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63章 温泉から始まる視察旅行
861. 温泉好きでも強制転移はちょっと
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到着するなり、硫黄の匂いが漂ってくる。温泉地のど真ん中に降りると囲まれて動けなくなるため、街から少し離れた屋敷に降り立った。ここはルシファー所有の別宅のひとつであり、また、大公女やベルゼビュートと不本意な混浴をしてしまった噂の屋敷である。
「懐かしいわ。前みたいに皆でお風呂に入りましょうね」
無邪気に喜ぶリリスには申し訳ないが、それは無理だ。遠慮どころか拒否したい。風呂で凍る羽目になるのはわかりきった未来で、どう回避するかがルシファーの腕の見せ所だった。
「リリスは彼女達と入ったらいい」
「ルシファーは?」
「男同士でちょっと話がある」
ふーんと目を瞬かせるリリスの後ろで、世話焼きに来た侍女達がそわそわしている。最近アンナ嬢が流行らせた本が原因だと知る者はいなかった。
温泉地を領地とするデカラビア子爵家に屋敷の管理を依頼しているため、隅々まで掃除が行き届いている。こういった別宅は地元の貴族に資金を渡して、地元の魔族を雇って掃除を依頼するのが通例だった。雇用促進と魔王の個人資産を世に流通させる目的がある。
巨額の個人資産をもつルシファーや大公が積極的に金を使わないと、世の流通が滞ってくる。リリスが持つ魔法の飴の小瓶は、現在イフリートが在庫管理をしており、管理費と在庫代もルシファーの私費から賄われた。
お飾りやドレスの新調は、新たな流行を作り出す。貴族が積極的に金を使い、身の回りの支度を整えたり公共事業を行えば、それだけ民に金が降りてくる。さらに流行が街を席捲すれば、人々はこぞって新しい流行に飛びつき物が売れた。新しい技術やデザインが民に広まることは、歓迎すべき事態だ。
今年の即位記念祭はリリスだけでなく、大公女のお披露目も行われた。その分だけ多くの貴族が家族を連れて集まり、城下町に金を落とす。リリスや少女達が使った金額は、ルシファー達の支度資金を5倍近く上回った。
しかし会計を担当するアスタロトが、苦言を呈することはない。ドレスを作ればアラクネに金が落ち、彼女達が新しいビーズや蚕の餌、日用品を購入することで消費された。お飾りを作ったスプリガンも同様に、得た金は早い段階で道具や日用品の購入で市民に還元される。
魔族にとって金は貯めるものではなく使うもの。足りなくなれば、また仕事をして得ればいいのだ。一部金貨や宝石をため込むドラゴン種が存在するが、彼ら以外の種族は金に執着しなかった。
この頃は異世界の知識をアンナやイザヤが流すため、娯楽小説や詳細な絵本の類が広まっている。アベルが温泉地へ行くと口にしたところ、羨ましがられたという。彼女達を招待するのもいいかもしれない。主にリリスの目を逸らす意味で価値がありそうだった。
「リリス。アンナとイザヤは温泉好きだと聞いた。呼んでみたらどうだろう」
にっこりと笑顔で提案すると、リリスは嬉しそうに手を叩いて喜んだ。まだ2人っきりより、大勢で騒ぐ方が楽しい年代である。お友達とのお泊り会と判断したリリスは、無造作に魔力を放つ。
「あ、まだ許可が」
「「え?」」
アンナとイザヤを魔力で特定して転移させたリリスは、笑顔で2人に向き直った。アンナは野菜が入った小さな鍋を手にしており、イザヤは自主練習中だったのか木刀片手だ。突然景色が変わったことに驚く彼らに、リリスは満面の笑みで言い放つ。
「温泉好きでしょう? みんなと泊まりましょう! 性教育の時のお泊り会みたいで楽しいわ」
浮かれた魔王妃の発言の後ろで、魔王ルシファーが両手を合わせて拝んでいる。どうやら申し訳ないと謝罪の意思を示しているようだ。自由気まま、思い立ったらすぐ行動のお姫様に向き直り、アンナは肩を竦めた。
「そうですわね。何か服を買っていただけるなら構いませんわ」
「ああ、なるほど。俺も着替えがない」
アンナ、イザヤの返答にルシファーが場を締めた。
「ひとまず部屋を割り当てるから、身軽な恰好に着替えて出かけるぞ」
***************************************
6/19より公開しました新作です!
