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71章 北の大地は危険な噂の宝庫
973. ユルルングルの巣穴は罠だらけ
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鳳凰が洞窟を作る際、見つけた洞窟を広げることが多い。だがキツツキのように嘴で掘る習性はなく、洞穴の中を高温の炎で溶かす方法を用いる。おかげで溶けたガラス質が、きらきらと眩しいので虹蛇の住処はわかりやすいが……同時に侵入者を排除する仕掛けにも最適だった。
万が一にも密猟目的の人族や魔族が侵入する可能性を考慮し、幻獣霊王ベールが仕掛けた罠がある。過去に引っかかったことがあるルシファーは、4人と1匹に言い含めた。
「壁には絶対に触るな。転んでも床に罠はないが、壁は至る所に罠がある」
飛んでくる矢と上から突き立てられる剣の仕掛けに関しては、結界で防ぐことが可能だ。そのためルーサルカ、ルーシア、イポスに頑丈な結界を張った。女性なので特に手厚く保護する必要がある。リリスは普段から何重にも結界に包んでいるため、問題はないだろう。火口に転移されても無事なはずだ。
自分の身は当然結界で守っている。ヤンには結界を構築する魔法陣が描かれた首輪をつけた。一時的に貸与するだけで、フェンリルを飼い犬扱いしたわけではない。そう説明したが、ヤンは聞いていなかった。
「我が君が、我に首輪を!」
怒っているのかと思えば、感動している。潤んだ目で感謝を伝えられ、困惑してしまった。普段は犬扱いすると怒るのに、どうして首輪は感激するのか。首をかしげるルシファーへ、ルーサルカが意外な言葉を告げた。
「陛下に何かを頂いたことに感激してるのだと思います。私もリリス様が首輪を下さったら、首飾り同様大切にしますから」
「なるほど」
納得したルシファーの横で、リリスは兎毛ポーチを開けて何か探している。取り出したのは、飴の瓶だった。子供の頃から大切に割らないよう持ち歩く小瓶は、振ると城の自室にあるキャンディポットから補充される。
中の赤い飴をイポスへ、黄色をルーシア、緑をルーサルカに渡した。ここで残った白濁色の飴をヤンの口に入れる。大型犬サイズまで縮んだヤンは、からからと飴の音をさせた。以前は口に入ると噛んでしまったが、最近は舌の上で転がすことを覚えた。空になった瓶をリリスは頭上に持ち上げる。
「えいっ」
勢いよく瓶を振ったリリスを微笑ましく見ていたルシファーだが、大きく振った弾みで蓋が取れた。きちんと閉まっていなかったのだろう。手を伸ばしたイポスも間に合わず、壁にぶつかる。次の瞬間、大量の矢が結界に当たる音がカンカンと響いた。
突き刺すように振ってきた剣を、咄嗟にイポスが防ぐ。抜いた剣で叩き折るが、何もしなくても結界により弾かれただろう。
「……あら」
「リリス、さっきも言ったが……危険だから壁に触るのは禁止。物をぶつけるのも禁止だ」
「よくわかったわ」
目の前を飛んで行った矢が、驚いて頭を庇ったルーシアの腕に当たって折れる姿を見て、素直に反省したようだ。身体に這わせた結界を、ドーム状にした方が恐怖は薄れる。遠くで武器や罠が発動するためだ。しかし狭い洞窟内で、互いの結界がぶつかれば、意図せずに次の罠を誘発してしまう。
身体に這わせた薄い膜状態の結界が、一番被害が少ない。過去の経験からルシファーが選んだ方法だった。ヤンの結界も同様で、これはルシファーがいなくても、彼自身の魔力で発動している。魔法陣や魔法が使えない種族でも、首輪をした者の魔力で発動する仕組みだった。ちなみに考案者はルシファー自身で、初代セーレを連れ歩くために開発した。
「壁に触るな」
もう一度よく言い聞かせ、滑る床を歩き始めた。一歩進むごとに冷や汗をかく状況だ。
「ねえ、ユルルングルは罠に触らないの?」
リリスのもっともな疑問に、ルーサルカ達も答えを求めてルシファーを見上げる。転ばないようにリリスを支えながら歩くルシファーは、少しだけ迷う。答えを自分達で探させる方がいいか。
「蛇はどうやって移動するか覚えてるか?」
以前に森でユルルングルと出会っているリリスは、ぽんと手を打った。
「わかった、地面をするすると滑るみたいに移動してたわ」
