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62章 数十回目の魔王城襲撃騒動
856. まずオレの心配すべきだろ
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「陛下! 今度は何を仕出かしたんですか!!」
「アスタロト、そこはまずオレを心配するところだろう」
飛び込んできたアスタロトの叱責に、がくりと力が抜ける。強く反論できないのは、いつもやらかして迷惑をかけている自覚があるためだ。それでも心配位してもよいのではないか?
「ああ、すみません。ご無事なのは確実ですので」
にっこり笑って返され、それもそうかと納得した。常時展開する結界をすべて破って危害を加えられるとしたら、それは大公クラスの魔力量が必要だ。彼らが手加減なしで攻撃すれば、結界を破ることも可能だろう。しかし魔力感知にそれほどの魔力量を誇る敵が引っ掛からない以上、アスタロトの言い分も当然だった。
「まあ無事だけど……庭が無事じゃないぞ」
足早に部屋を横切るアスタロトが、ヤンの毛皮の上で欠伸をするリリスへ会釈する。通り抜けてルシファーのいるテラスに立った側近は、不機嫌さを示すように乱暴な仕草で髪をかき上げた。
「なんという無作法でしょうか」
「このテラスの手摺りにぶつかったらしい」
傷が残っていたと言いながら撫でる手摺りは、自動修復の魔法陣が作動している。すでに欠けは補われ、細い線傷が残る程度まで直った。魔王城に展開する結界は、それなりの強度がある。魔法に対する対策重視となっているため、物理攻撃には多少脆い部分があった。
今回のように大質量が空から落下する場合などが、それに該当する。見上げた空は青く、雲が風に押されて左から右へ流れていた。何かを落とす生き物や物体は見当たらない。
「魔王城を直接襲撃する事件としては、40897回目です。ただ城に直接危害を加えたのは85回目でしたね」
記憶力がいいアスタロトが言うのだから、間違いないだろう。数字の部分を流し、数十回程度なら少ないものだとルシファーは頷いた。結界にぶつかったり、上空を飛んだドラゴンが何か落としたりした事故を加えたら数倍になるだろうが、襲撃に限定すれば数は限られる。
陥没した庭の真ん中にいるのは、巨大な卵のようだった。形が歪で楕円形をしていないため、確証はない。毛細血管のような細い赤線が縦横無尽に走り、表面がごつごつした隕石もどきの表面は脈打っていた。
薄い膜なのか、中の生き物が動くのがわかる。放り投げられたのか、上空で捨てられたのか。どちらにしても迷惑な話だった。こんな場所に捨て子されても……そこでアスタロトがぎこちなくルシファーを振り返る。
「拾ってはいけませんよ」
「いや、オレが拾ったんじゃないぞ。向こうから勝手に来た」
「……リリス様の時と同じですね」
言われて、ルシファーは首を大きく横に振った。あんな巨大な化け物と愛らしい赤子だったリリスを同等に語るなど、アスタロトであっても見逃せない。
「全然違う。リリスは可愛かった」
「そうではなく……いえ、もういいです」
呆れ顔のアスタロトの左側、下の階からすたすたと近づく人影に気づいた。魔王軍の指揮官であるベールは、気負うことなく近づく。相手が何であろうと態度は変わらないのが頼もしい。見たことない生き物と思われる卵もどきを見上げ、ふわりと浮遊して観察を始めた。
「ベール、割るのは僕がやる!」
ルキフェルが駆け寄り、躊躇いなく卵もどきに手を触れた。よくみれば手のひらを竜化しており、最低限の防御は行っている。ベールも呆れ顔で結界を重ね掛けするが、特に注意はしなかった。新種でも既存の種族でも、調査は研究職であるルキフェルの管轄だ。
「ふーん、中身は意外と小さいね」
中の羊水らしき液体のレンズ効果で大きく見えるが、実際のサイズは半分程度だろうと判断したルキフェルが膜に爪を突き立てた。
「アスタロト、そこはまずオレを心配するところだろう」
飛び込んできたアスタロトの叱責に、がくりと力が抜ける。強く反論できないのは、いつもやらかして迷惑をかけている自覚があるためだ。それでも心配位してもよいのではないか?
「ああ、すみません。ご無事なのは確実ですので」
にっこり笑って返され、それもそうかと納得した。常時展開する結界をすべて破って危害を加えられるとしたら、それは大公クラスの魔力量が必要だ。彼らが手加減なしで攻撃すれば、結界を破ることも可能だろう。しかし魔力感知にそれほどの魔力量を誇る敵が引っ掛からない以上、アスタロトの言い分も当然だった。
「まあ無事だけど……庭が無事じゃないぞ」
足早に部屋を横切るアスタロトが、ヤンの毛皮の上で欠伸をするリリスへ会釈する。通り抜けてルシファーのいるテラスに立った側近は、不機嫌さを示すように乱暴な仕草で髪をかき上げた。
「なんという無作法でしょうか」
「このテラスの手摺りにぶつかったらしい」
傷が残っていたと言いながら撫でる手摺りは、自動修復の魔法陣が作動している。すでに欠けは補われ、細い線傷が残る程度まで直った。魔王城に展開する結界は、それなりの強度がある。魔法に対する対策重視となっているため、物理攻撃には多少脆い部分があった。
今回のように大質量が空から落下する場合などが、それに該当する。見上げた空は青く、雲が風に押されて左から右へ流れていた。何かを落とす生き物や物体は見当たらない。
「魔王城を直接襲撃する事件としては、40897回目です。ただ城に直接危害を加えたのは85回目でしたね」
記憶力がいいアスタロトが言うのだから、間違いないだろう。数字の部分を流し、数十回程度なら少ないものだとルシファーは頷いた。結界にぶつかったり、上空を飛んだドラゴンが何か落としたりした事故を加えたら数倍になるだろうが、襲撃に限定すれば数は限られる。
陥没した庭の真ん中にいるのは、巨大な卵のようだった。形が歪で楕円形をしていないため、確証はない。毛細血管のような細い赤線が縦横無尽に走り、表面がごつごつした隕石もどきの表面は脈打っていた。
薄い膜なのか、中の生き物が動くのがわかる。放り投げられたのか、上空で捨てられたのか。どちらにしても迷惑な話だった。こんな場所に捨て子されても……そこでアスタロトがぎこちなくルシファーを振り返る。
「拾ってはいけませんよ」
「いや、オレが拾ったんじゃないぞ。向こうから勝手に来た」
「……リリス様の時と同じですね」
言われて、ルシファーは首を大きく横に振った。あんな巨大な化け物と愛らしい赤子だったリリスを同等に語るなど、アスタロトであっても見逃せない。
「全然違う。リリスは可愛かった」
「そうではなく……いえ、もういいです」
呆れ顔のアスタロトの左側、下の階からすたすたと近づく人影に気づいた。魔王軍の指揮官であるベールは、気負うことなく近づく。相手が何であろうと態度は変わらないのが頼もしい。見たことない生き物と思われる卵もどきを見上げ、ふわりと浮遊して観察を始めた。
「ベール、割るのは僕がやる!」
ルキフェルが駆け寄り、躊躇いなく卵もどきに手を触れた。よくみれば手のひらを竜化しており、最低限の防御は行っている。ベールも呆れ顔で結界を重ね掛けするが、特に注意はしなかった。新種でも既存の種族でも、調査は研究職であるルキフェルの管轄だ。
「ふーん、中身は意外と小さいね」
中の羊水らしき液体のレンズ効果で大きく見えるが、実際のサイズは半分程度だろうと判断したルキフェルが膜に爪を突き立てた。
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