874 / 1,397
63章 温泉から始まる視察旅行
869. やっぱり噴火しました
しおりを挟む
「何か聞こえた?」
「いいや、気のせいだろう」
哀れなアベルの悲鳴は、鳳凰に軽く受け流された。久しぶりの火口風呂に、ピヨはご機嫌だ。雛の頃に覚醒を促すため放り込まれて以来、ほとんど来れていない。鳳凰の一種である鸞は火口に住む種族である。そのため火口のマグマを浴びたり潜ったり浮いたりするのは日常の行動であり、危険はなかった。
青い羽で熱い表面を叩くピヨは、飛び散る溶岩を体中に浴びて鼻歌を歌う。そんな番の嬉しそうな姿を、目を細めてたアラエルが見守った。
ピヨがもう少し大きくなり、親離れの時期を迎えたら、かつて住んでいた隣の大陸の火口に引っ越そうか。将来に淡い夢と期待を抱きながら、アラエルは番の幸せそうな姿を見守った。ピヨはやっと大型犬程度、親離れまであと数百年である。鳳凰は寿命が2万年前後なので、わりとのんびりした種族だった。
ふもとの温泉街に、鳳凰が集うと噴火する――そんな言い伝えがある。その理由の一端を担うのが、ベールの存在だった。幻獣霊王であるベールが思い出したように溶岩浴に訪れ、僅か数時間から数日で軽い噴火を繰り返すのだ。当人に悪気はなく、古い角質やら毛を交換する作業の一環なのだが……。
鳳凰が集う、その表現に含まれるのはベールだけではない。普段より鳳凰の数が増えると、活性化した火山が火を噴くのだ。そしてタイミング悪く、この火山には5羽の鳳凰が火口にいた。追加されたピヨとアラエルで計7羽、過密状態だ。
鳳凰族とて何も考えていないわけではなく、生まれ変わりのタイミングを調整しあい交代で火口を利用している。噴火すると被害が大きい上、大公達にめちゃくちゃ叱られるオプション付きだった。数ヶ月単位で説教された経験を持つのは、長老格の鳳凰だ。ちなみに、この火口の定員は4羽だった。
がたたっ、がたん。
噴火の予兆は軽い地震だ。がたがたと小刻みに揺れる振動は、温泉街の住人に眉をひそめさせた。魔王と魔王妃のお披露目期間なのに、噴火は困る。その程度の不快感だった。
気配や変化に敏感な小型の種族は、地下に逃げ込んだり木の上で震えている。火口がある山を見上げたルシファーは、うーんと唸って腕を組んだ。
火口付近の魔力量が多い。中で眠る古代竜の魔力も活性しているが、動き回る魔力は心当たりがあった。
「ピヨ、か」
大はしゃぎで動き回る小さな魔力を個体識別したルシファーの呟きに、足元の護衛ヤンがぴくりと耳を動かした。街中散策の邪魔にならぬよう小型化したフェンリルは、養い子の青い姿を思い浮かべて頭を両手で覆った。
「我が君、ご迷惑を……」
「まだピヨが何かしたわけでもあるまい。気にするな」
慰めたルシファーに続き、手を伸ばしたリリスがヤンの眉間あたりを優しく撫でた。
「そうよ、まだピヨは何もしてないわ」
2人の実力者が「まだ」と連呼したことで、嫌な予感が高まったヤンは頭を抱えたまま蹲る。次の瞬間、がたがたがた……と長い横揺れが続いた。
「あ、まずいわ」
「ああ。これは……」
頷き合った魔王が結界を張る。温泉街を守る大きな結界は、空を飛ぶ種族がぶつからないよう、僅かに色をつけて展開された。
どぉおおおおん!!
噴火した山を見ながら、温泉街の住民達は慣れた様子で耳を両手で塞いだ。大きな音は結界に多少緩和されるものの、衝撃波が叩きつけられる。魔王の結界がなければ、街の外側はなんらかの被害を受けただろう。
がんっ! ごん!!