「そうだ。だから壁や天井を這う必要はないし、この滑る状況でも上手に移動できる」
水上でも表面を滑るように泳ぐ蛇の姿を説明しながら、少しずつ傾く斜面を進んだ。
ぱっと明るい場所が現れる。
「よし! 着いたぞ」
虹蛇が棲む洞窟の先は、少女達の予想を裏切る美しい場所だった。
万が一にも密猟目的の人族や魔族が侵入する可能性を考慮し、幻獣霊王ベールが仕掛けた罠がある。過去に引っかかったことがあるルシファーは、4人と1匹に言い含めた。
「壁には絶対に触るな。転んでも床に罠はないが、壁は至る所に罠がある」
飛んでくる矢と上から突き立てられる剣の仕掛けに関しては、結界で防ぐことが可能だ。そのためルーサルカ、ルーシア、イポスに頑丈な結界を張った。女性なので特に手厚く保護する必要がある。リリスは普段から何重にも結界に包んでいるため、問題はないだろう。火口に転移されても無事なはずだ。
自分の身は当然結界で守っている。ヤンには結界を構築する魔法陣が描かれた首輪をつけた。一時的に貸与するだけで、フェンリルを飼い犬扱いしたわけではない。そう説明したが、ヤンは聞いていなかった。
「我が君が、我に首輪を!」
怒っているのかと思えば、感動している。潤んだ目で感謝を伝えられ、困惑してしまった。普段は犬扱いすると怒るのに、どうして首輪は感激するのか。首をかしげるルシファーへ、ルーサルカが意外な言葉を告げた。
「陛下に何かを頂いたことに感激してるのだと思います。私もリリス様が首輪を下さったら、首飾り同様大切にしますから」
「なるほど」
納得したルシファーの横で、リリスは兎毛ポーチを開けて何か探している。取り出したのは、飴の瓶だった。子供の頃から大切に割らないよう持ち歩く小瓶は、振ると城の自室にあるキャンディポットから補充される。
中の赤い飴をイポスへ、黄色をルーシア、緑をルーサルカに渡した。ここで残った白濁色の飴をヤンの口に入れる。大型犬サイズまで縮んだヤンは、からからと飴の音をさせた。以前は口に入ると噛んでしまったが、最近は舌の上で転がすことを覚えた。空になった瓶をリリスは頭上に持ち上げる。
「えいっ」
勢いよく瓶を振ったリリスを微笑ましく見ていたルシファーだが、大きく振った弾みで蓋が取れた。きちんと閉まっていなかったのだろう。手を伸ばしたイポスも間に合わず、壁にぶつかる。次の瞬間、大量の矢が結界に当たる音がカンカンと響いた。
突き刺すように振ってきた剣を、咄嗟にイポスが防ぐ。抜いた剣で叩き折るが、何もしなくても結界により弾かれただろう。
「……あら」
「リリス、さっきも言ったが……危険だから壁に触るのは禁止。物をぶつけるのも禁止だ」
「よくわかったわ」
目の前を飛んで行った矢が、驚いて頭を庇ったルーシアの腕に当たって折れる姿を見て、素直に反省したようだ。身体に這わせた結界を、ドーム状にした方が恐怖は薄れる。遠くで武器や罠が発動するためだ。しかし狭い洞窟内で、互いの結界がぶつかれば、意図せずに次の罠を誘発してしまう。
身体に這わせた薄い膜状態の結界が、一番被害が少ない。過去の経験からルシファーが選んだ方法だった。ヤンの結界も同様で、これはルシファーがいなくても、彼自身の魔力で発動している。魔法陣や魔法が使えない種族でも、首輪をした者の魔力で発動する仕組みだった。ちなみに考案者はルシファー自身で、初代セーレを連れ歩くために開発した。
「壁に触るな」
もう一度よく言い聞かせ、滑る床を歩き始めた。一歩進むごとに冷や汗をかく状況だ。
「ねえ、ユルルングルは罠に触らないの?」
リリスのもっともな疑問に、ルーサルカ達も答えを求めてルシファーを見上げる。転ばないようにリリスを支えながら歩くルシファーは、少しだけ迷う。答えを自分達で探させる方がいいか。
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「そうだ。だから壁や天井を這う必要はないし、この滑る状況でも上手に移動できる」
水上でも表面を滑るように泳ぐ蛇の姿を説明しながら、少しずつ傾く斜面を進んだ。
ぱっと明るい場所が現れる。
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