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65章 新しい生活環境とは
891. 置いていくか、連れていくか
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「いけません。置いて行きなさい」
見送りの中庭は緊迫していた。
準備を整えた魔王と魔王妃、大公女4人、アベル、護衛のイポスが集まっている。それぞれの婚約者は、後からアスタロトかベールに送り届けてもらう予定だ。ストラスをはじめとし、アベル以外の全員が仕事持ちだった。
暇なアベルは最初からついてくるが、ついでなので護衛の仕事を依頼しておいた。当人は「俺より強い人に護衛は要らないと思う」とぼやいたが、ルーサルカと一緒にいる理由になると受けた。
アデーレが上手に邪魔したようで、見送りにアスタロトは同席していない。
「いいじゃない! 可愛いし、私達に懐いてるわ」
理由にならない理由を並べ、ルシファーが背負ったレラジェを連れて行こうとする。リリスのお願いで幼児を背負う魔王の姿に、ベールは大きな溜め息をついた。
この光景が魔族の民にどう見えるか。少し考えてくれればいいのですが……魔王妃リリスが絡むと思考が溶けるルシファーに期待はできない。憎まれ役を買って出るベールは、きっぱりと否定した。
「誤解を生むから絶対にいけません」
「どう誤解されるのよ」
唇を尖らせてごねるリリスの隣で、幼児を揺すって眠らせながらルシファーは口を開かない。こういった場面で下手に口出しすると、火傷するからだ。もちろん、リリスが危険なら命懸けで口出しする覚悟はあった。
「いいですか? 魔王陛下を幼くした顔立ちの、魔王妃殿下と色の似た子供です。分かりますね?」
魔王がすでに魔王妃に手出しして子供を産ませていた――ベールが懸念する噂はこの辺だろう。
「分からないわ! 別に私の子じゃないし、尋ねられたら答えればいいじゃない」
アンナの性教育を終えたリリスは、子供がどうやって宿り、どう産まれるか学んでいる。自分が産んでないと確信があるから、言葉で通じると思っていた。
ここで問題である。面と向かって魔王や魔王妃に尋ねる強者が、魔族にどれほど存在するだろう。大公クラスでもなければ、貴族でも口を噤んで忖度してしまう状況だった。
デリケートな問題なのだ。魔族の妊娠期間は種族ごとに違うが、一般的に1~2年が多い。つまり12~3歳のリリスとコトを致さないと、14歳の現在に子供は存在しない。しかも途中で幼児に戻ったリリスをどの段階で抱いたのか。
下世話ながら想像すると顔が引きつるのも、当然だった。そういった予想される醜聞から魔王を守るのも、側近の役目である。
「陛下、昨年の段階で若すぎる殿下を孕ませたと噂になります」
「それは困る」
「でも連れて行きたいの!」
「……本当に困る」
ベールの説得に頷きかけたルシファーだが、リリスが駄々を捏ねると弱い。どっちの言い分も理解できるので、少し考えて妥協案を出した。
「この子の色か顔立ちを、魔法で変えたらどうか?」
「可哀想!!」
「リリス様、よろしいですか? 着ぐるみのような恰好はいかがでしょう。子供がより可愛くなる、こちらの猫着ぐるみはオススメです」
予想外の助っ人が現れた。イポスが珍しく主張して収納から愛らしい黒猫の着ぐるみを出す。何に使うつもりで保管していたのかは知らないが、正直助かった。
「着せてみて、レラジェが嫌がったら脱がせればいいだろう。どうだ? きっと似合うぞ」
ルシファーが協力して、イポスの案を推す。少し迷ったあと、黒猫の恰好が可愛いのでうなずいたリリスが、今着ている子供服の上から着せてみた。もぞもぞ手足を動かしたあと、レラジェは嬉しそうに笑う。
「かわい?」
こてんと首をかしげる姿に、女性全員が息ぴったりに叫んだ。
「「「「「「可愛い(ですわ)」」」」」」
「よし決まりだ。ちょっといいか」
黒にちかい灰色なので、黒猫の仮装は髪の色も誤魔化せる。顔はそのまま見えるので、猫に見えるよう魔法でヒゲを生やした。手で触って喜ぶレラジェと手を繋ぎ、リリスはベールに尋ねた。
「これなら連れて行ってもいいでしょ?」
見送りの中庭は緊迫していた。
準備を整えた魔王と魔王妃、大公女4人、アベル、護衛のイポスが集まっている。それぞれの婚約者は、後からアスタロトかベールに送り届けてもらう予定だ。ストラスをはじめとし、アベル以外の全員が仕事持ちだった。
暇なアベルは最初からついてくるが、ついでなので護衛の仕事を依頼しておいた。当人は「俺より強い人に護衛は要らないと思う」とぼやいたが、ルーサルカと一緒にいる理由になると受けた。
アデーレが上手に邪魔したようで、見送りにアスタロトは同席していない。
「いいじゃない! 可愛いし、私達に懐いてるわ」
理由にならない理由を並べ、ルシファーが背負ったレラジェを連れて行こうとする。リリスのお願いで幼児を背負う魔王の姿に、ベールは大きな溜め息をついた。
この光景が魔族の民にどう見えるか。少し考えてくれればいいのですが……魔王妃リリスが絡むと思考が溶けるルシファーに期待はできない。憎まれ役を買って出るベールは、きっぱりと否定した。
「誤解を生むから絶対にいけません」
「どう誤解されるのよ」
唇を尖らせてごねるリリスの隣で、幼児を揺すって眠らせながらルシファーは口を開かない。こういった場面で下手に口出しすると、火傷するからだ。もちろん、リリスが危険なら命懸けで口出しする覚悟はあった。
「いいですか? 魔王陛下を幼くした顔立ちの、魔王妃殿下と色の似た子供です。分かりますね?」
魔王がすでに魔王妃に手出しして子供を産ませていた――ベールが懸念する噂はこの辺だろう。
「分からないわ! 別に私の子じゃないし、尋ねられたら答えればいいじゃない」
アンナの性教育を終えたリリスは、子供がどうやって宿り、どう産まれるか学んでいる。自分が産んでないと確信があるから、言葉で通じると思っていた。
ここで問題である。面と向かって魔王や魔王妃に尋ねる強者が、魔族にどれほど存在するだろう。大公クラスでもなければ、貴族でも口を噤んで忖度してしまう状況だった。
デリケートな問題なのだ。魔族の妊娠期間は種族ごとに違うが、一般的に1~2年が多い。つまり12~3歳のリリスとコトを致さないと、14歳の現在に子供は存在しない。しかも途中で幼児に戻ったリリスをどの段階で抱いたのか。
下世話ながら想像すると顔が引きつるのも、当然だった。そういった予想される醜聞から魔王を守るのも、側近の役目である。
「陛下、昨年の段階で若すぎる殿下を孕ませたと噂になります」
「それは困る」
「でも連れて行きたいの!」
「……本当に困る」
ベールの説得に頷きかけたルシファーだが、リリスが駄々を捏ねると弱い。どっちの言い分も理解できるので、少し考えて妥協案を出した。
「この子の色か顔立ちを、魔法で変えたらどうか?」
「可哀想!!」
「リリス様、よろしいですか? 着ぐるみのような恰好はいかがでしょう。子供がより可愛くなる、こちらの猫着ぐるみはオススメです」
予想外の助っ人が現れた。イポスが珍しく主張して収納から愛らしい黒猫の着ぐるみを出す。何に使うつもりで保管していたのかは知らないが、正直助かった。
「着せてみて、レラジェが嫌がったら脱がせればいいだろう。どうだ? きっと似合うぞ」
ルシファーが協力して、イポスの案を推す。少し迷ったあと、黒猫の恰好が可愛いのでうなずいたリリスが、今着ている子供服の上から着せてみた。もぞもぞ手足を動かしたあと、レラジェは嬉しそうに笑う。
「かわい?」
こてんと首をかしげる姿に、女性全員が息ぴったりに叫んだ。
「「「「「「可愛い(ですわ)」」」」」」
「よし決まりだ。ちょっといいか」
黒にちかい灰色なので、黒猫の仮装は髪の色も誤魔化せる。顔はそのまま見えるので、猫に見えるよう魔法でヒゲを生やした。手で触って喜ぶレラジェと手を繋ぎ、リリスはベールに尋ねた。
「これなら連れて行ってもいいでしょ?」
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