーサルカが顔をしかめて力を込める。ルーシアは考えたあと、魔法陣を作り始めた。効率を考えるなら、最初に魔法陣を描く時間が掛かっても、手が痛くないし簡単だからロスを取り返せると考えたのだ。両者の性格がよく出ている。
板のチョコレートは厚さがあり、砕くのに力が必要だった。見ていた虹蛇の子供が距離を詰める。親が叱る前に、気づいたリリスが手を伸ばした。どの種族であれ、触れるときにはマナーがある。慌てたルシファーが呼びかけた。
「リリス!」
「ごめんなさい。抱っこしてもいいかしら」
子供の前で手をとめ、蛇に話しかける。視線が合うように屈んで覗き込めば、キラキラした瞳が瞬いた。こくりと頷くが話さないのは、人見知りか。そっと手を差し出して、子供が自分から巻きつくのを待った。肩まで登ってきた子蛇を優しく撫でてから、胸の前で抱っこし直した。器用に尻尾で巻きついた蛇の小さな手に、すでにルーサルカが砕いたカケラを持たせる。
「おててがあるなら、一緒にやりましょう。渡したチョコレートを、ここに入れて」
じっと見た後、頷くように身をくねらせた子蛇は、リリスの腕に絡めた尻尾側の胴でバランスを取る。蛇の体はほとんどが筋肉だ。ぴんと棒のように伸びた子蛇は、握った小さなカケラをぱっと離した。吸い込まれるように落ちたカケラは、イポスが放つ熱で溶けていく。
「できた!」
興奮した様子で戻ってきた子蛇を撫でる姿に、周囲の子供が騒ぎ始めた。自分もやりたいと親に強請る。だがある程度大きな子蛇だとリリスが支えきれない。
「リリス発案のお手伝いか。それも楽しそうだな」
魔王城のイベントは、各種族が得意分野を生かして協力し合うのが通例だ。この子達は稀少種族ということもあり、あまり参加が出来ていない。ならば協力して楽しむのも、よい思い出になるはずだ。
ルシファーの声に、そわそわし始めた子供が集まってくる。微笑ましそうに眺める母蛇達の真ん中で、ルーサルカは砕く作業の手を止めた。
「枝をもらいます」
ぐるりと見回した後、近くの枝を1本折る。それを地面に突き立てると手をかざし、成長させる。土との親和性が高い魔力を持つルーサルカらしい解決方法だ。急激に大きくなった木はしっかりと四方に根を張った。跳び上がってぶら下がり、枝の強度を確認したルーサルカが手招いた。
「この枝に巻きついて、手伝ってくれない?」
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