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65章 新しい生活環境とは
888. 誰を何て呼んだ?
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呼ばれたルキフェルが部屋に顔を見せると、ルシファーはリリスを……押し倒している最中に見えた。ベッドに横たわる彼女にルシファーが跨っている? 僕を呼んだのに? 怪訝さが先に立ったルキフェルの足元を元気に幼児が駆けていく。
「パパ、ママっ!」
突然の幼児の声に、ぎょっとしたのは当然だ。誰を示して、パパとママなのか。目を見開くルキフェルが見守る先を、幼児はふらつきながら走り、ベッドの脇で両手を使ってシーツを叩く。上に上がりたいと騒ぐ幼児に、溜め息をついたルシファーが手を伸ばした。
「今、誰を何て呼んだ?」
「パパ! ママ!」
ルシファーとリリスを指さした幼児は、ご機嫌でルシファーの腕に収まる。抱き慣れているせいで、つい腕に納めてしまったルシファーが項垂れた。ちなみにリリスはもそもそと身を起こし、拗ねた様子で唇を尖らせる。
「ごめん、場面がカオス過ぎて……僕、何から聞いたらいい?」
混乱を極めたルキフェルは項垂れて近くのソファに掴まった。そのまま回り込んでソファの座面に腰を下ろす。気持ちを落ち着けようと、愛用のティーセットを研究室から転送した。にゅっと空間に手を突っ込んで取り出したため、研究室に指先が現れて品物が消える現象が起きたと思われる。
「まず、この子だろう」
「うん……わかるけど、誤魔化されないよ。なんでリリスを押し倒したの」
妹として可愛がるリリスが唇を尖らせ、乱れた黒髪を手櫛で直している。ご機嫌はまだ直らないようだが、その理由をすっ飛ばそうとした魔王へ詰め寄った。
香りの高いハーブを使った紅茶は、普段より色が薄い。ポットのお湯の温度を調整して、渋くならないようにした紅茶を口元に運んだ。ずずっと音をさせて飲む。マナー違反だが、それだけルキフェルの機嫌が悪い証拠だった。
「リリスの機嫌を損ねてしまったのだ」
「だから押し倒すの? 意味が繋がらない」
しょんぼりしたルシファーの呟きに、容赦のない反論が飛ぶ。すると枕の近くに並んだクッションを拾い、ルシファーに投げつけたリリスがベッドを降りた。ここまで機嫌が悪いのは珍しい。サンダルもはかず、素足のままルキフェルの隣に座ろうとして……斜め前に移動した。
ちらりとルシファーを振り返ったので、隣に座った場合のルキフェルへのとばっちりを考えたのだろう。少しは成長しているリリスだが、実際の中身は幼女時代と大差なかった。
「何があったのさ」
「ルシファーったら、私のデザートのプリンに」
スプーンを差し込んで食べてしまった、とか? もしくは半分食べて後で食べるつもりだったのに片付けられたのか。過去の事例を思い出すルキフェルの耳に、新しい事例が飛び込んだ。
「サクランボが乗ってないのに、言わなかったのよ! 酷いわ。いつも生クリームの上に乗ってたのに、足りないって気づいて、すぐに注文してくれてもいいじゃない!!」
「ああ……うん、その……ごめん。ルシファー」
思ったよりルシファーが悪くなかった。怒らせたリリスを何とか宥めようとした。だが、ベッドに逃げ込んでシーツを被った彼女に、何とか顔を見せておくれと懇願する最中にルキフェルが来たのが真相だった。
「リリス、ルシファーがわざとやったんじゃないでしょ?」
わかってくるくせに。それでも理不尽な怒りを向けるのは、楽しみにしていたデザートが不完全だったことが悲しかったのだ。どんなにリリスが自分勝手な感情を向けても、ルシファーは受け入れてしまう。だからこそ甘えが生んだ状況だった。
「パパ、ママっ!」
突然の幼児の声に、ぎょっとしたのは当然だ。誰を示して、パパとママなのか。目を見開くルキフェルが見守る先を、幼児はふらつきながら走り、ベッドの脇で両手を使ってシーツを叩く。上に上がりたいと騒ぐ幼児に、溜め息をついたルシファーが手を伸ばした。
「今、誰を何て呼んだ?」
「パパ! ママ!」
ルシファーとリリスを指さした幼児は、ご機嫌でルシファーの腕に収まる。抱き慣れているせいで、つい腕に納めてしまったルシファーが項垂れた。ちなみにリリスはもそもそと身を起こし、拗ねた様子で唇を尖らせる。
「ごめん、場面がカオス過ぎて……僕、何から聞いたらいい?」
混乱を極めたルキフェルは項垂れて近くのソファに掴まった。そのまま回り込んでソファの座面に腰を下ろす。気持ちを落ち着けようと、愛用のティーセットを研究室から転送した。にゅっと空間に手を突っ込んで取り出したため、研究室に指先が現れて品物が消える現象が起きたと思われる。
「まず、この子だろう」
「うん……わかるけど、誤魔化されないよ。なんでリリスを押し倒したの」
妹として可愛がるリリスが唇を尖らせ、乱れた黒髪を手櫛で直している。ご機嫌はまだ直らないようだが、その理由をすっ飛ばそうとした魔王へ詰め寄った。
香りの高いハーブを使った紅茶は、普段より色が薄い。ポットのお湯の温度を調整して、渋くならないようにした紅茶を口元に運んだ。ずずっと音をさせて飲む。マナー違反だが、それだけルキフェルの機嫌が悪い証拠だった。
「リリスの機嫌を損ねてしまったのだ」
「だから押し倒すの? 意味が繋がらない」
しょんぼりしたルシファーの呟きに、容赦のない反論が飛ぶ。すると枕の近くに並んだクッションを拾い、ルシファーに投げつけたリリスがベッドを降りた。ここまで機嫌が悪いのは珍しい。サンダルもはかず、素足のままルキフェルの隣に座ろうとして……斜め前に移動した。
ちらりとルシファーを振り返ったので、隣に座った場合のルキフェルへのとばっちりを考えたのだろう。少しは成長しているリリスだが、実際の中身は幼女時代と大差なかった。
「何があったのさ」
「ルシファーったら、私のデザートのプリンに」
スプーンを差し込んで食べてしまった、とか? もしくは半分食べて後で食べるつもりだったのに片付けられたのか。過去の事例を思い出すルキフェルの耳に、新しい事例が飛び込んだ。
「サクランボが乗ってないのに、言わなかったのよ! 酷いわ。いつも生クリームの上に乗ってたのに、足りないって気づいて、すぐに注文してくれてもいいじゃない!!」
「ああ……うん、その……ごめん。ルシファー」
思ったよりルシファーが悪くなかった。怒らせたリリスを何とか宥めようとした。だが、ベッドに逃げ込んでシーツを被った彼女に、何とか顔を見せておくれと懇願する最中にルキフェルが来たのが真相だった。
「リリス、ルシファーがわざとやったんじゃないでしょ?」
わかってくるくせに。それでも理不尽な怒りを向けるのは、楽しみにしていたデザートが不完全だったことが悲しかったのだ。どんなにリリスが自分勝手な感情を向けても、ルシファーは受け入れてしまう。だからこそ甘えが生んだ状況だった。
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