激しい音がして、細かな石が降ってきた。それを見ながら、リリスが空を指差した。
「あれ、ドラゴン?」
ひらひらと空を舞う赤い竜が巻き込まれて、慌てて離脱していく。
「噴火だ!」
「今度は何が原因だ」
騒がしくなった街の中で、ルシファーがちらりと足元のヤンを見る。両手で目をがっちりと覆ったフェンリルは、ゴメン寝スタイルで動かなかった。
「ピヨとアラエルがこっちへ向かってるみたい」
元凶の名を聞きたくないと、ヤンは耳まで塞いで丸まった。火口にいた鳳凰達は驚いて散り散りに飛んだらしく、それを追いかける魔王軍のドラゴンや幻獣が空を駆け回る。
お披露目どころではない騒動に、到着したばかりのアスタロトは門の前で溜め息をついた。
「いいや、気のせいだろう」
哀れなアベルの悲鳴は、鳳凰に軽く受け流された。久しぶりの火口風呂に、ピヨはご機嫌だ。雛の頃に覚醒を促すため放り込まれて以来、ほとんど来れていない。鳳凰の一種である鸞は火口に住む種族である。そのため火口のマグマを浴びたり潜ったり浮いたりするのは日常の行動であり、危険はなかった。
青い羽で熱い表面を叩くピヨは、飛び散る溶岩を体中に浴びて鼻歌を歌う。そんな番の嬉しそうな姿を、目を細めてたアラエルが見守った。
ピヨがもう少し大きくなり、親離れの時期を迎えたら、かつて住んでいた隣の大陸の火口に引っ越そうか。将来に淡い夢と期待を抱きながら、アラエルは番の幸せそうな姿を見守った。ピヨはやっと大型犬程度、親離れまであと数百年である。鳳凰は寿命が2万年前後なので、わりとのんびりした種族だった。
ふもとの温泉街に、鳳凰が集うと噴火する――そんな言い伝えがある。その理由の一端を担うのが、ベールの存在だった。幻獣霊王であるベールが思い出したように溶岩浴に訪れ、僅か数時間から数日で軽い噴火を繰り返すのだ。当人に悪気はなく、古い角質やら毛を交換する作業の一環なのだが……。
鳳凰が集う、その表現に含まれるのはベールだけではない。普段より鳳凰の数が増えると、活性化した火山が火を噴くのだ。そしてタイミング悪く、この火山には5羽の鳳凰が火口にいた。追加されたピヨとアラエルで計7羽、過密状態だ。
鳳凰族とて何も考えていないわけではなく、生まれ変わりのタイミングを調整しあい交代で火口を利用している。噴火すると被害が大きい上、大公達にめちゃくちゃ叱られるオプション付きだった。数ヶ月単位で説教された経験を持つのは、長老格の鳳凰だ。ちなみに、この火口の定員は4羽だった。
がたたっ、がたん。
噴火の予兆は軽い地震だ。がたがたと小刻みに揺れる振動は、温泉街の住人に眉をひそめさせた。魔王と魔王妃のお披露目期間なのに、噴火は困る。その程度の不快感だった。
気配や変化に敏感な小型の種族は、地下に逃げ込んだり木の上で震えている。火口がある山を見上げたルシファーは、うーんと唸って腕を組んだ。
火口付近の魔力量が多い。中で眠る古代竜の魔力も活性しているが、動き回る魔力は心当たりがあった。
「ピヨ、か」
大はしゃぎで動き回る小さな魔力を個体識別したルシファーの呟きに、足元の護衛ヤンがぴくりと耳を動かした。街中散策の邪魔にならぬよう小型化したフェンリルは、養い子の青い姿を思い浮かべて頭を両手で覆った。
「我が君、ご迷惑を……」
「まだピヨが何かしたわけでもあるまい。気にするな」
慰めたルシファーに続き、手を伸ばしたリリスがヤンの眉間あたりを優しく撫でた。
「そうよ、まだピヨは何もしてないわ」
2人の実力者が「まだ」と連呼したことで、嫌な予感が高まったヤンは頭を抱えたまま蹲る。次の瞬間、がたがたがた……と長い横揺れが続いた。
「あ、まずいわ」
「ああ。これは……」
頷き合った魔王が結界を張る。温泉街を守る大きな結界は、空を飛ぶ種族がぶつからないよう、僅かに色をつけて展開された。
どぉおおおおん!!
噴火した山を見ながら、温泉街の住民達は慣れた様子で耳を両手で塞いだ。大きな音は結界に多少緩和されるものの、衝撃波が叩きつけられる。魔王の結界がなければ、街の外側はなんらかの被害を受けただろう。
がんっ! ごん!!
激しい音がして、細かな石が降ってきた。それを見ながら、リリスが空を指差した。
「あれ、ドラゴン?」
ひらひらと空を舞う赤い竜が巻き込まれて、慌てて離脱していく。
「噴火だ!」
「今度は何が原因だ」
騒がしくなった街の中で、ルシファーがちらりと足元のヤンを見る。両手で目をがっちりと覆ったフェンリルは、ゴメン寝スタイルで動かなかった。
「ピヨとアラエルがこっちへ向かってるみたい」
元凶の名を聞きたくないと、ヤンは耳まで塞いで丸まった。火口にいた鳳凰達は驚いて散り散りに飛んだらしく、それを追いかける魔王軍のドラゴンや幻獣が空を駆け回る。
お披露目どころではない騒動に、到着したばかりのアスタロトは門の前で溜め息をついた。
30
お気に入りに追加
4,927
あなたにおすすめの小説
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完結】虐げられた令嬢の復讐劇 〜聖女より格上の妖精の愛し子で竜王様の番は私です~
大福金
ファンタジー
10歳の時、床掃除をしている時に水で足を滑らせ前世の記憶を思い出した。侯爵家令嬢ルチア
8さいの時、急に現れた義母に義姉。
あれやこれやと気がついたら部屋は義姉に取られ屋根裏に。
侯爵家の娘なのに、使用人扱い。
お母様が生きていた時に大事にしてくれた。使用人たちは皆、義母が辞めさせた。
義母が連れてきた使用人達は私を義母と一緒になってこき使い私を馬鹿にする……
このままじゃ先の人生詰んでる。
私には
前世では25歳まで生きてた記憶がある!
義母や義姉!これからは思い通りにさせないんだから!
義母達にスカッとざまぁしたり
冒険の旅に出たり
主人公が妖精の愛し子だったり。
竜王の番だったり。
色々な無自覚チート能力発揮します。
竜王様との溺愛は後半第二章からになります。
※完結まで執筆済みです。(*´꒳`*)10万字程度。
※後半イチャイチャ多めです♡
※R18描写♡が入るシーンはタイトルに★マークをいれています。
【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。
112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。
目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。
死にたくない。あんな最期になりたくない。
そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる