892 / 1,397
65章 新しい生活環境とは
887. 眠らせてしまえば
しおりを挟む
赤に近いローズピンクの薔薇を浮かべた風呂を堪能し、リリスの黒髪を乾かすルシファーは器用に3つの魔法を操ってドライヤーを再現した。以前は水気を飛ばして風を当てるだけだったので、使用する魔法は2つだった。しかし異世界のドライヤーの説明をアンナから聞いたのだ。
濡れた髪に冷たい風を当てたら、湯冷めしてしまう。風邪を引いたり体調を崩すと聞いたルシファーは、話の内容を理解すると3つの魔法を重ねて再現した。多少調整が必要だったが、慣れた今は日常的に使用している。
「温かいのにしてから、髪がまとまるようになったの」
リリスの感想を聞きながら、アンナ達異世界人の知識に興味が湧いた。時間を取って、彼女らの知る知識を公開してもらう機会を作ったらどうだろう。使えそうな考え方や再現できる技術があれば、魔族の生活が豊かになるかも知れない。
「それなら、ルキフェルに頼んで魔法陣を組もうか」
「いいわね。シトリーが喜ぶわ」
なぜか側近の1人だけ名を上げたリリスに首をかしげると、こっそり教えてくれた。シトリーの銀髪はストレートで癖がないように見えるが、洗うとふわふわ絡まってしまうらしい。そのため乾かすことに人一倍時間をかけて、毎日必死でストレートの髪を維持しているという。
「ベルゼビュートと逆だな」
「ベルゼ姉さんは巻き毛命ですものね」
毎日苦労してピンクの髪を巻き毛にするベルゼビュートと、洗うたびに髪を伸ばすシトリー。正反対の彼女らの髪質を交換できたら、互いに満足出るのだろうが……。さすがにそんな都合のいい魔法は存在しなかった。ひとまず魔法陣を組むには一度見せる必要があるため、ルキフェルを呼ぼうとした。
「失礼します」
アデーレが食事を持ってきた。少し早めの夕食だが、明日の朝の出発が早いためだろう。ルキフェルを呼ぶのは後にしようとテーブルにつけば、手早く用意したアデーレが控える。いつも食事中は脇で待つ侍女長を手招きし、リリスはこっそり情報を流した。
「あのね、ルカはアベルが好きみたい。簪を買ってもらったわ。銀の枝に赤い実と緑の葉がついたデザインよ」
声をひそめて告げた。アベルはこの世界で苦労ばかりしてきたから、応援する意味を込めて自室にばっちり結界を張る。これでアスタロトに聞かれる心配も減ったはずだ。気づいたアデーレが会釈した後、微笑んだ。
「そうですか、あの子も好きな人が出来たのね。アベルは人間だから寿命が心配だわ」
「寿命が尽きる未来を心配して諦めるなら、それは恋じゃないだろう」
リリスの口にサラダのトマトを入れながら笑う。自分も初めてリリスに恋をしていると自覚したとき、かなり悩んだ。人間と魔族のハーフだと思っていたから、リリスが失われる未来に恐怖した。それを乗り越えた魔王の発言に、アデーレはルーサルカの母の顔で頷く。
「そうですね。ルカの寿命もはっきりしませんし、いつ命が消えるか心配しても仕方ありません」
突然明日失われるかも知れない。一般的に寿命が長い魔族であっても、人間より先に死ぬ可能性はゼロではなかった。不確定な未来を心配しても、何も得られない。納得したアデーレに言葉をかけようと開いた口に、リリスが切り分けた魚を放り込んだ。
切り身としてはかなり大きな魚を、口いっぱいに頬張ったため声が出ない。はみ出すサイズじゃなかったのが幸いだ。もぐもぐと口を動かして噛む間に、リリスはアデーレに提案した。
「ルカがもう少し恋心を自覚するまで、アシュタに内緒に出来ないかしら」
「簡単です、あの人は前回の眠りを強制終了しましたから……眠らせてしまえばいいでしょう」
さすが、アスタロトの妻になるため押しかけた女性である。強い発言に顔を引きつらせながら、ルシファーは聞こえなかったフリを貫いた。ここで迂闊に口を挟めば、共犯者にされてしまう。口が塞がっていることに感謝しながら、口に苺を放り込むリリスを見守った。
同じ赤い食べ物でも、トマトではなく苺が食べたかったらしい。幸せそうに苺を堪能するリリスを膝の上に乗せたルシファーは、今度こそ間違わずに彼女の好物を可愛い口へ運んだ。
濡れた髪に冷たい風を当てたら、湯冷めしてしまう。風邪を引いたり体調を崩すと聞いたルシファーは、話の内容を理解すると3つの魔法を重ねて再現した。多少調整が必要だったが、慣れた今は日常的に使用している。
「温かいのにしてから、髪がまとまるようになったの」
リリスの感想を聞きながら、アンナ達異世界人の知識に興味が湧いた。時間を取って、彼女らの知る知識を公開してもらう機会を作ったらどうだろう。使えそうな考え方や再現できる技術があれば、魔族の生活が豊かになるかも知れない。
「それなら、ルキフェルに頼んで魔法陣を組もうか」
「いいわね。シトリーが喜ぶわ」
なぜか側近の1人だけ名を上げたリリスに首をかしげると、こっそり教えてくれた。シトリーの銀髪はストレートで癖がないように見えるが、洗うとふわふわ絡まってしまうらしい。そのため乾かすことに人一倍時間をかけて、毎日必死でストレートの髪を維持しているという。
「ベルゼビュートと逆だな」
「ベルゼ姉さんは巻き毛命ですものね」
毎日苦労してピンクの髪を巻き毛にするベルゼビュートと、洗うたびに髪を伸ばすシトリー。正反対の彼女らの髪質を交換できたら、互いに満足出るのだろうが……。さすがにそんな都合のいい魔法は存在しなかった。ひとまず魔法陣を組むには一度見せる必要があるため、ルキフェルを呼ぼうとした。
「失礼します」
アデーレが食事を持ってきた。少し早めの夕食だが、明日の朝の出発が早いためだろう。ルキフェルを呼ぶのは後にしようとテーブルにつけば、手早く用意したアデーレが控える。いつも食事中は脇で待つ侍女長を手招きし、リリスはこっそり情報を流した。
「あのね、ルカはアベルが好きみたい。簪を買ってもらったわ。銀の枝に赤い実と緑の葉がついたデザインよ」
声をひそめて告げた。アベルはこの世界で苦労ばかりしてきたから、応援する意味を込めて自室にばっちり結界を張る。これでアスタロトに聞かれる心配も減ったはずだ。気づいたアデーレが会釈した後、微笑んだ。
「そうですか、あの子も好きな人が出来たのね。アベルは人間だから寿命が心配だわ」
「寿命が尽きる未来を心配して諦めるなら、それは恋じゃないだろう」
リリスの口にサラダのトマトを入れながら笑う。自分も初めてリリスに恋をしていると自覚したとき、かなり悩んだ。人間と魔族のハーフだと思っていたから、リリスが失われる未来に恐怖した。それを乗り越えた魔王の発言に、アデーレはルーサルカの母の顔で頷く。
「そうですね。ルカの寿命もはっきりしませんし、いつ命が消えるか心配しても仕方ありません」
突然明日失われるかも知れない。一般的に寿命が長い魔族であっても、人間より先に死ぬ可能性はゼロではなかった。不確定な未来を心配しても、何も得られない。納得したアデーレに言葉をかけようと開いた口に、リリスが切り分けた魚を放り込んだ。
切り身としてはかなり大きな魚を、口いっぱいに頬張ったため声が出ない。はみ出すサイズじゃなかったのが幸いだ。もぐもぐと口を動かして噛む間に、リリスはアデーレに提案した。
「ルカがもう少し恋心を自覚するまで、アシュタに内緒に出来ないかしら」
「簡単です、あの人は前回の眠りを強制終了しましたから……眠らせてしまえばいいでしょう」
さすが、アスタロトの妻になるため押しかけた女性である。強い発言に顔を引きつらせながら、ルシファーは聞こえなかったフリを貫いた。ここで迂闊に口を挟めば、共犯者にされてしまう。口が塞がっていることに感謝しながら、口に苺を放り込むリリスを見守った。
同じ赤い食べ物でも、トマトではなく苺が食べたかったらしい。幸せそうに苺を堪能するリリスを膝の上に乗せたルシファーは、今度こそ間違わずに彼女の好物を可愛い口へ運んだ。
30
お気に入りに追加
4,953
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
「アゼリア・フォン・ホーヘーマイヤー、俺はお前との婚約を破棄する!」
「王太子殿下、我が家名はヘーファーマイアーですわ」
公爵令嬢アゼリアは、婚約者である王太子ヨーゼフに婚約破棄を突きつけられた。それも家名の間違い付きで。
理由は聖女エルザと結婚するためだという。人々の視線が集まる夜会でやらかした王太子に、彼女は満面の笑みで婚約関係を解消した。
王太子殿下――あなたが選んだ聖女様の意味をご存知なの? 美しいアゼリアを手放したことで、国は傾いていくが、王太子はいつ己の失態に気づけるのか。自由に羽ばたくアゼリアは、魔王の溺愛の中で幸せを掴む!
頭のゆるい王太子をぎゃふんと言わせる「ざまぁ」展開ありの、ハッピーエンド。
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2021/08/16 「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過
※2021/01/30 完結
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
この人が私の夫……政略結婚だけど、一目惚れです!
12歳にして、戦争回避のために隣国の王弟に嫁ぐことになった末っ子姫アンジェル。15歳も年上の夫に会うなり、一目惚れした。彼のすべてが大好きなのに、私は年の離れた妹のように甘やかされるばかり。溺愛もいいけれど、妻として愛してほしいわ。
両片思いの擦れ違い夫婦が、本物の愛に届くまで。ハッピーエンド確定です♪
ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/07/06……完結
2024/06/29……本編完結
2024/04/02……エブリスタ、トレンド恋愛 76位
2024/04/02……アルファポリス、女性向けHOT 77位
2024/04/01……連載開始
死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります
みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」
私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。
聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?
私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。
だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。
こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。
私は誰にも愛されていないのだから。
なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。
灰色の魔女の死という、極上の舞台をー
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる