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67章 襲撃の残り火

907. 処理しましょうか

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 ぽつりぽつりと甲高い子供の声が並べる罪は、外部から指摘された範囲だ。実際にはいくつか追加される罪があった。お披露目を兼ねた視察は公式行事であり、魔王襲撃は慎むべきという共通認識がある。これは巻き込まれる一般人が出る可能性を含み、不文律として各種族へ周知されていた。

 魔王妃は魔王と別格で、魔族女性の頂点に立つ存在だ。婚姻式はまだ行われていないが、リリスは事実上の魔王妃として立后していた。つまり、カイムは魔族の最高権力者2人へ同時に喧嘩を売ったことになる。

 街中でブレスを放つ行為は禁止されており、竜化することも同様だった。これはドラゴニア家が領民と約束した条項であり、街独自の法律だ。ドラゴンの姿で上空を飛ぶことも禁じたほど厳しく、また古くから存在する法を守るため、外壁の向こうに離着陸の広場を設けるほど徹底されてきた。

 一族が街を治めるにあたって、領民と約束した最低限のマナーすら破ったのだ。それはドラゴニア家に対する不満が膨らむ種になり、いずれ子孫に影響するというのに。

「その程度しか把握できませんか。手紙を書いた両親も報われませんね」

 吐き捨てたアスタロトは、吸血種を纏める統領としての苛立ちを滲ませ、冷たい眼差しを突き立てる。びくりと肩を揺らした子供は、本家の嫡男を補佐するに相応しい教育を受けたはずだ。それでも理解できないなら、人の上に立つ素質がなかった。

 ドラゴニア家が子供の助命嘆願や申し開きをしないのは、自分達の育て方に問題があったと考えるためか。納得したアスタロトは淡々とした口調で罪状を並べた。

「魔王への挑戦権は魔族すべてに認められますが、次の規定に抵触するものは別です。魔王以外への攻撃、人質を取る行為、公式行事の妨害。ドラゴニアの街で禁止された行為は街中での竜化、ブレスを吐く攻撃、器物損壊、住民への暴行。さらに魔王妃殿下への攻撃は新たな罪となり、処罰の対象となります」

 言い聞かせる口調で罪状を並べた後、アスタロトは眉をひそめた。カイムの態度は反省より、苛立ちが滲んでいる。隠しきれない感情はドラゴンや獣人に多い特徴だった。己を律することにかけて、彼らは未熟の一言に尽きる。

「魔王陛下に対し、不満を持つのは自由です。自分の立場をよく考え反省した方が良いでしょうが……裁判なしで、私が独自に処断する権限があることをお忘れなく」

 太い釘ならぬ杭をぐさりと刺す。この場でお前の命を奪っても、誰も文句は言わないし嘆かない。まだ少年と呼ぶ年齢の子供に突き付けるには、非情に感じられる冷たい宣告だった。

 地下牢に降りたときの彼の震えは、理解した罪を反省したのではない。捕らえられた己を憐れみ、不当な待遇だと苛立ちを募らせただけ。言葉で理解と反省を並べ、心の中は真逆のどろどろした感情を煮え滾らせていた。ならば遠慮はいらない。

「他人を巻き込んだことを反省出来ないなら、存在する価値はないのでしましょうか」

 処断や処罰は、反省して理性がある者へ適用される考え方だ。何も分からぬ魔獣であれば、ゴミ同様に処理する。悪意をもって選んだ単語に、牢の管理をするアンデッドが身を震わせた。冷えた牢内の温度がさらに下がった気がする。

「アスタロト、ドラゴニア家の使者が到着しました」

 階段を下りたベールの声に感情はない。主君へ向けられた攻撃への憤りも、目の前の存在に対する興味も含まなかった。長い付き合いで声に出なかった部分を察したアスタロトの口元が緩む。

「……カイム・エル・ドラゴニア。喜ぶのは早いですよ。おそらく助けはありません」

 脅すように希望を挫く発言をした吸血鬼王を無視し、少年は安堵の息をついた。ここから始まる地獄を……彼が理解した時にはすべてが手遅れだというのに。
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