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70章 人族の大量落下事件
954. 後悔、先に立たず
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新しい魔獣が挨拶に訪れ、複数の割れた尻尾をもつ獅子がリリスの後ろで寝転がる。バイコーンがくつろぐ草むらに、巨大な魔鷲が舞い降りた。魔獣達の挨拶には事欠かないらしく、仲睦まじい魔王と魔王妃のお披露目はしっかり役目を果たしている。
「ああ、そうだった。ベルゼビュートは元の辺境警備に戻って」
「ベールね、もう……少しあたくしが楽をすると意地悪するんだから」
文句をいいながら立ち上がったベルゼビュートだが、罰として与えられた任務でもあるため素直に従った。昼寝を中断しない主君へ一礼し、さっと消える。いつもながらあっさりした去り際だった。
「ルシファー、そろそろ起きる?」
リリスが歌をやめた。ふんわりした柔らかな空間が、すこしずつ温度を失う気がする。他の獣の気配に敏感な魔山羊のバールが逃げ出し、幻獣の虹蛇ものそのそと消えていく。楽園が壊れる瞬間を目の当たりにし、ルキフェルは驚きに森を見回した。
伴奏のように柔らかく揺れていた葉が止まり、外から吹いた風にざっと尖った音を立てた。途端に肩にいたリスが飛び降りて逃げ出し、バイコーンや兎も逃げ出す。最後に肉食獣の獅子や魔熊が子供を連れて離れていった。
「……魔の森の娘、その肩書は伊達じゃないね」
歌が消え、満ちていた魔力が薄れるほどに、リリスの隠された能力が際立つ。彼女の魔法は魔王の封印で固められ、蓋を閉じた状態だ。にもかかわらず、彼女は己の魔力を周囲の森に還元した。封印された魔力は失われることなく体内を循環する。それを内側から発する声に乗せる手法は斬新だった。
ルキフェルは目を輝かせ、先ほどまで存在した疑似楽園が消えるのを観察する。ルシファーへの伝令役、ベールに譲らなくてよかった。面倒だけど、出向いた労力以上の価値があったな。
ようやく身を起こしたルシファーが、長い髪を手櫛でかき上げる。リリスも手櫛で手伝いながら、あまりきつく絡まることのない純白の髪を撫でた。
「リリスの膝は居心地がいいな、ありがとう」
額にキスを落とし、ルシファーは銀の瞳を瞬く。思ったより長く眠りすぎた。封印に使った魔力はさほど多くない。魔法陣を使ったので負担も軽かった。翼を広げて消費することもなかったのに、まるで逆凪の後のような怠さが残る。
リリスの封印と関係あるのか、別の要因なのか。この場で急ぐ判断でもない。そう考えて後回しにしたルシファーは、集まってきた大公女や護衛の中に混じるルキフェルに目を瞠った。
結界内に彼がいるのは問題ないが、どうして目が覚めなかったのだろう。
「ロキちゃん……何かお仕事?」
リリスの問いかける声に、ルシファーは疑問を置き去りにした。
「護衛の交代も難しいし、夜の警備があると過重労働だから。夜は魔王城に戻ってくれってさ」
最低限の用件を口にするルキフェルだが、イポスやヤンは顔を見合わせた。確かに大変だが、この程度の勤務状態は何度か経験している。今さらだった。攻守ともに優秀な大公女達も揃った状況で、わざわざ視察の方針を変更するなら理由は別にある。
疑いの眼差しに、ルキフェルが「降参」と肩を竦めた。
「書類処理が追い付かないんだ。アスタロトを眠らせたから、手が足りない。処理を手伝ってよ。転移があれば毎日城から視察にいけるじゃん。それと夜の接待を断る方針なら城にいても同じだし、護衛が休める」
先ほどの護衛の過重労働も搦めて提案するルキフェルに、なるほどと周囲は納得した。魔王城内の魔法陣による守護は最上級だ。夜は魔王城に帰ることで、護衛や大公女達もゆっくり休めるようになる。安心と安全を確保した上で、仕事の手伝いも頼めるとあり一石二鳥だった。
「なんだ、そのくらい構わないぞ」
軽く返答したルシファーだが、執務室に山と積まれた書類を見て青ざめるのは……少し先の話だった。
「ああ、そうだった。ベルゼビュートは元の辺境警備に戻って」
「ベールね、もう……少しあたくしが楽をすると意地悪するんだから」
文句をいいながら立ち上がったベルゼビュートだが、罰として与えられた任務でもあるため素直に従った。昼寝を中断しない主君へ一礼し、さっと消える。いつもながらあっさりした去り際だった。
「ルシファー、そろそろ起きる?」
リリスが歌をやめた。ふんわりした柔らかな空間が、すこしずつ温度を失う気がする。他の獣の気配に敏感な魔山羊のバールが逃げ出し、幻獣の虹蛇ものそのそと消えていく。楽園が壊れる瞬間を目の当たりにし、ルキフェルは驚きに森を見回した。
伴奏のように柔らかく揺れていた葉が止まり、外から吹いた風にざっと尖った音を立てた。途端に肩にいたリスが飛び降りて逃げ出し、バイコーンや兎も逃げ出す。最後に肉食獣の獅子や魔熊が子供を連れて離れていった。
「……魔の森の娘、その肩書は伊達じゃないね」
歌が消え、満ちていた魔力が薄れるほどに、リリスの隠された能力が際立つ。彼女の魔法は魔王の封印で固められ、蓋を閉じた状態だ。にもかかわらず、彼女は己の魔力を周囲の森に還元した。封印された魔力は失われることなく体内を循環する。それを内側から発する声に乗せる手法は斬新だった。
ルキフェルは目を輝かせ、先ほどまで存在した疑似楽園が消えるのを観察する。ルシファーへの伝令役、ベールに譲らなくてよかった。面倒だけど、出向いた労力以上の価値があったな。
ようやく身を起こしたルシファーが、長い髪を手櫛でかき上げる。リリスも手櫛で手伝いながら、あまりきつく絡まることのない純白の髪を撫でた。
「リリスの膝は居心地がいいな、ありがとう」
額にキスを落とし、ルシファーは銀の瞳を瞬く。思ったより長く眠りすぎた。封印に使った魔力はさほど多くない。魔法陣を使ったので負担も軽かった。翼を広げて消費することもなかったのに、まるで逆凪の後のような怠さが残る。
リリスの封印と関係あるのか、別の要因なのか。この場で急ぐ判断でもない。そう考えて後回しにしたルシファーは、集まってきた大公女や護衛の中に混じるルキフェルに目を瞠った。
結界内に彼がいるのは問題ないが、どうして目が覚めなかったのだろう。
「ロキちゃん……何かお仕事?」
リリスの問いかける声に、ルシファーは疑問を置き去りにした。
「護衛の交代も難しいし、夜の警備があると過重労働だから。夜は魔王城に戻ってくれってさ」
最低限の用件を口にするルキフェルだが、イポスやヤンは顔を見合わせた。確かに大変だが、この程度の勤務状態は何度か経験している。今さらだった。攻守ともに優秀な大公女達も揃った状況で、わざわざ視察の方針を変更するなら理由は別にある。
疑いの眼差しに、ルキフェルが「降参」と肩を竦めた。
「書類処理が追い付かないんだ。アスタロトを眠らせたから、手が足りない。処理を手伝ってよ。転移があれば毎日城から視察にいけるじゃん。それと夜の接待を断る方針なら城にいても同じだし、護衛が休める」
先ほどの護衛の過重労働も搦めて提案するルキフェルに、なるほどと周囲は納得した。魔王城内の魔法陣による守護は最上級だ。夜は魔王城に帰ることで、護衛や大公女達もゆっくり休めるようになる。安心と安全を確保した上で、仕事の手伝いも頼めるとあり一石二鳥だった。
「なんだ、そのくらい構わないぞ」
軽く返答したルシファーだが、執務室に山と積まれた書類を見て青ざめるのは……少し先の話だった。
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