『聖女と結婚ですか? どうぞご自由に』
公爵令嬢アゼリアは、婚約者である王太子ヨーゼフに婚約破棄を突きつけられた。
理由は聖女エルザと結婚するためだという。人々の視線が集まる夜会でやらかした王太子に、彼女は満面の笑みで婚約関係を解消した。
王太子殿下――あなたが選んだ聖女様の意味をご存知なの? 美しいアゼリアを手放したことで、国は傾いていくが、王太子はいつ己の失態に気づけるのか。自由に羽ばたくアゼリアは、魔王の溺愛の中で幸せを掴む!
頭のゆるい王太子をぎゃふんと言わせる「ざまぁ」展開ありの、ハッピーエンド。
「懐かしいわ。前みたいに皆でお風呂に入りましょうね」
無邪気に喜ぶリリスには申し訳ないが、それは無理だ。遠慮どころか拒否したい。風呂で凍る羽目になるのはわかりきった未来で、どう回避するかがルシファーの腕の見せ所だった。
「リリスは彼女達と入ったらいい」
「ルシファーは?」
「男同士でちょっと話がある」
ふーんと目を瞬かせるリリスの後ろで、世話焼きに来た侍女達がそわそわしている。最近アンナ嬢が流行らせた本が原因だと知る者はいなかった。
温泉地を領地とするデカラビア子爵家に屋敷の管理を依頼しているため、隅々まで掃除が行き届いている。こういった別宅は地元の貴族に資金を渡して、地元の魔族を雇って掃除を依頼するのが通例だった。雇用促進と魔王の個人資産を世に流通させる目的がある。
巨額の個人資産をもつルシファーや大公が積極的に金を使わないと、世の流通が滞ってくる。リリスが持つ魔法の飴の小瓶は、現在イフリートが在庫管理をしており、管理費と在庫代もルシファーの私費から賄われた。
お飾りやドレスの新調は、新たな流行を作り出す。貴族が積極的に金を使い、身の回りの支度を整えたり公共事業を行えば、それだけ民に金が降りてくる。さらに流行が街を席捲すれば、人々はこぞって新しい流行に飛びつき物が売れた。新しい技術やデザインが民に広まることは、歓迎すべき事態だ。
今年の即位記念祭はリリスだけでなく、大公女のお披露目も行われた。その分だけ多くの貴族が家族を連れて集まり、城下町に金を落とす。リリスや少女達が使った金額は、ルシファー達の支度資金を5倍近く上回った。
しかし会計を担当するアスタロトが、苦言を呈することはない。ドレスを作ればアラクネに金が落ち、彼女達が新しいビーズや蚕の餌、日用品を購入することで消費された。お飾りを作ったスプリガンも同様に、得た金は早い段階で道具や日用品の購入で市民に還元される。
魔族にとって金は貯めるものではなく使うもの。足りなくなれば、また仕事をして得ればいいのだ。一部金貨や宝石をため込むドラゴン種が存在するが、彼ら以外の種族は金に執着しなかった。
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「リリス。アンナとイザヤは温泉好きだと聞いた。呼んでみたらどうだろう」
にっこりと笑顔で提案すると、リリスは嬉しそうに手を叩いて喜んだ。まだ2人っきりより、大勢で騒ぐ方が楽しい年代である。お友達とのお泊り会と判断したリリスは、無造作に魔力を放つ。
「あ、まだ許可が」
「「え?」」
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浮かれた魔王妃の発言の後ろで、魔王ルシファーが両手を合わせて拝んでいる。どうやら申し訳ないと謝罪の意思を示しているようだ。自由気まま、思い立ったらすぐ行動のお姫様に向き直り、アンナは肩を竦めた。
「そうですわね。何か服を買っていただけるなら構いませんわ」
「ああ、なるほど。俺も着替えがない」
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頭のゆるい王太子をぎゃふんと言わせる「ざまぁ」展開ありの、ハッピーエンド。
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