901 / 1,397
66章 ドラゴンの逆鱗
896. 勇者と古代竜の逆鱗
しおりを挟む
「アベルって、本音がすぐ出ちゃうのね」
「「いまさらでしょ」」
「子供なんじゃないかな」
ルーサルカが溜め息をつくと、シトリーとルーシアが笑う。レライエは呆れ顔で頷いたが、袋の中から翡翠竜が的確にアベルの性格を言い当てた。
戦う意思を見せたアベルに唸って威嚇するドラゴンが、大きく息を吸い込んでブレスを放つ。周囲をすべて焼く攻撃ではなく、大公女4人とアベルを狙って範囲を絞ったブレスは、その分だけ威力を増していた。
咄嗟に結界を強めようとしたルーシアに、アムドゥスキアスが叫んだ。
「1枚目が砕けるよ」
言葉通り、一番外側の結界が砕ける。ぱりんと音を立てて砕けるが、それはルーシアが張ったものではなかった。
「やはり保険は大事だね」
くすくす笑う翡翠竜は、普段とは違う笑みを浮かべた。古代竜がここにいると知らずとも、婚約者であり最愛の人であるレライエとその友人へ牙を剥いたことは事実だ。ただの竜が、この古代竜にケンカを売るなら、最悪の後悔をしてもらおうか。
「結界の維持を頼むね。私は彼を援護するから」
アムドゥスキアスは彼女らに安全確保を要請し、2枚目の結界を消した。ルーシアが結界を展開する前に、すでに魔力感知で敵の存在に気付いた翡翠竜の魔力が拡散して、別の形をとって集う。
居心地のいいバッグからもそもそ這い出したアムドゥスキアスは久しぶりに羽を広げ、己の魔力で空に浮かんだ。
「アベル、結界と援護はするから……叩きのめして。ライは絶対に結界から出ちゃダメ。私より前に出るのも禁止だ。いいね」
言い聞かせるより、命令に近い。アムドゥスキアスがばさりと森色の羽を広げた。グラデーションが美しい羽の後ろに、淡い緑の膜が現れた。
「街を壊すなっ」
高まるアムドゥスキアスの魔力に気付いたルシファーが叫ぶ。
「わかってます」
きっちり返答してから、小型犬程の小さな竜はぶわりと膨らんだ。元の大きさに戻っても、目の前の竜より明らかに小さい。にも関わらず、気圧されたドラゴンが数歩下がった。
「久しぶりだから、手加減できないかも?」
唸りながら魔力を編んでいく。背後の膜が脈打つように揺れ、翡翠竜が鮮やかな鱗を陽光に煌めかせながら尻尾を振る。
「準備はできたよ、勇者はもう行ける?」
「おう! きっちり躾けてやる」
殺してはマズイと理解したアベルが、剣を横に構えて大きく息を吸い込んだ。吐いた息が切れる直前、アベルの身が消える。上や横へ飛んだのではなく、下に沈んだのだ。衝撃波を生む速さまで一気に加速し、剣を滑らせるように鱗へ這わせた。
突き立てる必要はない。切れ味や刃こぼれの心配はしない。これは魔王ルシファーが、魔王チャレンジの表彰者に与えた技物だった。撫でるような動きで、鱗にヒビが入った。
「こ、この程度かっ!」
再びブレスの準備を始めるドラゴンだが、反対側まで一気に駆け抜けたアベルは、剣を鞘に納めた。顔を見合わせる少女達の目の前で、はらりと紺の破片が落ちる。まるで舞う雪か花弁のように、鱗は半分以上落ちてドラゴンはがくりと膝を着いた。ただ柔らかく撫でた動きは、数えきれない程の攻撃によって組み立てれられ、ドラゴンの巨体を深く浅く傷つける。
「止めは私がもらうよ。何、心配しなくていい。殺すほど親切じゃないから」
古代竜が不穏な言葉を吐き、鱗がないドラゴンの肌に緑の膜を貼りつけた。ぐぎゃあぁああ、地を揺るがす悲鳴をあげた紺色の竜は横倒しになる。そのまま口の中に蓄えたブレスを吐くこともなく、動けずに固まった。
「なんか知らねえけど、怖い魔法だな」
「そうでもないさ。私を怒らせなければ、彼は楽に死ねたんだけどね」
死で楽になんてしない。殺すより残酷な方法を選んだと匂わせながら、見上げる高さの翡翠竜は口元を歪めた。
「「いまさらでしょ」」
「子供なんじゃないかな」
ルーサルカが溜め息をつくと、シトリーとルーシアが笑う。レライエは呆れ顔で頷いたが、袋の中から翡翠竜が的確にアベルの性格を言い当てた。
戦う意思を見せたアベルに唸って威嚇するドラゴンが、大きく息を吸い込んでブレスを放つ。周囲をすべて焼く攻撃ではなく、大公女4人とアベルを狙って範囲を絞ったブレスは、その分だけ威力を増していた。
咄嗟に結界を強めようとしたルーシアに、アムドゥスキアスが叫んだ。
「1枚目が砕けるよ」
言葉通り、一番外側の結界が砕ける。ぱりんと音を立てて砕けるが、それはルーシアが張ったものではなかった。
「やはり保険は大事だね」
くすくす笑う翡翠竜は、普段とは違う笑みを浮かべた。古代竜がここにいると知らずとも、婚約者であり最愛の人であるレライエとその友人へ牙を剥いたことは事実だ。ただの竜が、この古代竜にケンカを売るなら、最悪の後悔をしてもらおうか。
「結界の維持を頼むね。私は彼を援護するから」
アムドゥスキアスは彼女らに安全確保を要請し、2枚目の結界を消した。ルーシアが結界を展開する前に、すでに魔力感知で敵の存在に気付いた翡翠竜の魔力が拡散して、別の形をとって集う。
居心地のいいバッグからもそもそ這い出したアムドゥスキアスは久しぶりに羽を広げ、己の魔力で空に浮かんだ。
「アベル、結界と援護はするから……叩きのめして。ライは絶対に結界から出ちゃダメ。私より前に出るのも禁止だ。いいね」
言い聞かせるより、命令に近い。アムドゥスキアスがばさりと森色の羽を広げた。グラデーションが美しい羽の後ろに、淡い緑の膜が現れた。
「街を壊すなっ」
高まるアムドゥスキアスの魔力に気付いたルシファーが叫ぶ。
「わかってます」
きっちり返答してから、小型犬程の小さな竜はぶわりと膨らんだ。元の大きさに戻っても、目の前の竜より明らかに小さい。にも関わらず、気圧されたドラゴンが数歩下がった。
「久しぶりだから、手加減できないかも?」
唸りながら魔力を編んでいく。背後の膜が脈打つように揺れ、翡翠竜が鮮やかな鱗を陽光に煌めかせながら尻尾を振る。
「準備はできたよ、勇者はもう行ける?」
「おう! きっちり躾けてやる」
殺してはマズイと理解したアベルが、剣を横に構えて大きく息を吸い込んだ。吐いた息が切れる直前、アベルの身が消える。上や横へ飛んだのではなく、下に沈んだのだ。衝撃波を生む速さまで一気に加速し、剣を滑らせるように鱗へ這わせた。
突き立てる必要はない。切れ味や刃こぼれの心配はしない。これは魔王ルシファーが、魔王チャレンジの表彰者に与えた技物だった。撫でるような動きで、鱗にヒビが入った。
「こ、この程度かっ!」
再びブレスの準備を始めるドラゴンだが、反対側まで一気に駆け抜けたアベルは、剣を鞘に納めた。顔を見合わせる少女達の目の前で、はらりと紺の破片が落ちる。まるで舞う雪か花弁のように、鱗は半分以上落ちてドラゴンはがくりと膝を着いた。ただ柔らかく撫でた動きは、数えきれない程の攻撃によって組み立てれられ、ドラゴンの巨体を深く浅く傷つける。
「止めは私がもらうよ。何、心配しなくていい。殺すほど親切じゃないから」
古代竜が不穏な言葉を吐き、鱗がないドラゴンの肌に緑の膜を貼りつけた。ぐぎゃあぁああ、地を揺るがす悲鳴をあげた紺色の竜は横倒しになる。そのまま口の中に蓄えたブレスを吐くこともなく、動けずに固まった。
「なんか知らねえけど、怖い魔法だな」
「そうでもないさ。私を怒らせなければ、彼は楽に死ねたんだけどね」
死で楽になんてしない。殺すより残酷な方法を選んだと匂わせながら、見上げる高さの翡翠竜は口元を歪めた。
20
お気に入りに追加
4,927
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完結】虐げられた令嬢の復讐劇 〜聖女より格上の妖精の愛し子で竜王様の番は私です~
大福金
ファンタジー
10歳の時、床掃除をしている時に水で足を滑らせ前世の記憶を思い出した。侯爵家令嬢ルチア
8さいの時、急に現れた義母に義姉。
あれやこれやと気がついたら部屋は義姉に取られ屋根裏に。
侯爵家の娘なのに、使用人扱い。
お母様が生きていた時に大事にしてくれた。使用人たちは皆、義母が辞めさせた。
義母が連れてきた使用人達は私を義母と一緒になってこき使い私を馬鹿にする……
このままじゃ先の人生詰んでる。
私には
前世では25歳まで生きてた記憶がある!
義母や義姉!これからは思い通りにさせないんだから!
義母達にスカッとざまぁしたり
冒険の旅に出たり
主人公が妖精の愛し子だったり。
竜王の番だったり。
色々な無自覚チート能力発揮します。
竜王様との溺愛は後半第二章からになります。
※完結まで執筆済みです。(*´꒳`*)10万字程度。
※後半イチャイチャ多めです♡
※R18描写♡が入るシーンはタイトルに★マークをいれています。
【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。
112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。
目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。
死にたくない。あんな最期になりたくない。
そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる